『火花、走る』
七月下旬の木曜日。
朝の朝礼で、部長の一言が社内をざわつかせた。
「来週から、新しい派遣社員が一人加わります。営業補助として、まずは事務所対応をお願いする予定です」
ミーヤの口元が、ぴくりと動いた。
(……あら、女の子?)
それは、彼女にとって歓迎すべき話ではなかった。
この“男だらけ”のオフィスは、彼女の舞台だった。
男たちの視線を一手に集め、コントロールする空間。
そこに“異物”が入る。
しかも、同じ“女性”という属性で。
(……面白いじゃない)
『転入生、現る』
週明け月曜日。
「はじめまして。今日からこちらでお世話になります、北野沙良(きたの・さら)です」
凛とした声と清楚な笑顔。
ストレートの黒髪、透き通るような白い肌、ベージュのブラウスと紺のスカートという控えめな装い。
化粧も薄く、ナチュラル。
だが。
(清楚系……そして若い……)
ミーヤの目が静かに細まった。
男性陣も、一瞬息を呑んだ。
坂田:「……あれ? この子、なかなか……」
佐川:「うお……透明感すげぇな……」
佐山:「逆にですね……あの透明感、天然です」
ミーヤはすぐに笑顔を作った。
「よろしくねぇ〜〜♡ なんでも聞いてねぇ♡」
だが、その瞳の奥には、冷たい戦火が灯っていた。
『対決の始まり』
昼休み。
北野は、自席でお弁当を広げていた。
手作りのような彩りの良いおかずに、坂田がすぐ反応する。
「おおっ、これ、手作り? えらいなぁ〜〜」
「はい、あまり外食しないので……」
佐川が乗っかる。
「偉い偉い! 俺、こういうお弁当、理想だよな〜〜」
佐山は何も言わず、視線を送っていた。
そこへ、ミーヤが登場。
「ねぇ〜〜〜、今日のお昼、なに食べるぅ?♡ 一緒に行こぉ♡」
彼女は、いつもより少し大胆なオフショルダーのトップス。
肩があらわになり、ブラ紐が薄く透けて見える。
佐川が即反応。
「い、行く行くっ!! 行きましょう!」
(……勝ったわね♡)
……と思いきや。
「すみません、私、午後資料整理があるので……」
北野が立ち上がった。
「佐川さん、よろしければ、午後のリスト共有お願いしてもいいですか?」
「あ、ああ、うん。任せてっ」
ミーヤの笑顔が凍る。
(……この子、ただ者じゃない)
『BBQのお知らせ』
週末、社員主催のBBQが決定。
「おいおい、ミーヤちゃんの水着、拝めるチャンスだぞ!」
坂田がはしゃぎながら言う。
佐川も鼻息を荒くする。
「俺、肉よりミーヤちゃんの……いや、なんでもない!」
だが、その空気を読むように、北野がポツリ。
「BBQ、楽しみですね……海、好きなんです」
佐山がぼそり。
「逆にですね……“海が似合う女”は、本物です」
(……はぁ?)
ミーヤの顔が引きつる。
(やるわね、北野沙良……)
『BBQ当日』
青空の下、海辺のバーベキュー場。
男たちはテンション最高潮。
ミーヤは、白いビキニの上にシースルーのワンピース。
チラリと見えるヒップラインと、意外にしっかりした肩のライン。
「ミーヤちゃ〜〜ん、可愛いっ!!」
「え〜〜〜、恥ずかしいよぉ♡」
……と、その場を支配したかに思えた瞬間。
北野が、パレオを外して水着に。
ネイビーのワンピース水着。
露出は控えめ、だが、その“健康美”に視線が集中する。
佐山:「逆にですね……これは芸術」
佐川:「お、おおおお……」
坂田:「さ、沙良ちゃん……ヤバい……」
ミーヤ、完全に焦る。
(こいつ……“素”で対抗してきてる……!?)
『女子戦争、火蓋』
午後、ビーチバレー大会。
ミーヤは、勝負に出た。
ジャンプのたびに、スカートが翻り、見せパンがチラリ。
ボールを拾えば、胸が揺れ、ヒップが突き出る。
男たちは釘付け。
だが。
北野は、涼しい顔で正確にレシーブ。
スマッシュも華麗に決める。
「すごい! 沙良ちゃん、運動神経いいんだね〜〜!」
「いえ……昔、バレー部でした」
「逆にですね……そのフォーム、完璧」
……そして、勝負がついた瞬間。
「わたし、シャワー行ってきますね」
北野が立ち去る背中を見送りながら、ミーヤは唇を噛んだ。
(……これじゃ、私の舞台が……)
『夜の逆襲』
BBQの締め、ビーチキャンプファイヤー。
ミーヤは静かに佐山の横に座った。
「今日……沙良ちゃんと仲良くしてたねぇ……」
「え……? ああ、いや、逆にですね……なんか、落ち着くというか……」
「ふぅ〜〜ん……落ち着くぅ……」
ミーヤはそっと肩にもたれかかった。
「でもぉ……私のほうが……一緒にいてドキドキするんじゃないのぉ?」
その声は、ほのかに甘く、そして……切ない。
佐山は一瞬戸惑い、そして答えた。
「……逆にですね……それも、悪くないです」
『ミーヤのノートに赤い線』
帰宅後。
ノートを開いたミーヤ。
「北野沙良――脅威レベル:★★★★☆」
「タイプ:清楚/天然/健康的エロス」
「今後:佐山・佐川両名の心が揺らぐ危険性アリ」
ページの端に、赤い文字でこう書かれていた。
『次は、潰す』
