少し前のことになるけど

Eテレ「趣味どきっ!源氏物語の女君たち」で

最終回は

晩年の紫の上についてが

主なテーマだった。

光源氏に一番愛された紫の上は

源氏の庇護のもと

理想の女性へと成熟していくのだが

その人生は

なかなかにハードで

緊張や不安、葛藤の連続だった。

それは

主に源氏がいろいろな女性と浮名を流すからなのだが

番組でも矢作さんが指摘していたように

源氏は

ちょっと天然なところがあり

紫の上を実際の彼女の苦悩を

あまり理解していないというか

何をしても許されると思っている。

紫の上も源氏が四十をすぎ、さすがに

もう大丈夫と思って安心していた矢先に

女三宮の降嫁があり

ここで

あらためて

紫の上は自分の立ち位置の危うさに向き合うことになる。

つまり

「一番」愛されていると言ってもらうことは、

今、この瞬間だけで、うつろいやすく

自分は彼にとって唯一無二ではないということに

否応なく気づいてしまったのだ。

実は源氏にとって

紫の上は藤壺の形代ではなく

唯一無二だったとあとで気づくのだが

それを

実感できる前に彼女を

逝かせてしまったのだ。

では

紫の上は不幸だったのかというと

それも少し違うと今は思う。

昔、読んだときは

紫の上は一番不幸だったかもしれないと思っていた。

が今は

苦悩は多かったかもしれないけれど

その分落差で喜びも多かった人生だったのではないかとも思う。

自分の生きてきたこの道はもしかすると何か間違っていたかもと

思うこともあったかもしれないが

その道を通ってみないと

「間違っていたかも」と気づくこともなかったし、そもそも

この時代どの道を選ぶかという選択肢は女性にはなかった。

与えられた道を精一杯駆け抜けて

静かに

瞼を閉じる瞬間、

彼女は

すべてを許して、嫉妬も怒りも悲しみも昇華して、

あの世へ旅立ったと思いたい。