今日はシアターコクーン14時開演の「ヴィーナス・イン・ファー」を観に行きました。
ネタバレがありますので、これから観に行かれる方はお気を付け下さい。
<出演>
稲垣吾郎、中越典子
<タイムテーブル>
<あらすじ>
大雨の夕暮れ時、マゾッホの小説、「毛皮を着たヴィーナス」を脚色し、
演出しようとしている劇作家で演出家のトーマス(稲垣吾郎)は、
ヴァンダ役の女優のオーディションを終え、フィアンセに帰るコールをしていた。
そこへ、ずぶぬれのコートを着てハイヒールを履いた女があらわれる。
女性はオーディションの役と同じ名前を持つヴァンダ(中越典子)だった。
オーディションに遅刻してあわられた彼女は、帰り支度を始めるトーマスに
しつこく食い下がり、台本の読み合わせにつきあわせる。
彼女の強引さに負けてしぶしぶ台本を読み始めるトーマスだったが、
予想を超える演技を見せるヴァンダに驚いたトーマスは、
そのまま台本の読み合わせの続行を提案する。
次第に自身と台本の中のクジムスキー役の境界線が曖昧になり、
ヴァンダの魅力の前に抵抗する事が出来なくなっていくトーマス。
そしてついにはヴァンダに己の真実を暴かれ、彼女の前にひざまずく。
グッズは公演プログラムのみで1800円
開演直前に日本語版演出のロス・エヴァンズさんと
ブロードウェイ・オリジナル版演出のウォルター・ボビーさん?が
入って来て、J列センターで観劇なさっていました。
そして幕が開くと同時に雷がドーンと大音量で鳴って、飛び上がった(>_<)
本当にびっくりした。心臓に悪いこのオープニング!
早口でまくしたてるセリフも多く、年のせいか、
耳が弱った私には聞き取るのが大変な箇所もありましたが、
ジェットコースターのようにとぎれなく、膨大な量のセリフのやりとりが見もので
1時間45分間しゃべりっぱなしのこの舞台はかなり見ごたえがあり、
中越さんと吾郎ちゃんのテンポの良いセリフの掛け合いは素晴らしかったです。
中越さんのヴァンダは最初あらわれた時からものすごくテンションが高く、
何がなんでも、オーディションをやって役をもらいたいという気迫がすごかった。
トーマスがGOサインを出してもいないうちから、レインコートを脱ぎ、
オーディションやる気まんまん。レインコートの下は女王様風衣装でバッチリ。
そしてなぜか、渡していないはずの台本を丸暗記しているヴァンダ。
身振り手振りが大げさで、はっちゃけているヴァンダが、
読み合わせを始めたとたん、つやっぽい声に変わり、
同じ女性とは思えない、品がある、凛とした立ち姿になる。
当初いやいや台本の読み合わせにつきあっていたトーマスは、
びっくりして、台本と彼女を見比べ、最初に3ページだけという
約束で始めた読み合わせは、彼女のペースであっという間に終わってしまう。
読み合わせをしながら、演出や脚本に疑問を持つと文句を言うヴァンダ、
時々素の彼女に戻って、トーマスと言い合いをしたと思いきや、
次の瞬間、何事も無かったかのように、いきなり劇中劇に戻る。
トーマスはペースをくずされてアタフタと置いた台本を探して
大慌て。ヴァンダのペースに振り回される吾郎ちゃんの演技が
面白くて会場中大笑いでした。
吾郎ちゃんが、中越さんにロングブーツを履かせる場面、
シーンと静まりかえった中、吾郎ちゃんがロングブーツのファスナーを
ゆっくりと下から上に上げて行き…と同時に見せる、
中越さんの行為を連想させるようなエロティックな表情と、
長い髪をふりみだしてのけぞるようなポーズが
ものすごく官能的でドキドキ、ゾクゾクしました。
ヴァンダに命じられて、「今夜は帰れない」と
無理やりフィアンセに電話をかけさせられるトーマス。
勝ち誇ったようなヴァンダの表情。女性としては
たまらないシチュエーションなのではないかしら?と思った。
(そう思うのは公演プログラム中のSM度チェック欄
5段階評価でドS判定になった私だけか…)
密室空間で次第にマゾヒズムな部分が浮き彫りになってくる
トーマスの心境の変化が興味深かった。
最後には、注文が多いトーマスに嫌気がさしたヴァンダに変わって
トーマスがヴァンダの役を演じはじめ、男女が逆になり、
劇中劇を演じるところも面白くて大笑い。
吾郎ちゃんは、中越さんがつけていた首輪をはめられたり、
柱にストッキングでしばられたりというシーンがあり、
M男君ぶりがけっこう似合っていて良かった。
Mというのは支配されているようでいて、実は支配している側である。
基本的にSというのはMによる教育が必要で、SはMの望む通りに
全能感を漂わせていなければならない。とか、
権力とは支配する事なのか、それは女性なのか、男性なのか、等、
ただのSM劇だと思っていましたが、そんな薄っぺらな物ではなく、
もっと奥が深くて、考えどころが多い作品だった。
SMの語源になったサディズムのサド侯爵については
聞いた事があったのですが、マゾヒズムが、この舞台で出てくる
「毛皮を着たヴィーナス」の作者、ザッヘル=マゾッホが語源だったという事は
初めて知りました。実際のマゾッホも女性と奴隷契約を結んで、
女性の召使いとして生活したというエピソードもあるらしく、
公演プログラムにはマゾッホの生い立ちや、女性関係等、
とても興味深い記述がたくさん載っていて、熟読してしまいました。
カテコは2回目でオールスタンディングになり、大盛況。
3回目に出できた中越さんは、嬉しそうに舞台の上を跳びはねて退場。
その後、電気がついてもいつまでも拍手の鳴り止まない観客へ
4回目のカテコはなく、明るくなった会場に何度も響く
「本公演は終了致しました」というアナウンスと、物足りなさそうな観客。
結局たまりかねて帰り始めるお客さんも出てきて、
なんだかスッキリとしない終り方でした。
最後だけちょっと残念だったけど、作品自体は思ったよりも深いテーマで、
セクシーな場面も多く、密度の濃い良い舞台でした。
いろいろな意味で、妄想を楽しめる舞台ですね。
演じる方は大変だろうけど、やっぱり二人芝居は緊張感がたまらないな ![]()



