レンタルルームの見学を終えて、二人で駅のホームに向かう

部屋の感じがどうとか、駅近で良いとか、ご飯食べる場所がどうとか、他愛もない会話

その一つ一つが嬉しい

もっと一緒にいたい

私は思い切って彼女に晩ご飯の誘いをする

これまでお昼は一緒に食べることはあったが、夜はなかった

なぜかその一線は超えてはいけない気がしていた

でも、その日は自分の気持ちが抑えられなかった

サラッと聞くと、彼女は二つ返事でOKしてくれた


二人で駅に近い居酒屋に入る

コロナでほとんどの店が閉まっている中、その店だけが開いていた

当然お客さんは一杯

でも、たまたまカウンターの二席だけ空いている


アイと二人で座るカウンター

車内の時とはまた違った感じで、新鮮で嬉しくなる


二人ともビールを頼み、乾杯

まだ20歳、言っても私から見たらまだ子どもだ

あまり飲ませ過ぎないようにしようと思っていた

しかし、アイのペースが早い

どんどん飲み進めていく

それに合わせるように、私も飲んでしまう


飲みながらと言うこともあり話はどんどん深い話へ

私はアイの話を丁寧に聞く

この仕事を選んだ理由や、今の自分の置かれている状況、勉強に対する熱意などなど…

酔いが回ったアイは普段のアイとは違い少し饒舌だ

本心が見え隠れする


アイ:タクミさんは何で資格取ったんですか?

私:んー…取りたかったからってだけ、自分の自信になるでしょ

アイ:今の仕事に活かせてますか?後悔してないですか?

私:後悔はしてないよ、俺は少しでも人の役にたってるって信じて20年近く頑張ってきたから、だからアイもできるよ

アイ:ほんとに、タクミさんみたいに一生懸命仕事に取り組んでる人初めて会いました、尊敬します

私:えっ…


心に響く

自然と涙がこぼれる

あれ、何だこれ…


アイのその言葉に、守り続けてきた心の壁が壊れた


嬉しいわけではない、悲しい訳でもない、ただ認めてもらえたことに心が震えた

今まで社内で色々な表彰を受けた

難しい仕事もこなしてきた

家庭ではなるべく強い父親を演じ、良い父親でいることに意識を向けた

褒められることはあっても、素直に喜べなかった

どこか満たされなかった

それが当たり前だと自分に言い聞かせきた

でも、ハタチの娘のたった一言でこれまで満たされなかった心の隙間が一瞬にして埋まった


なんの忖度もない素直な言葉


涙が止まらなかった