「明けましておめでとう!今年もよろしく~!」

















グラスを高々とかかげ、笑顔でこんな言葉を掛け合う。









年始によく見かける、これ以上ないというほどありふれた光景。










2013年1月3日









こんな何気ない、しかし幸せな一時を過ごしていた。
















「何食べに行こうか?」











電話のやり取りの末、オレはよく行くお好み焼き屋さんをチョイスした。









もんじゃ焼きとお好み焼きを豊富に揃えるこのお店は、東京人であるオレと関西出身である彼がメシを食う場所としては最適だと思われたからだ。












そういえば、この男と二人でメシを食うのはこの日が初めてだった。










そう、
















大東駿介氏である。













何を隠そうこの男、めちゃくちゃに『イイ男』なのだ。









ここでいう『イイ男』とは、世間一般で言う意味とは少し違っているかもしれない。










その言葉には、






「優しい」






「努力家」






「男気がある」






「頼れる」









などという意味も確かに含まれている。







しかしそれ以上に、強く中心に据えられるワードが一つある。









それは、
















「おとぼけ」である。
















ここで、出会って間もない私が体験した、大東駿介氏のおとぼけワールドへとみなさんをいざなおうと思います。


















大東駿介伝説 ~おとぼけの向こう側へ~







※この物語は、99%ノンフィクションで構成されています。























時は遡り、初めて大東氏と出会った時の話から始めてみよう。










そう、それは去年の秋。








舞台『スマートモテリーマン講座』の街宣イベントの日だった。














「初めまして、大東駿介です!」












その日に、いやその瞬間に感じたこと。







それは、











なんて気持ちのイイ奴なんだ。










ということ。








この日はたしか、アルコ&ピースの二人も大東氏と初対面だったと思う。









みんなの心に同じ感情が芽生えたことは言うまでもない。












「これは楽しい稽古になるぞ。」












そう思わずにいられなかった。












そして実際、その予感はまんまと的中することとなる。












『元気ハツラツ』












この言葉が似合う男は彼を除いて他にいないのではないか、というほどの溢れんばかりのパワー。











その勢いに引っ張られ、全体の士気までもが上がっていくようだ。









笑いのたえない、それでいて皆の情熱がぶつかり合う、非常に刺激的な稽古場。












濃密な時間を過ごしていた。













・・・しかし何故だろう。








時折、大東氏の発言に皆が











「ん?」










となることが度々あったのだ。











それは、決して誰かをイライラさせたりする類のものではない。









ただ単純に、













意味が分からないのだ。










しかし、“勢い”というのは小さな物事に対して振り向くことを忘れさせてしまう。









かく言うオレも、その時は








「気のせいかな?」







というくらいの認識のまま、何事もなかったかのように過ごしてしまっていた。








しかしその引っかかりは、時とともに理由が明らかになっていくのであった。





















・・・時は戻り、2013年1月3日









大晦日~1月3日、その4日間が我々役者に与えられた休暇であった。










それぞれ実家に帰る人、仕事で忙しい人、様々な年末年始を過ごしていたことだろう。










そしてこの日、オレと大東氏は新年のお祝いと、芝居の成功を誓うべく集ったのだった。











オレは早めに家を出発し、先にお店で大東氏を待つことにした。











「どんな時でも、人を待たせるな。それは相手の人生から時間を奪うことになるんだ。」









よく父に言われていた言葉である。







新しい年の始まりというのは未来への希望に胸を膨らませると共に、ふと過去の出来事を思い出してしまうような、そんな曖昧さに包まれている。












「あ~、寒かった。」








一足先にお店に到着したオレがコートを脱いでいると、タッチの差で大東氏がお店のドアを開けた。









「おっダイトゥーン、タイミングいいね~!」








たった3日会っていなかっただけなのに、テンションが上がってしまう。










とりあえずオレはビールを、大東氏はサワーを注文。










間もなくテーブルに並べられ、この言葉から始まったのだった。














「明けましておめでとう!今年もよろしく~!」













ん?









また例の感覚だ。








何かが引っかかってしまう。








いつもならサラッと流してしまうのだが、この日は年始で気持ち的にもユッタリしていたこともあり、その理由を探ってみることにした。











その訳はすぐに判明したのだった。












大東氏の飲み物が、彼の靴をしまった靴箱のカギ『木フダ』の上に乗せられている。












「それ、飲みづらくないか?」









という疑問を自分の心にとどめたまま、オレは会話を続けていた。












そのまま年末年始にあった出来事などを30~40分ほど語り合ったあたりだっただろうか。








オレは大東氏の言葉に息を飲むこととなる。














「なんやコレ、使いづら・・・











うわっ、これ全然コースターちゃうやん!!」















え?








う、ウソだろ?







靴箱の木フダをずっとコースターだと思っていたのか!?








形は完全に長方形であるし、そもそも表にハッキリと「ぬ 4」と焼き印がブチこまれている。










これをどうやったら間違えるんだ・・・。














ま、人にとって間違いは付きもの。









単におっちょこちょいなだけだ。








そう自分に言い聞かせ、目の前の宴に集中することにした。













この日のお通しは、正月らしく『煮物』が小さな器に入れられて出てきていた。










「正月、煮物、いいねぇ~!」







一瞬で里芋たちは平らげられ、少々の汁だけが器に残された。








う~ん、美味しい。










そしてさっそく、お好み焼きを注文することに。











早めに合流したオレたち以外、客はあまりいない。









予想以上に早く、『もちチーズ玉』は僕らのテーブルに運ばれてきたのだった。












あまりのいい香りに興奮するオレを尻目に、大東氏はさっきのお通しの残り汁を熱心に眺めている。











ん?









どうしたというのだ。









すると大東氏はそっと店員さんにこう言った。


















「あ、この汁は何ですか?お好み焼きにつけるんですか?」

















いやいや、おま、それ


















5分前に自分で食べたお通しの残り汁だろ!!
















遅いのは分かっている。








しかしこの時、やっと確信したのだ。















この男、おとぼけが過ぎる。















しかし、自分では完全に気付いていない。













大「いや~、完全に正月ボケやわ。」






川「どんな正月の過ごし方してたのよ?」
















大「ずっと寝ながらチョコ食べてました。」
















この男、本物だ。









しかし、このような出来事はまだ序章に過ぎなかったのだ。









これからオレは、大東駿介氏の驚くべき実態を目の当たりにすることになるのである。














【後編へ続く】