ほどなくして、母の退院が決まった。


入院してから、ニ週間目のことである。 


大病院では、手術の経過に問題がなければ、容赦なく出されてしまう。


母はまだ歩けないし、リハビリを…ということで、元の病院に転院することになった。


退院の朝。

バスを乗り継いで、ラッシュにもまれ、病院へ。


「9時半に来てください」とのことだったが、

案外うまくいき8:50に着いてしまった。


相変わらず、マイペースな母。

「アンタ、はよ着いたんだねぇ」と、一言。


9時を回ると、看護師さんがやってきて、

「一階にカートがあるので借りてきてください」と少し冷たく言われる。


かなりの荷物だ。

入院の際、オムツやパッドも購入するよう言われたので、それを入れると5~6個はある。


一階から、空のコストコのような大きなカートを押して歩く。


もう診察は始まっているので、あちらこちらに人が溢れている。

その中をかき分け、かき分け、進む。


人の視線を感じたが…

なんとか心を強く持って前に進む。


出ないと、涙が出てしまいそう。

こんな時、誰がそばにいてくれたら…



病室に戻って、荷物を積む。


そうしていると、介護タクシーの人が迎えに来る。


「娘さんは、清算してください。

お母様は、タクシーにお連れしますので。」と言われたので…


今度は、荷物の恐ろしく載ったカートを引きつつ、会計の場所に向かう。  



ここで、また…

さらに、珍しそうに見られる私。


はあぁー。

こんな時にも、誰もそばにいないのね…。



会計を済ませて、あたふたしていると…

介護タクシーの人が探しに来てくれた。



タクシーに乗り込むと「アンタ、遅いねぇ」と母が一言。

どっと疲れが出た。


思ったことを口にする、母。

悪気がないのは、分かってる。

でも、どうしても気持ちが揺れてしまう。


この母に、今まで私はどんなに心の蓋をしてきたか。


この日も、いつも通りに蓋をして転院先の病院に向かった。



そして、母の第二章が始まった。