(映画館)(ざわざわざわ・・・)


男「どうだった?」
女「うん。面白かったけど・・・」
男「けど?」
女「な~んか説明が足りなかったような気がする~。よく分かんなかった。何であの女、最後まで自分の気持ち伝えなかったのかしら?それにあの男も、ホントはどうしたいのか全然分かんなかったし」
男「だって、そこまで説明しちゃったら映画にならなくなっちゃうだろ?」
女「でも・・・分かんないんだも~ん・・・」
男「まいっか。食事でもして帰る?」



女「ね?どうしてリョウ君は私と付き合ってるの?」
男「え?ん~、好きだからじゃない?」
女「どうして好きなの?」
男「どうしてかなぁ~、気が合うから?それに・・・一緒にいて楽しいし~」
女「どうして気が合うの?ねぇどうして私と一緒だと楽しいの?」
男「う~ん、フィーリングってヤツじゃない?何となくそういう事ってあるだろ?」
女「ぅ~ん・・・、わかんな~い。何となくってどういうの?」
男「何となくは何となくだよ~、それ以上説明できないよ・・・」
女「ねぇ、分かるように言って!」


男(また始まった・・・。僕はこの女ともう10年も付き合っている。3年前、別れたいと言ったら、『どうして?』とただ一言だけ遺書を残して・・・彼女は自殺した。彼女は何処までも僕を追いかけてくる。殺すことさえできない・・・もぅ疲れた・・・)


女「ねぇ、リョウく~ん、どうして黙っちゃうの?」
男「・・・黙りたいから」
女「ぇ?どうして黙りたいの?」
男「疲れたから」
女「どうして疲れたのー?」
男「帰るぞ!」
女「待ってよ、リョウ君~」



男(僕はその夜、一人で深酒をして、便所の中で首を吊って死んだ。・・・気づいた時は雲の上で、誰かの膝枕に寝ていた・・・。僕は、何かの声で目を覚ました)


女「リョウ君、やっとこっちの世界に来てくれたんだね。ねぇどうしてあの時、私と別れるなんて言ったの?ねぇ、どうして・・・。ねぇリョウ君、どうして~?」



イイジマタカコ作「聞きたがり」
出演 入江崇史・雨蘭咲木子