●製品名:スーパーアスリート クロノ100

     クロノダッシュ

●メーカー:ミズノ

●定価:\22,000

●キーワード:100m専用(直線専用)、固定ピン、支え台

 

1995年の12月号の陸マガに衝撃的な構造のスパイクの広告が載ってました。

それが今回取扱いの「スーパーアスリート クロノ100」、のちに「クロノダッシュ」と名称が変更されたスパイクです。

見ての通り、ハイヒールのような構造で、履くと勝手に前のめり(前傾姿勢)になります。ピン配列も5本しかないのは当時驚きでした。アシックスはルールで可能な11本のピンをどう配置するか?を当時考えていたので、5本でいいの?と思わされたものでした(今はピンレススパイクが出たり、余計なピンはブレーキにつながるという考えだと思いますが)。それまで硬化プラスチックの耐久性の低い固定ピンスパイクは見てきましたが、メタル素材とは言え固定ピン=交換不可なのものを投入してきたのも興味深かったです。

 

これはカール・ルイスの衰えがいよいよ顕在化した1995年ころ、ミズノが米国のデニス・ミッチェルとテストしながら作られたスパイクだったようです。

本スパイクは「CAD」というシステムでピン配列、ソールの構造をシミュレーションし設計されたそうですが初見ではデニス・ミッチェルも「こんなの履けねー」と戸惑いを隠せなかったそうです。しかし、実際に履いてみると自然と足が前に運ぶ。彼も納得し、現役時代愛した一足になったようです。

 

本スパイクは進む方向を正面に特化しており、「100m専用」とか「直線専用」とか銘打った珍しい一足でした(高校陸上の県大会では、4継のカーブで履いている人もいましたが)。

実際に履いてみると、ソール構造から自然と前足部に重心が傾き、腹筋が張るような姿勢となります。走ると自然に乗り込み動作が出来、効率的に直線を走れました。

世界大会にも出場したとある海外選手は「このスパイクは予選では履けないね。なぜならスピードが出過ぎてしまう(流すことができない)から」、とミズノ関係者にコメントしていたそうです。価値が認められた最大級の誉め言葉ですよね。

国内選手では当時、朝原宜治さんはナイキ、伊東浩司さんがアシックスであり、かつミズノから1年後にリリースされた「クロノインクス」が400mまで走れる汎用性があったせいか、このスパイクでの大記録樹立はあまりなかったように思いますが、トラック史にインパクトを残した一足だと思います。

 

↓2002年のクロノダッシュTC

↓1998年のアシックスのサイバーゼロと。2002年にはサイバーゼロも2代目なので

 同時期のスパイクではないですけど、アシックスがフラット、ミズノはこの

 すごい傾斜。対極的ですよね。

↓この一足のインパクトはこの「支え台」構造ですかね。

 いつしかそう呼ばれるようになっていたこのパーツが自然と前傾に

 してくれます

↓1997年デビューの初代クロノインクスと比較。

 インクスの方がおとなしいですが、コンセプトは近いです。

↓クロノダッシュ(右)は5本品。インクスは7本品で配列も違います。

↓インクスはかかとにクッションも入ってます。

 ダッシュにはそんなやわなもの入ってません!

 

↓2022年、ランニングシューズ界が厚底主流になる中、ミズノが投じた「Wave  Duel Pro」は「クロノダッシュ」のDNAを感じ、同世代のマニアと一緒に喜んだ? 

 ものです。誰か超一流にこのシューズを履いてもらい、長距離でのこの構造の価値

 を実証してもらいたいなあ。。

 

 

↓しかし、実は元祖ハイヒールスパイクは1990年初頭には発売されていた

 アディダスの「アクセレーター」かもしれません。

 (1992年5月号の陸マガより。だとしたらさすがアディダス。)

 これは履いたことがないけど、中~後足部に支え台構造があるので

 重心はダッシュよりは残っており、マイルドな傾斜だったのだと思います。

↓余談ですがアクセレーターはお買い求めやすい価格で1996年に

 再登場しました。

 

また、これも余談ですが、デニス・ミッチェルが「クロノ100」のデモシューズを試しに来日したのは1995年1月で関西大震災とタイミングが重なったそうです。ミズノ関係者もこのタイミングでちゃんとテスト出来るかなどなど、ハラハラだったそうです。

ミズノの開発担当の方、大変ご苦労様でした。

(ここまで読んでくださった方もありがとうございました)