まだ10代とかの、少々尖っていた頃。
仲の良い女友達と毎週のように繰り出していた、名古屋の繁華街があった。
狭い範囲の地域に毎週のように繰り出していると、顔馴染みというか、その地元だけの仲間みたいなのが増えてくる。
名前もいい加減にしか分からないけれど、顔を合わせれば「ああ、あんた!」みたいな軽いノリが結構気に入っていた。
ある時女友達と歩いていたら、とんでもなく特徴的な人に声をかけられた。
「ヘーイ君達、かわいいねぇ!今から僕と遊ばなーい?」
今時漫画でも、こんなベタな台詞を言う奴はいないってくらいの、オーバーじゃなくて本当にそんなノリの人だった。
苗字を教えてくれたけど読み方が5文字で、北海道とかにありそうな感じの珍しい名前だった。
カワウソと語感が似ている。
名前は北海道っぽいが、顔は沖縄っぽく、大人しくしていれば結構なイケメンの部類だったと思う。
女友達とヒソヒソ相談し、面白そうな人だし、暇だから友達になろうと決定。
若いって怖いねぇー笑。
「いーよ、何して遊ぶ?鬼ごっこ?かくれんぼ?冗談だよ笑、じゃあゲーセン行きたい。プリ撮ろう!もちろん奢ってくれるんでしょ?」
ヤッター!タダプリ、タダゲーム
今は懐かしい?セガワールドの常連みたくなっていた私達。
よくもまあ飽きもせずに、遊んでいたものだと今となっては思うけれど。
お金がない頃の私達にとって、とにかく奢ってくれる人というのは貴重な存在だった。
カワウソはとにかく、いつ会ってもテンションが高かった。
よくもまあ、そんなこちらが恥ずかしくなるような、歯の浮くような台詞がいくつも出てくるわね?と感心していた。
だけどそれには理由があって。
最初に会った時からずっと、一度たりともシラフの状態ではなかったのだ。
昼間っからお酒で酔っ払っているような人だった。
ある時、酔っ払っていない状態のカワウソが見てみたいとリクエストしてみた。
「僕ぁねぇ、お酒がないと生きられない人なの。本当にごめんね!いくら○○ちゃんの頼みでも、こればっかりは無理なんだ!」
「僕にとってのお酒ってーのはねぇ、血液みたいなもんなんだ。体内にないと生きていけないでしょう?」
と言われてしまった。
だけどもね、そんなことを言われてしまったら、ますます見たくなるのが人間のサガというもので。
ある時近くの市民会館みたいな場所で、すっごい真面目だけど興味ある分野の講演会的なイベントが開催されることを知り。
「カワウソも一緒に行こうよ〜?だけど真面目なイベントだから、酔っ払っていると会場入れないの!だからお願い、一回だけでいいから、お酒飲まずにその日は来てよね!」と懇願。
「…そこまで言うならいいけどぉ、知らないよ?誰この人ってなっても笑!」としぶしぶ了承してくれたカワウソ。
当日になって本当にびっくりした…。
まるで借りてきた猫のように、ずっと下を向いて無言で不気味なくらい大人しい人物が、そこにはいたのだ。
本当に同一人物とは思えないくらいの違いに驚いた。
…しまったと思った。
カワウソは最初から、実はとても気が弱い人だったのだ。
「…だから言ったでしょう?お酒飲まないで会ったらいけないって…。」
人が絶対に触れられたくないと思っている部分に、無神経にも私は触れてしまったのだ。
それ以来カワウソと会った記憶はない。
そして思った。
あんなにも人格を変えてしまうお酒ってどんだけ?と。
今でも申し訳ない気持ちは消えていない。