今日は新しい本を借りてきました。写経します。
1 産業組織論とは
産業組織論
企業の重要な意思決定は、株主総会、取締役会、監査役会といった機関で行われ、日常の企業の活動は代表取締役等の役員、部課長といった役職者、その他の従業員によって行われる。こうした機関や従業員がどのようなものであるか、またあるべきか、といったことは、企業が利潤を追求するうえでも、また社会的責任を果たすうえでも、重要な企業内部の組織の問題である。こうした企業の組織の問題は、産業組織論の創始者の1人であるアルフレッド・マーシャル以来、産業組織論のテーマの1つに取り上げられてきたものである。しかし、こうした問題は、経営学の諸科目や法学(会社法など)の主要課題でもあり、経済学でも企業経済学、組織の経済学、契約の経済学、あるいは金融・ファイナンスといった分野で扱われている。
産業組織論が他の分野と比べて特徴をなすのは、企業の内部の組織だけではなく産業の内部の組織、言い換えると、産業における企業間の関係が主要な課題となっていることである。そして産業の組織は、企業の垂直的な関係と水平的な関係に大きく分けて考えることができる。
企業の垂直的な関係とは、ある財・サービスが原材料から最終製品として供給され、消費者に需要されるまでの幾多の生産と流通の段階的な取引における、異なる段階に属する企業間の関係である。自動車産業では、原材料や部品の生産から組立といった生産段階、販売会社・店舗の流通段階を経て消費者の手元に届く。このような企業の垂直的な取引関係において、第1に、どの取引を企業内部で行い、どの取引で他企業を利用する(市場を使う)のかという組織と市場の選択を解明し、そしてそれを社会はどのように評価するのかが産業組織論の1つの課題である。たとえば、自動車組立メーカーは、部品を自社の組織で生産してもよいし、部品会社から購入してもよく、部品をつくるか購入するかはメーカーにとって決定すべき重要な問題である。
第2に、垂直的な取引で市場を使う場合に、売手と買手がどのような行動をとりどのような取引が行われるのか、また、それが社会にとってどのように評価されるのかを考察することも産業組織論の課題である。垂直的な企業間の関係はさまざまであり、たとえば、日本の自動車メーカーは系列の部品サプライヤーと部品の開発段階から協力し、長期的な関係の下で取引を行っているという特徴がある。これに対し、アメリカでは、かつてGMやフォードは自社内で部品の内製部門を保有していたが、2000年頃から部品会社を独立させたという点で対照的である。
こうした中で、とりわけ、垂直的取引制限と呼ばれる。川上企業による川上企業の事業活動の拘束は、垂直的な取引関係における重要な課題である。たとえば、流通経路について見ると、通常の小売店は卸売店から複数のメーカー品を仕入れて販売するが、自動車の販売は、各メーカーが各地域に系列の販売店網をもっており、販売品は特定メーカーの製品のみを扱う。系列化はメーカーが販売品に協力したり、各販売品のサービスや営業努力を引き出したりするうえで有効な半面、多くの販売品が複数のメーカーの製品を扱う場合と比べて販売店間での価格競争の圧力が弱くなる。また、日米貿易摩擦でアメリカからクレームが出たように、販売店網をもたない海外の自動車メーカーが国内に新規参入しようとした場合に大きなハンディキャップとなり、メーカー間の競争圧力が低下するという問題もある。
次に、垂直的な取引段階の1つ、たとえば、自動車のボディに用いる鋼板の取引を取り出すと、それは自動車用鋼板の市場となる。この場合の売手は鉄鋼メーカー、買手は自動車メーカーである。企業の水平的な関係とは、この市場において売手企業間や買手企業間でどのような行動がとわれ、市場でどのような取引が行われているのかということである。たとえば、売手と買手のトップ企業(たとえば新日鉄とトヨタ)が価格について交渉(チャンピオン交渉)し、他の売手と買手はその条件にならって取引を行う場合もあれば、買手が入札を行って売手との条件を決める場合もある。また、買手が多数の売手から購入することもあれば、少数の売手に絞って購入する場合もある。
一般に買手の数に比して売手の数が少ないときには、売手に価格や取引条件への影響力が生じる。また、そうした市場への影響力を求めて企業が協調行為やライバル企業の排除行為、あるいは、合併・買収などを行おうとすることがある。競争均衡では利潤がゼロとなるので、企業は制の利潤を得るべく努力するのだが、どのような行為を正当とし、どのような行為を違法とするが、またどのような状況で違法な行為が行われやすいかといったことを考察するのが、産業組織論において重要な課題である。
このように、企業の垂直的な関係や水平的な関係を明らかにしたうえで、社会的に問題があれば何らかの対策を考えることが必要である。産業組織論では、企業が利潤を最大化するためにどのような行動をとるべきか分析するとともに、そうした行動が社会全体の経済厚生を損なわないかを検討する。もし経済厚生が不満足なものであれば、政府による産業への介入の是非や介入の手段、すなわち産業に対する公共政策が産業組織論の重要な課題となる。