昔、上野すばる先生の「幸福堂」というちょっと怖い漫画が好きだった。
その中でも印象に残っているお話。
詠美という女の子は両親が離婚してしまうのですが、父親からも母親からも仕事が忙しいから引き取りたくないと、邪魔者扱いされてしまいます。
転校した学校では学業ではトップクラスなものの、ガリ勉でとっつきにくいとクラスメイトからは思われてしまいます。
同じクラスの湘子という女の子は詠美とは対照的で、友達が沢山いる人気者。
お母さんの手作り弁当🍱を一緒に食べない?と詠美に誘いますが、「そーいうの嫌いなの!」と断られてしまいます。(無理もない)
そんな湘子は、詠美が気になっている田所君という男子とも幼馴染なので仲良しで。
「大嫌い!学校でも家でもひとりぼっち。あんな幸せな人に私の気持ちなんか分からない!」って、湘子に嫉妬してしまう詠美。
そんな時詠美は、不幸な人にしか見えないお店、幸福堂に出会い、天使のナイフという商品を手に入れます。
そのナイフで刺された人間は、刺した人間を愛するようになるという商品。
詠美はナイフで父親やクラスメイトを次々と刺していき、学校ではあっという間に人気者になり、湘子と立場が逆転してしまいます。
そしてついには田所君まで刺してしまい、詠美と付き合うように。
すっかり以前の元気をなくしてしまった湘子から、お願いだから田所君だけは返してとお願いされるも、断る詠美。
そんな詠美を、本物のナイフで刺して怪我をさせてしまう湘子。
そんなことになってしまったので、さすがに学校には来づらいだろうから、母親が引き取って転校することになったと、担任の先生から後日聞かされる詠美。
「母親が引き取るってどういうこと!?あの人いつも家のこと自慢していたわ!私が嫉妬するくらいに…」と問い詰める詠美。
実は湘子の母親は家を出ていて、家にはかなり暴力的な父親しかいなかった。
お母さんの手作り弁当というのも、実は湘子が自分で作っていたのだと。
複雑な家庭の事情をおくびにも出さず、明るく振る舞っていた湘子。
そんな湘子を励ましてくれてたのが、幼馴染の田所君だったと聞かされて。
「あの人は私と同じだったんだ…!私はなんてことをしてしまったの!」と、深く後悔する詠美。
母親と一緒にタクシーに乗る際の湘子の暗い表情が、今でも忘れられません。
詠美の最大の不幸とは、自分一人だけが不幸せだと思い込んでいたこと。
外側からはどんなに幸せそうな人に見えたとしても。
実際のところ、真実はその本人にしか分からないですよね…。
自分にはないものを沢山持っているように見える人を、時にねたましく思うことは、まあ人間だったらごくごく自然な感情でしょう。
でも、沢山持っているように見える人だって、実はそれらが唯一のよりどころなのかもしれなくて。
だからお願いだから、奪わないであげて。
幸せそうに見える人から、幸せを取らないであげて。
その人は、それしか持っていないのかもしれないのだから。
ふと、そんなお話を思い出しました。