ムンバイのスラムにITはあるのか | takuyaのブログ

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山谷剛史の「アジアン・アイティー」:
 インドの商都ムンバイに、世界最安タブレットデバイス「Aakash」を求めて潜入したものの、空振りに終わった調査部隊。ムンバイの人たちは、やたらとフレンドリーに相手してくれた。後日、Aakashについて「100万台の予定だったが、いまのところは1万台のみの販売にとどまっている」と報道されていた。この報道を信ずるならば、1万台は販売されていることになる! どこ? どこにあるのかAakash! 捜し求めるべく、再度ムンバイの街をさまよう調査部隊であった。



 ムンバイといえば、インド映画の中では世界で知られている「スラムドッグミリオネア」の舞台だ。ムンバイの通勤は「近郊電車」が主役で、駅前には多くのビジネスマンが通勤のために集まってくる。駅には車の通行を邪魔しないようにペデストリアンデッキが設けられているが、ペデストリアンデッキを清潔な服を着たビジネスマンや大学生が行き交う一方で、ペデストリアンデッキから下を見下ろすと、そこには下町の庶民的な世界が隣接している。上を歩く人、下を歩く人は同じムンバイに住む者たちだが、彼らの世界はそれぞれに大きく異なる。

 ムンバイのスラムは、その住む人たちの属性を見ると、中国の「城中村」という期間工が集まる地域に似ている。英語はスラムでも通用する。しかし、コミュニケーションこそできるが、スラムの一人歩きはお勧めしない。「スラムドッグミリオネア」が世界中で上映されてから以降、スラムを散策するツアーがあるので、旅行企画会社に相談してみると安全を確保しつつ行けるのではないか。

 ムンバイのスラムにも“IT”はある。ペデストリアンデッキから見える家々の屋根には、そのほとんどにパラボラアンテナが載っている。夜になれば、スラムの家々で観ているテレビ画面の光がペデストリアンデッキからも見ることができる。ムンバイ近郊の駅には、駅の入口周辺から下町の商店街が広がっていて、15型ブラウン管テレビやメーカー不詳のフィーチャーフォンなどを扱う街の電器屋に携帯電話ショップ、それに、家電修理屋や「vodafone」「tata」などプリペイド契約携帯電話に通話料をチャージする店がある。

こうした店で扱うテレビで定番のブランドは「Videocon」や「Onida」といったインドメーカーだ。実売価格は15型モデルが日本円にして1万円弱(このエリアに住む人にとって、1万円は1カ月以上の給料と聞く)が相場だ。

 ムンバイだけでなく、インド全土的にいえることだが、この国では、「女性は家」という概念が強い。家を守る妻たちの娯楽には、映画や音楽、それに英国連邦らしく「クリケット」がメジャーだが、昼下がり、インドの妻たちに絶大な支持を受けいるのは、なんといってもテレビドラマだ。文字も読めない人が少なからずいるインドの昼下がり、手探りで携帯電話を操作しつつ、テレビドラマを見るのが典型的なライフスタイルという。

●中流でもデジタルガジェットを楽しむ余裕はない

 ムンバイの中流層が住むエリアは、「こ、こ、ここ、インドですか?」と驚くほどに閑静で、そのたたずまいは中国の中流層の住宅地によく似ている。中層高層のマンションが並び、その1階には薬局や銀行や小さなスーパーマーケットなどがテナントに入る。英語で学ぶ幼稚園もある。

 印刷やコピーなどを行うビジネスセンターもあれば、スラムになかったネットカフェも中流層が住むエリアには点在する。しかし、中流層が相手の携帯電話ショップで扱っているのは、依然としてフィーチャーフォンがメインだ。

 インドでFacebookを通じて知りあった、PCが趣味という個人の自宅を何軒か訪問する機会を得ることができた。ムンバイの典型的な個人住居は、「日本の団地サイズの居間、20型テレビ、ソファー」がそろう実用的な住まいだった。「中国では家族全員が居間に集まってテレビを観る習慣があるけど、インドではどうなの?」と聞けば「家族のそれぞれで(見る番組の)趣味が違うから」と口をそろえる。ベッドルームには、液晶テレビを置き、大学生の子どもがいる家庭では、ADSLモデムと有線で接続した古いノートPCを使っていた。インドでは、家族のだんらんより個人で楽しむ傾向が強い。

 ある家庭では、ADSLモデムを有線でつないだタワー型PCを個人で利用するおじさんが、歓迎代わりに「突然公衆の場で皆が一斉に踊り出す動画」で知られている「Flash Mob Mumbai」をYouTubeで再生してくれた。インド人は、(自分が踊れなくても)ダンスが好きだ。ムンバイで訪れた家庭では、PCでゲームを遊ぶユーザーに会わなかったが、FacebookやYouTubeはどの家庭でも利用している。そのため、動画をスムーズに再生できるハードウェアスペックとネットワークの回線速度はPC導入における最低条件という。

 訪れた家々は、それぞれ所得が異なっている。銀行に勤めるおじさんは、「親が家を買っていたから家に関してはそこに住めばいいので問題はないけれど、両親を養うのは大変だ。まともな病院に行くならお金がかかる。私でも生活に余裕はないよ」という彼は、ウォーターサーバーの巨大ボトルを指して「私ぐらいの収入があって、ようやくまともな水が飲める」と語った。

 インドの中流層は自炊が基本で、外食といっても1回100円(60ルピー)程度のチキンカレーや、駅の立ち食い食堂で買える20円のパンとカレーが精一杯だ。贅沢をして300円する高級店のカレーを食べに行くのは月に1度行く程度という。日本から来たゲストを300円カレー屋に連れて行っても、紹介した当人は愛妻弁当を取り出す。

 ムンバイの中流層は、収入のレベルにかかわらず、女性は家にいて、経済活動には関係しない(もっと分かりやすくいうと、“お金”に関係しない)慈善事業をしている。インドの中流層といっても、デジタルガジェットを買いそろえて楽しんでいる余裕はない。

 インドの大都市には、クーラーの効いたショッピングセンターが点在し、特に夜ともなれば人が集まる。ムンバイは、特にショッピングセンターが多く、ショッピングセンター内に「Croma」や「e-zone」といった家電量販店が点在し、ここでは液晶テレビが売られている。家電量販店というよりショールームのような高級な雰囲気で、デジタル家電、AV家電、白物家電などが並ぶ。そこで、家の大黒柱たるおじさんたちは、26型で2万3900ルピー(約4万5000円)もするSonyのBraviaや32型以下の液晶テレビを物色する一方、若きエリートのインド人グループは、20万ルピー(約38万円)を超える47型、55型のステレオ立体視テレビを品定めする。

 PCショップでは、タワー型のショップブランドPCもPCパーツもほとんど売られていない。その代わりに、AcerやHewlett-Packardをはじめとした多数の大手メーカー製ノートPCと液晶一体型PCが主流で、タブレットPCがわずかに売られている。店頭に並んでいたのは、HP、Lenovo、Acer、SonyのCore i3クラスのCPU搭載モデルで、実売価格は3万ルピー前後(約5万7000円)が多い。テレビなら、ハイスペックでハイプライスな製品も売れるが、PCとなると、ハイスペックすぎる製品は扱っていないという、ムンバイのPC事情だった。

追伸:結局、1万台を販売したというAakashを見かけることはなかった。

[山谷剛史,ITmedia]
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