この回では、離婚に関する基礎知識について触れます。
基礎知識といっても、大まかな枠組みを紹介するだけなので、個別の項目(婚姻費用、財産分与、面会交流、養育費等)に関する基礎知識は、それぞれの項目の回をご覧下さい。

1 法律上の離婚原因
民法は、次の5つの場合に離婚を求めることができるとしています。
1 不貞行為があったとき
2 悪意の遺棄があったとき
3 3年以上生死不明であるとき
4 強度の精神病にかかったとき
5 1〜4のほか婚姻を継続し難い重大な事由があったとき

このように、民法は、離婚を求めることができる場合を限定して定めています。
そして、上記1から4の場合とは、「まぁそれは夫婦生活を続けていくのは難しいよね」と誰しもが思うような事由にあたります。
そうであるのに、上記1から4が認められる場合であっても、裁判所は離婚を認めないことができると定めています(民法770条2項)。

これらの定めからすれば、法律上は、離婚は例外的な場合に限定されおり、よっぽどのことがない限り、離婚できないと解釈されそうです。

では、現実はどうでしょうか。

現実に離婚を求める場合の多くは、性格があわない、性的にあわない、家族との折り合いが悪い、精神的にいじめられる、浪費する等であり、これらはいずれも上記1〜4にあたらず、上記5にあたるとして主張されます。

理屈的には、上記5についても、上記1から4に匹敵するような、誰もが「それは夫婦生活を続けていくのは難しいよね」と思えるような場合に至らなければ離婚はできない、となりそうです。

しかし、現実にはほぼ90パーセント程度の割合で、離婚が成立しています。

そうなるのは、ある意味、男性側にとって、離婚原因を争って離婚を成立させないことが経済的にみて合理性がないことと、離婚についての争い自体がストレスであることによると考えられます。

つまり、仮に離婚に争って勝ったとします。
しかし、それによって別居状態が解消されるわけではありません。
したがって、別居中の生活費である婚姻費用は発生し続けます。
一般に、婚姻費用は、離婚が認められた後に発生する養育費より高額です。
そして、一定期間別居状態が継続すれば、それが新しい離婚事由となって離婚が認められる可能性が高くなります。
そうすると、結局、離婚するという結論が一緒ならば、それを先送りにしない方が、婚姻費用と養育費の差額×離婚までの月数分、経済的には得になるのです。
そして、この額は、割とバカにならない額に及ぶことが一般です。

そして、はじめの記事で述べたように、離婚の争いはストレスです。
離婚原因について争った場合、ほぼ間違いなく調停→訴訟という帰趨をたどります。
そして、これにかかる期間は、優に2年前後となります。
2年もの間、強烈なストレスに耐えうる人は極めて稀です。
さらに、離婚を争って仮に勝ったとしても、上述のように、時を経て離婚に関する争いが再開される可能性が残ります。
したがって、このようなストレスから早期に解放されるため、離婚に応じることが合理性を有する場合があります。

このような理由から、はっきりとした離婚原因がないにもかかわらず、多くの場合において離婚が成立していると考えられます。

2 決めなければならないこと
離婚にあたって決めなければならないことは大きく分けて2つあり、夫婦に関することと、子どもに関することです。
(夫婦にかんすること)
夫婦に関することとして、まず決めなければいけないのは、離婚するかどうか、です。

離婚しないと決めた場合、離婚を争い続けるというほかありません。

これに対して、とりあえず離婚することを決めた場合、次に考えなければいけないのは、次の3つです。
・財産をどう分けるか(財産分与)
・厚生年金である場合積み立てきた年金を分割する割合をどうするか(年金分割)
・慰謝料をどうするか(離婚慰謝料)

このうち財産分与と年金分割は、割合の話で、要はお互いが自分の取り分を多くするための取り合いの話です。

もっとも、年金分割は多くの場合0.5:0.5つまり平等に分けられ、財産分与も基本的には1:1で平等に分けるべきとされています。

ただし、年金分割において分割すべき範囲は形式的に決められますが、財産分与においては分割すべき範囲がそもそも争いになることがあります。
この点については、別の回で解説します。

離婚慰謝料は、多くの場合、財産分与とあわせて調整項目のような役割を果たします。
つまり、それ単独で幾らと決めるより、財産分与とあわせて全体として幾らが妥当かという話になることが一般です。

(子どもに関すること)
次に決めなければいけないこととして、子どもに関することがあります。
子どもに関することで決めなければいけないのは、次の3つです。
・誰が親権者になるか
・面会交流をどのように行うか
・養育費をどうするか

まず、親権者についてですが、学問上、親権というのは、大きく、実際に子どもを監護養育する監護権と、子どもに代わって意思決定をする権利である狭義の親権とに分類されるとされます。

日本の制度は、婚姻期間中は夫婦が共同で親権を行使する共同親権ですが、離婚後は夫婦のどちらかを親権者として定めなければいけない単独親権という制度を採用しています。
なお、ここでいう親権は、上記のうち狭義の親権をいいます。

近年、単独親権が批判されることがあり、それは親権を巡る紛争が単独親権がゆえに生じるからだという理由によることが多いですが、離婚後も共同親権という制度をとったとしても、子どもの身体は1つですから、どちらが主たる監護権者となるかという問題は残されます。
そして、親権を巡る争いは、実質的には、どちらが主たる監護権者となるかという争いであるため、共同親権としても問題の抜本的な解決にならないと考えられます。

以上が親権に関する理屈的な話ですが、子どもが幼い場合、よっぽどのことがない限り、親権者は母である妻と定められることが実際です。

これは、子どもを育てるのは母親という古い考え方を反映したものともいえますが、実際、男性が働きながら幼い子どもを育てるのは、今の社会では極めて困難です。
また、母である妻が子どもを育てるのは経済的に難しいのではないかと思われますが、これは養育費の支払いによってカバーすべき問題と考えられています。
さらに、昔は、妥協的に、狭義の親権者は父である夫、実際の監護権者は母である妻と定めることもありましたが、近年は、狭義の親権者と実際の監護権者が異なるのは不便だということで、そのような定め方はしないことが一般です。

これらのことから、子どもが幼ければ幼いほど、父である夫が親権者となることは極めて困難であり、子どもが小学校を卒業するころまでは、よっぽどの事情がない限り、殆ど不可能と考えても差し支えないものです。

そうなると、次は、子どもと会える機会をどうするかという問題、面会交流をどうするかという問題となります。

これは後に個別の回を設けて触れますが、家庭裁判所では、概ね、1ヶ月に1回、2時間程度という運用が一般です。
この問題点等については、個別の回で触れます。

最後に、養育費についてですが、これは養育費算定表という便利な表があり、また、インターネット等でも、お互いの収入を入れるだけで養育費の額が算出される便利なサイトがあります。
そして、概ね、算定表やこれらのサイトによって計算されたとおりの結果となることが一般です。

以上の夫婦に関することと子どもに関することについて合意が成立すれば、晴れて円満な離婚が成立します。

3 離婚の手続き
離婚に際して決めなければいけないことは以上のとおりで、これらをまずは当事者間の話し合いで決めようとします。

それでも折り合いがつかない場合、次に、家庭裁判所という施設における調停という制度を利用して、上記のことを話し合わなければなりません。

それでも折り合いがつかない場合、同じく家庭裁判所における離婚訴訟に至ることとなります。

調停も訴訟も家庭裁判所における手続きという意味では同じですが、調停はあくまで話し合いなので、どれだけ不合理であっても、どちらかがノーといえば強制的に離婚に至ることはありません。

たとえば、奥さんが浮気をしたので離婚したいと調停を起こしたとしても、奥さんが嫌ですといえば離婚できません。逆も同じです。

これに対して裁判は、どちらかが嫌だといっても、強制的に離婚させることができ、また、その他の離婚条件も強制的に決められます。

このように、強制力があるかないかが、調停と訴訟との大きな違いといえます。

4 まとめ
以上、ざっと、離婚に関する大まかな枠組みを紹介しました。
これだけでも、いかに離婚が大変な作業かということが実感されたのではないかと思います。

これからは、個別の条件について解説していく予定です。
以降もよろしくお願いします。