あらすじ
突如として教室に現れたワームホールによって二組の生徒たちは異世界に飛ばされてしまう。
そこには巨大なゴーレムがいて、それに追い回された生徒たちは命からがら逃げ切ることができるも数人ずつに分断されてしまう。
その中でスバル達は少女型ゴーレムであるパンタグリュエルに出会う。
スバル達はパンタグリュエルの住処に行き、彼女にこの世界についての話を聞くが元の世界への帰り方は知らないという。
スバル達は散り散りになった仲間を探しつつ、元の世界に帰るために情報を集める。
順調に事が進んでいくがパンタグリュエルの顔色が優れない。
どんな困難も逃げずに立ち向かっていくスバル達を見てパンタグリュエルも嘘を吐くという“逃げ”をやめる。
パンタグリュエルが元の世界へと帰る鍵であると判明する。
この世界には元々人がいなくて、パンタグリュエルは出会った人たちと別れて独りになりたくないから元の世界への帰り方を知らないと嘘を付いていたことを反省する。
パンタグリュエルは独りになりたくないという欲望を振り切り、自らを犠牲にしてスバル達を元の世界に帰す決意をする。
パンタグリュエルを犠牲にしてしまうことに対する葛藤もあったが、彼女の覚悟を無駄にするべきではないと全員が覚悟を決める。
スバル達は元の世界に帰る為に障害となる巨大ゴーレムに協力して挑む。
パンタグリュエルは自らが巨大ゴーレムに取り込まれることで、スバル達は元の世界に帰ることができた。
感想
嘘にはニ種類ある。
自分の保身のための嘘か、あるいは他人の思いやりのための嘘か。
一般的に前者は悪で、後者は善であると言える。
本作に登場する少女型ゴーレムのパンタグリュエルのついた嘘は前者だ。
ではパンタグリュエルは悪だったのだろうか?
確かに悪だったのかもしれない。
『独りになりたくない』という彼女の身勝手とも言える願望から出た"スバルたちが元の世界に帰る方法を知らない"という嘘は、異世界に来てしまった面々を困らせることになったのだから。
しかし私は、というかこの作品を見た人たちは誰一人として彼女を忌むべき存在だとは思わなかったはずだ。
なぜならば『独りになりたくない』というのは決して一人では生きていくことができない人間の本能的な願望であるからだ。
他人への興味が希薄で独りを好むコミュ症陰キャオタクであるところの私ですら本当の独りになりたいとは思わない。
だからこそ彼女の嘘は、どうしようもなく観るもの全ての共感性を刺激した。
そしてパンタグリュエルが人間ではなくゴーレムであるということもさらに感動レベルを引き上げるポイントとなっていた。
本来なら感情なんてものが存在するはずのないゴーレムですら『独りになりたくない』と思ってしまう。
つまりこの願望は感情を持つ人間からしたらそれだけ強いものであることの裏付けとなるのだ。
そんな強い感情を振り切って、スバルたちを元の世界へ帰す決断をした彼女の覚悟と自分を犠牲にするという勇気は、平々凡々たる人生を送っている私には計り知れないものだ。
だからこその圧倒的な感動をこの作品は生み出した。
正直この作品を映画館へ観に行く前は、TVアニメシリーズのように面白おかしくわちゃわちゃするだけだと思っていたので、良い意味で裏切られた。
まさかこんなにもキャッチーで可愛らしくデフォルメされたキャラクターたちから、こんなにも感動的なストーリーが生み出されるなんて露ほどにも考えていなかった。
そして非常に多くのキャラクターが登場するのにも関わらずキャラクターたちそれぞれの見せ場を作りつつ、キャラクター同士の掛け合いも思わず笑ってしまうくらいに面白くて、それでいて原作から逸脱しない範囲のオリジナリティーを発揮するその手腕はもはや感動レベルだ。
クロスオーバーという人々の妄想を具現化する素晴らしいジャンルであると同時に、普通の創作とは全く別の難しさを孕んでいるこのジャンルにおいて手本となるべき作品であった。