「夜市」という小説を読んだ。
恒川光太郎という人の作品だ。
少し奇妙な大人のための寓話のような印象を抱いた。
恐ろしい話でもあったが
とても綺麗な美しいお話でもあった。
「夜市」というのは
妖怪たちが
様々なものを売る不思議な市場だ。
望むものはなんでも手に入る。
しかし、何も買わなければ
夜市から出ることはできない。
品物への代金は膨大に高く
その代金は「お金」とは限らない。
何かを代償に何かを手に入れる。
その点においては
私たちの住んでいる世界とも似ているのだ。
その選択は私たち個人にゆだねられているのだ。
裕司という少年が買ったもの。
それは「野球の才能」だった、
幼い自分の弟と引き換えに買ったのだ。
裕司はその罪悪感を抱き続け、
ある行動を選択する。
夜市の描写は
とても不気味だが
同時に不思議な魅力に満ちていて
魔が差すときの白い光のようにも
思えて
もしその場所に出会ってしまったら
すっとひきこまれるように
そこに足を止めてしまいそうになる。
もしかしたら
私たちも人生の色々な岐路で
「希望」や「自由」やこの世で
得たいと思えるありとあらゆる「欲望」を
何かと引き換えに
買おうとしているのかもしれない。
「夜市」に出会っているのかもしれない。
もちろん
肉眼では見えないし
形は違うかもしれないが・・。
そして
「これは自分の欲しかったものではない」
と嘆いてみたり
取り返しのつかなさを
感じてみたりしているのかもしれない。