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出陣学徒壮行会 明治神宮外苑競技場
1943(昭和18)年10月21日

先日の『学徒出陣』の記事に感化されて、こんな本を読みました。

文学者の見た世紀の祭典 東京オリンピック.jpg

『文学者の見た世紀の祭典 東京オリンピック』という本です本
1964(昭和39)年に講談社から出版された本の再版ですね。

観戦記、観察ルポ、感想記、批評など、作家たちが新聞、雑誌や
新聞に書いた様々な文章を集めたものです。当時、文壇と作家は、
文学とは無縁の一般の人たちにも、それとなく尊ばれていたそう。
それで、新聞も雑誌もスポーツ記者が書く記事で埋まるページに
作家の文章を添えて、文化的な華を加えようとしたのでしょうね。

動員された作家は実に40人に及びます。何れも個性的で面白く、
誰が一番、とは言い難いですけど、やはり三島由紀夫さんが質と
量、共に群を抜いています。全作家中最多となる11本もの文章。
ボクシング、水泳、陸上、と走り回り、美しい文章を綴ってます。

でも、やはり出色の出来だと思うのが、『あすへの祈念』という
杉本苑子さんの書かれた文章です。以前にも記事にしましたけど
NHKスペシャル「カラーでよみがえる東京~不死鳥都市の100年~」の中でも、
コチラの文章が使われていましたよね!それがスゴく印象的で…。

“出陣学徒壮行会”と“東京オリンピック”が同じ会場だなんて
テレビで散々、両方の映像を観てきたのに気づきませんでした…。

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「20年前の、やはり10月、同じ競技場に私はいた。女子学生の
ひとりであった。出征していく学徒兵たちを、秋雨のグラウンドに
立って見送ったのである。学徒出陣壮行会の日の記憶が甦ってくる。

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「天皇・皇后がご臨席になられたロイヤルボックスのあたりには、
東条英機首相が立って、敵米英を撃滅せよと学徒兵達を激励した。
音楽は、あの日もあった。君が代が奏せられた。しかし、色彩は
全くなかった。学徒兵達は制服、制帽に着剣し、ゲートルを巻き
銃を担いでいるきり。グラウンドもカーキ色と黒の二色。暗欝な
雨空がその上を覆い、足もとは一面のぬかるみであった。寒さは
感じなかった。おさない、純な感動に燃えきっていたのである。」

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「あの日、行く者も残る者も、本当にこれが最後と、何というか
一種の感情の燃焼がありました。この学生達は一人も帰って来ない。
自分たちも間違いなく死ぬんだと。」

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光と色彩に満ちた“東京オリンピック”との明暗の対比がね~…。
あまりにスゴすぎて、言葉を失なってしまいますね( ̄~ ̄;)

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「あの雨の日、やがて自分の生涯の上に、同じ神宮競技場で世界
94ヶ国の若人の集まりを見る日が来ようとは夢想もしなかった
私達であった。夢ではなく、だが、オリンピックは目の前にある。」

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「そして20年前の雨の日の記憶も幻でも夢でもない現実として
私達の中に刻まれているのだ。今日のオリンピックは、あの日に
繋がり、あの日も今日に繋がっている。私にはそれが恐ろしい。」

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こういうのが“作家の見たオリンピック”って感じがしますね~。
そういう意味では阿川弘之さんと武田泰淳さんはイマイチですね。
私ごときが、こんなことを言えた立場ではないですが(;・ω・)

1964(昭和39)年の東京五輪は商業主義に侵略される前の
最後の大会とされています。オリンピックがが幸せだった時代の
明るさ溢れる文集が、秋の夜長のお伴にイイと思います(°▽°)