ゲイリー・オールドマンがアカデミー主演男優賞を受賞した。
彼と共演したのはもう9年も前。
「レインフォール」という日豪米合作映画でのことだった。
ゲイリー(オールドマンは省略)が日本のどこかにある、いるであろうCIAのボス、僕がCIAグラウンド・ユニットのリーダー、清水美砂さんが本部リーダーの役どころだった。
裏では気さくな彼も、いざカメラが回ると、彼がいるだけで場が凍りつくほどに引き締まった。
彼の一言一言を聞き逃すまいと、僕はとにかく彼に食らいついていったのを覚えている。
僕が大きなミスを犯し、それをゲイリーが叱責し、それに対して僕が言い返すというシーンがあった。
台本上では電話で怒られると言うシーンだったのだが、ゲイリーが監督に、”直接ではどうか?”と掛け合い、
僕は至近距離で彼に怒られる羽目になった。
リハーサルをしていると、ゲイリーが
”せっかくだから即興でやっちゃおうぜ”
と僕に耳打ちした。
僕はテレフォントーキング(「もしもし〜」、と誰かが言ってから、「もしもし〜」、という日本風なやり方)が嫌だったので、即座に親指を縦に出した。
だが、追い込まれたのは僕だ。
何を言ってくるかわからないし、セリフは英語だ。
Oh my god...
”やるしかない!”
僕は腹をくくって本番を待った。
するとゲイリーは本番前、いきなり壁を蹴りだす。
おそらく自分の怒りを増幅するためだったのだろう。
僕も負けずに壁やドアにパンチ&キック。
人間やればできるものだ。
結局カメラ位置の関係などで5回ほどシーンを繰り返したのだが、NGは無し。
ゲイリーの至近距離のツバ攻撃にも目をつむらずにやりきることができた。
そして、監督からオーケーが出ると、ゲイリーは僕に
「We nailed it! (やってやったぜ俺たち!)」
と言って握手をした。
アドレナリンが出ていたのだろう。僕は彼に「You did great(おめえよかったぜ)」みたいなことを言ったのを覚えている。
だが・・・、試写を見てびっくり。
そのシーンはアクシデントなのか演出なのか、ピントがボケボケで、シルエット的に存在する感じになっていた。
とはいえ、それからというものゲイリーは自分のトレイラーハウス(ハリウッドではロケの場合、メインのキャラクターにキャンピングカーのような楽屋が与えられる)に僕を呼んで、色々な話をしてくれた。
シド&ナンシーの時のこと
レオンの時のこと
フィフス・エレメントの時のこと
バットマンシリーズのこと
僕はゲイリーがもちろん”特別な”人であるとわかっていたし、現場で馴れ馴れしくするのはどうなのかという逡巡はあったけれど、彼はそんなことを全く感じさせずに、僕のタバコを吸いながら、リラックスしてくれているようだった。
そして撮影が終わった時、「また会おうぜ!」と言って、ハグをしてくれた。
その彼が、アカデミー主演男優賞。
僕にはもう、言葉さえ思いつかないけれど、
Congratulations Gary!
You are my Hero!
I will see you again and work with you in the near future!