しましたか?」
「いや、チーフ、何でもないんだ。ちょっと思い出し
た事があってね・・イヤな思い出さ・・・」
たくぼんはACFから届けられた、真新しいタイヤを見なが
ら昔の事を思い出していた・・・
とあるサーキット・・・
降りしきる雨の中、壮絶な予選が繰り広げられている・・・
コンマ1秒を削るために、ライダーは命までも削りそうだ。
そんな中に若かりし頃のたくぼんはいた。
マシンのセッティングは完璧である。プライベートライダー
の中ではトップタイムに近い。
だが。この雨の中でワークスライダーたちはものすごいタイ
ムを出しているのだ・・・
その違いはタイヤといって良いだろう。タイヤメーカーはワ
ークスチームにそれだけ性能の良いタイヤを持ち込んでいる。
プライベーターたちは市販されているタイヤを使うしかない。
残り15分・・・たくぼんはラストアタックをかけるべくコース
へとマシンを走らせる。
だが、タイムは伸びなかった。予選が終了する。
決勝も雨であった。プライベーターたちは必死になってワー
スライダーたちを追いかける。だが終わってみれば、やはり
ワークス勢が完全に上位を占めていた・・・・・
たくぼんは、そんな昔の事を懐かしく思い出していた。
天候のせいで、エンジンパワーに差がなくなるとはいえ、タ
イヤで差が付くとは・・・
あの頃はそんなにタイヤを選べなかったなと・・・
たくぼんはKXSRに履かせるタイヤで悩んでいた。
プロトタイプのKSRにはダンロップのTT92を選んだ。
いまではTT93がある。BSのバトラックスも捨てがたい。
だが、あえてこのタイヤを選んでみた。
IRCのMBR750である。このタイヤのほうが、他のタイヤ
よりも、ほんの少しではあるが、暖まりが速い。
そして雨のコントロール性はTT92よりも多少は良さそうで
ある。タイヤのグルービングパターンがそれを物語っている
かのようだ。



遠い世界へと旅立っているたくぼん監督にチーフが声をかけてくる。
「監督、タイヤ交換を始めてもいいんですか?」
つづく