はじめに:なぜ「顧客の声」を聞いてもヒットが生まれないのか?
多くの企業がアンケートやインタビューを通して、熱心に「顧客の声」を集めています。
でも現実には、それだけでは次のヒット商品はなかなか生まれません。市場が成熟し、競合のサービスも似通ってきた今、「声」をいくら集めても突破口が見えない。多くのビジネスが抱える、共通の悩みではないでしょうか。
その理由はシンプルです。
顧客自身も、自分の“本当の欲求”にはまだ気づいていないから。
人は、自分でも言葉にできない不満や願望を抱えています。だから「何が欲しいですか?」と聞いても、返ってくる答えはどうしても表面的なものになりがちです。
ここで活きてくるのが、人間中心の発想法=デザイン思考です。
この記事では、顧客の「言葉の裏」に隠れた本当の課題を見抜くための3つのステップを紹介します。
1. 「何を言うか」より「何をしているか」に注目する
デザイン思考の出発点は、顧客の発言ではなく行動を見ることです。
なぜなら、行動にはその人さえ気づいていない“無意識の動機”が表れるからです。
これまでのマーケティングは、アンケートや購買データなど、すでに「見える化されたニーズ」を分析してきました。
でもデザイン思考は、その一歩先に踏み込みます。顧客が「まだ自分でも気づいていない不満」や「言葉にならない欲求」を探りにいくのです。
IDEOの創業者デイヴィッド・ケリーは、こんな言葉を残しています。
「人々が何を欲しいかを尋ねるよりも、彼らが実際に何をしているかを観察する方がはるかに有効だ」
つまり、「言葉」より「行動」を観る。
それが、まだ誰も気づいていないニーズを発見する最初の一歩です。
2. 「事実」ではなく「意味」を読み解く
観察は、単なるデータ収集ではありません。
その奥にある「意味」を探る、まるで探偵のような作業です。
たとえば、あるコーヒーチェーンを観察していたとしましょう。
「店内で飲まずにテイクアウトする」——これは“事実”です。
でも、そこに込められた“意味”を考えてみます。
行動(Behavior): コーヒーをテイクアウトする
環境(Context): 店内は混雑していて騒がしい
感情(Emotion): 一息つきたい、静かな時間を過ごしたい
この3つを組み合わせると、こう見えてきます。
「顧客はコーヒーを買っているのではなく、“自分だけの静かな時間”を買っている」
これこそが、観察の本質。
数字や行動の“事実”を超えて、人間的な“意味”を読み解くことが大切です。
3. 「製品中心」から「人間中心」へ視点を変える
こうして集めた“意味”を分析していくと、やがてビジネス全体を動かすほど強力な洞察(インサイト)が生まれます。
たとえば、ある医療機器メーカーでは観察を通して、こんな気づきを得ました。
「医師が本当に求めているのは、装置の性能ではなく、“安心して任せられるパートナーとしての信頼”だった」
この発見は、「どんな機能が欲しいですか?」というアンケートからは出てきません。
手術室という緊迫した現場で、医師の表情や動きを観察したからこそたどり着いた結論でした。
この洞察が、企業の発想を“製品中心”から“人間中心”へと大きく転換させました。
結果として、彼らは「機能競争」から脱却し、サポート体制やトレーニングなど“体験価値”を軸にした戦略を打ち出すことができました。
おわりに:顧客が“無意識に伝えていること”に気づけていますか?
この記事では、デザイン思考の「観察→意味→洞察」という3つのステップを紹介しました。
顧客の言葉をそのまま信じるのではなく、
・行動をよく観る
・背後にある意味を読み解く
・そこからビジネスを変える洞察をつかむ
この流れこそが、顧客の“まだ言葉になっていない本当のニーズ”にたどり着く鍵です。
デザイン思考は、単なるアイデア発想法ではなく、マーケティングの原点=顧客理解の哲学。
製品開発からブランド戦略、顧客体験の設計まで、すべての出発点は「人を深く理解すること」にあるのです。