小学校では、
学年の一番最初の保護者会は
ほぼ役員決めです。
毎年ドキドキしながら
参加しているカナエは
明日最後の役員決めに臨みます。
小さな世界のおおきな任務、
引き受ける余裕はないのですが、、
⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘
「ママ、なんか焦げてる!
くさいよー、、」
ユウタの声で
はっと我にかえる。
夕食を作る手がいつのまにか
止まっていて、
慌てて火を消すが遅かった。
長い菜箸でひっくり返すと
サワラの西京漬は
見事に焦げている。
甘いにおいに混じって
焦げた匂い、
換気扇を弱から強に切り替え
キッチンの横にある
小窓を細く開けた。
「ごめん、ごめん、、
おしえてくれてありがとー、ユウタ、、」
「ママだいじょぶ?
つかれちゃったのぉ?」
「ふふ、違うの、、
さっきパパからメールあって、、
明日帰ってくるでしょ?
だから
出張のお土産なんにしようかなあって
考えてたの、、」
「ちえっ、のんきだなあ、、
トモキ呼んでるよ、、」
「え?」
「なんか、
ママじゃないとダメみたい、、」
「そう、めずらしいね、、
ありがと、、
火は消したから、、」
「宿題終わったから
ゲームいい?、、」
「いいけど、
ちゃんとタイマーセットしてね、、」
「はーい、、」
いつもながらユウタは
返事だけはいい。
だが
20分位ゲームをしたら休憩5分をとる、
それを3セット、
これを実行するのはなかなか難しく
毎回毎回、もめる。
ゲームのトータル時間は
だいたい1時間15分のはずなのに
1時間半をゆうに超えても
ゲームをしているので
「まだやってんのー⁈、、」
「、、、」
「おかしいでしょ、長すぎない?、、」
「だってさっき
トイレ行ったりしたしさー、
ちゃんとタイマーしてるよー、、」
「トイレ長すぎだし、
毎日そればっかじゃない、、」
「ステージクリアして上がってくと
そんなに簡単に休憩なんて
はさめないの!、、」
「じゃあ、クリアしてから
休憩すればいいじゃない、、」
「むりー、、」
「とにかく
1時間半前には終わりにして!
約束でしょ!」
「だから無理だよー!
ママもやってみたらわかるよ、、」
「わかんないわよ、そんなもん、、
やりたくもないし!、、
ママは忙しくて
やってるひまなんて
ないんだから、ゲームなんて、、」
こんなやりとりは、
特にきょうのカナエにとっては苦痛だ。
和室に入り、散らばっている
オモチャをどかしながら
隙間を作ると
脚を投げ出すようにして
へたり込むように座った。
ヨタヨタと
トモキはすぐに寄ってきて
カナエの脚に座る。
トモキの顔を見つめながら
明日のPTAでの役員決めを
考えてしまう。
ポトリと涙がこぼれてしまい、
トモキは不思議そうに
その涙を指で触ってきた。
ごめんね、ほんとにごめんね、、
ママ、弱虫だよね、、
隣のリビングにいる
ユウタには
聞こえないように、
小さな声でそう言いながら
トモキをぎゅーっと抱きしめて
声を出さずに泣く。
トモキはバタバタせず
ただ黙って抱かれたまま、
いたいの?いたいの?と聞いてきた。
いつもならすぐにトモキに
笑顔を見せて
安心させるのに
きょうはできない。
(パパ、はやく帰ってきて、、)
心の中で呟きながら
やりたくない営業に回されて
苦労しているに違いない夫を思い出す。
カナエは薄い笑顔を作り、
トモキを見つめながら
「煙が目に染みちゃったの、フフッ、、」
と笑った。
トモキは
そんなカナエの表情に安心したのか、
カナエの膝から
のそっと降りると
買ったばかりの
列車のおもちゃで遊び始めた。
明日の保護者会のことを考えると
言いようのない不安を覚える。
もっとも
はしゃぐような時間なんて
この頃は
お目にかかれていないのが現実だ。
*
「すみません、
次男が大変なので、、
、、、
今年から特別支援学校なんですが
まだ慣れなくて、ぜんぜん、、」
カナエは静かに立ち上がると
少し震える声で話し出した。
担任からのクラスの様子の報告のあと、
役員決めが始まった。
ドキドキした心臓を隠しながら
カナエは
小さな声に希望を託した。
途端に、
アツシ君のお母さん、
大滝さんが大声で
「そんなこと関係ないでしょ!、、」
それまでの
あちらこちらでの
サワサワとした
小声でのおしゃべりはピタリと止み、
担任の先生以外は皆、
黙って顔を伏せた。
カナエも手元に視線を落とし、
全身を堅くして息をつめる。
隣の教室から
ドッと笑い声が聞こえ
すぐに拍手も起こったが、
それがやむと、
相変わらずカナエを包む
シンとした空気が暴かれる。
カナエの胸の鼓動は
ズワンズワンと
やけに重ったるい。
*
6年2組、
ユウタのクラスの保護者会に
参加する者は今回は多く
35人中32名だった。
卒業旅行や卒業アルバムなどを担当する
役員決めもあり、
実はこの役員はこの学校では
人気で、
というのも、
毎回担任も加わり、
ざっくばらんに言えば
お茶会に近いものになっている。
中学受験する保護者にとっては
担任との信頼関係を築きやすく、
それは
ズルンボこそないものの、
やはり
通知表の担任からの評価欄のコメントや
推薦書などは
偏差値や数字ではない、
人の感覚で左右されやすいものなので
受験生の親としては
見過ごすわけにはいかない。
そしてなんと言っても
希望の中学校の正確な情報や
時には裏情報までもが手に入るのだ。
おまけに、
保護者によっては、
実は
こちらを重く見る者も少なくなく、
それは、
卒業アルバムに載せる我が子の写真を
半ば優先的に選ぶことができるのだ。
そのため、
卒業委員を決めるときは、毎年
抽選やじゃんけんで決めるほどとなる。
もちろん今回
参加者が多い理由は、
「一度も役員にならなかった
家庭の保護者は
必ず出席すること、
欠席の場合は
どの役員でも引き受けても構わないと
みなします」
そんな趣旨の書かれたプリントが
事前に配られていたということもある。
*
「そんなこと関係ないでしょ!
そんなこと言ってたら
誰も役員なんてできないわよ!
大変なのはおたくだけじゃないのよ!
ウチだって大変だし
そのわけを
言わなきゃいけなくなるじゃない!、、」
大滝さんの言葉が
カナエの胸を
グイグイと締めつけてきて、
顔を上げることなんてできず
指先が冷たくなっていくのがわかる。
困惑顔の担任、
静まり返った教室、
大滝さんの声は容赦なく響いている。
気のせいか、
隣のクラスも急に静かになった。
「事情はその家庭ごとに違うし、
いちいち、全部
さらけ出さなきゃいけなくなるじゃない!
やだわ、そんなの、、」
カナエより明らかに年上の大滝さんに
すごい剣幕で言われてしまい、
黙ったままうつむくしかなかった。
ピリッとした緊張の漂う教室の空気感、
完全に負けたまま、
それでもカナエは
やっとの思いで
すみません、、
と喉に絡んだような声で
謝るのが精一杯だ。
何を言われても、
とにかくきょうは
役員を引き受けないように
がんばらなくてはいけない。
あまりのことに
気が遠くなりそうだった。
見かねたのか、吉本さんが
「まぁ、でも今回はほら、
役員やってない人は7人で、
必要な役員は4人だから、、」
「だからって特別扱いするの?、、」
再び大滝さんが
大声で怒鳴るように言うと
「えーっと、
そういう意味じゃなくて、、」
「じゃあ、どういう意味?」
「あっ、あのわたし
また役員できますから、よかったら、、」
突然の佐野さんの発言に、
他のお母さん達が
ざわざわとし始め、
「佐野さん、4、5回目じゃない!?
だいじょぶ?」
「だいじょぶ、うふふ、、
ウチはほら、自営業で酒屋だから、、
ダンナの両親はあんなだし、
元気すぎて、、」
軽い笑いが
あちらこちらから漏れてきて
クラスの空気を柔らかくしていく。
「なにしろ毎日毎日
近所のご老体様方が
入れ替わり立ち替わり
やって来てさ!、、
あっ、やって来てくださって、フフッ、、
しゃべってくから
ずーっと家にいると
頭おかしくなるの、、」
「佐野さんのおばあちゃまって
ご主人のほうのお母さまよね?
お元気よねー、ふふ、、」
「そーなのよー、、
でもわたし、
働きに出るわけにいかないじゃない?、、
おさんどんと買い物は
わたしだから、、
かといって
店ほっぽって習い事にいきたいなんて
言えないし、、
まぁ、店に出ることは
ほとんどないんだけどね、、」
「あっ、あたしも役員できます、、
先月でパート辞めて、
ジュンの受験だから、、」
小林さんが右手を挙げてそう切り出した。
「塾行ってると思ってたら
たまに
ゲームセンターとか
行ってたみたいで、、
全く油断も隙もありゃしない、、」
「そうなの?、、」
「えー、あのジュンくんが?、、」
驚いた声が
教室の空気を揺らし、
それは屈託のない小林さんの声で
加速していく。
「そうなのよー、
男の子って素直なフリして
ちゃんと考えてるのよー、
悪いことだけは、アハハハ、、」
女性の担任、坂本先生が
笑いながら、
「ふふ、でもこの間、
神妙そうな顔で
『ママにメチャクチャ怒られて
塾やめろって言われちゃって
逆にショックだった、、』って
言ってましたね、、」
「そうなんですか?、、
本気じゃなくて、
脅しだったんですけど、、ふふふっ、、
坂本先生、その節は
いろいろとご相談にのっていただき
ありがとうございました、、」
「ジュンくん、その後は?、、」
「もうだいじょぶですから!
あたし、塾の送り迎えしてるので、、」
坂本先生は
優しく微笑みながら、
「落ち着いたみたいですね、、」
「過保護って
思われてしまうかもしれませんが
今の時期は大切なので、、」
「お母さんも
送り迎え大変かもしれませんが、、」
「いーんです、
あたしはなんて言われても、、
ジュンが塾の門さえくぐってくれれば、
フフッ、、」
*
結局カナエは役員にならずに済み、
心なしか保護者達は
優しい目で
カナエに無言のメッセージを
送り続けてくれた気がする。
それでも
たっぷりと出た背中の汗のせいで
ベージュのジャケットの下の
白いブラウスは湿ったままだ。
「おつかれさまー、、」
「おつかれさでした、、」
ゆるい挨拶を交わしながら
カナエは靴を履く。
『だいじょぶだよ、、』
『あと一年、仲良くやってこうね、、』
『お母さんも無理しないで
休める時には休んでね、、』
『次男ちゃんのこと
よくわからないけど、
なにかできることあったら
遠慮しないで言ってね、、』
そんな言葉を背に受けながら
静かに昇降口から歩き出す。
校門を出て
しばらくいくと、
「あさのさーん、、」
その声にドキっとして振り向くと
やはり、、
先程カナエに対して
責めるような口調で発言した
大滝さんだった。
カナエの顔からは血の気が引き、
心臓がバックン、バックンと
音を立て始める。
まわりには誰もいない。
走って帰りたい衝動にかられながらも
覚悟を決めて
立ち止まると、
「先程はすみませんでした、、」
カナエは
そう言いながら
頭をさげた。
大滝さんは
少し息を弾ませて、
「ごめんねぇー、
びっくりしたよね、、」
笑いながら話しかけてきた。
「えっ?、、」
「さっきは
あんなこと言ってごめんね、、
あれ、うそだから、、
少しでいいから時間ある?」
「え?、、」
たじろぐカナエに構わず
「次男ちゃんは?」
「あっ、母がみてくれてます、、」
先程とはうってかわって
ふくよかな顔に
笑みを浮かべながら
「じゃあ、ちょっとだけ
つき合える?、、」
「、、?、、」
「ほら、あそこ、ウチだから
ちょっと寄ってかない?
話したいことあるから、、」
そう言うと
カナエに有無を言わせないためなのか、
小走りに
一軒の家の門をあけて
中へ入って行ってしまった。
まだ何かいい足りないことを
言われるのかもしれないと
不安になっものの、
このまま知らんぷりは
できないので、
トボトボと歩いて
仕方なくその家の玄関のドアを開けた。
消毒のような匂いが
一瞬、
カナエの鼻先を
通り過ぎていく。
「おじゃまします、、」
「どーぞー、、
散らかっているけどー、
一番奥のリビングに来てねー、、」
奥から大滝さんの声が聞こえてくる。
用意してくれた
やけに擦り切れたスリッパを履き、
物が置かれて狭くなった廊下を
歩いていく。
本当に散らかっている。
どうやら猫を飼っているようで
ずいぶんとたくさんの猫の餌や砂の袋、
ダンボール箱が
所狭しと置かれていた。
おずおずと
奥のリビングに足を踏み入れると、
脚を引き摺りながら
一匹の猫が慌てたように
部屋の隅のクッションの下に隠れた。
水入れやトイレがあちらこちらに
置いてあり、
窓辺やキャットタワーの上、
テーブルの下などに
ちんまり、ちんまりと
猫がうずくまっているのが
わかった。
カナエは驚きながら
「猫お好きなんですね、、」
すると、ニコニコ笑いながら
「違うのよー、保護猫なの、、
アツシもお兄ちゃん達も
手がかからなくなったから、、」
「ほごねこ?、、」
「そうよ、道端で生きてた子たち、、」
「なん匹くらい、いるんですか?、、」
「多い時で15、6、、
今は9、、 」
「そんなに!?、、」
「ここでいろいろ人慣れや
しつけみたいなことをして、
おウチ猫ちゃんとして
引き取ってもらってるの、、
でもなかなかむずかしくてね、、
怪我や病気のない仔猫はなんとか
もらわれてくけど、
そうじゃないのは、、」
カナエのそばには
猫達は全くやってこなかった。
それどころか
どの猫も我関せずのように
微動だにせず、
眠っているのか
眼を開けない猫もいる。
「フフッ、
今いる猫ちゃん達は
まだあんまり人馴れしてないのが
多くてね、、
っていうか、あたし
あんまり人をウチに呼ばないから、、
忙しくて、忙しくて、、」
カウンターキッチンで
ゴソゴソとした後、
大滝さんは紙コップを持ってきて
「よかったらここ座って、、」
そう言いながら
テーブルの上の一部分だけを
ウェットティッシュで拭き、
紙コップを置いた。
冷蔵庫から
2リットルタイプのペットボトルを
5本取り出すと抱えてきて、
「好きなの飲んでね、、
と言ってもこれだけど、アハハハ、、」
ボン、ボンと
お茶やコーヒー、オレンジジュースを
カナエの前に
ズラリと並べ、
「どれがいい?、、」
「あっ、ありがとうございます、、
お茶いただきます、、」
大滝さんは立ったままで
カナエにお茶を入れると、
自分の紙コップには
オレンジジュースを入れた。
「保護者会やって喉乾いたでょー、、
あたしが、あんなこと言ったしさ、、」
大滝さんはそう言うと、
オレンジジュースを
飲み干した。
「、、、、、」
「アレ、わざとよ、、」
「え??」
リビングのフロアに大滝さんが
どかりと座ると
なん匹かの猫がそのまわりに寄っていく。
中にはオムツをつけている猫や
片方の耳が裂けたような猫もいる。
ほーっ、と深いため息をつきながら
笑いを顔から消さずに
大滝さんの右手が
じゅんぐりと猫達に注がれていく。
慈愛に満ちた眼で
猫を撫でながら、
「うちのお隣さん、
おたくの次男ちゃんと
同じ学校なんだよ、、」
「そうだったんですか!?、、」
「毎日たいへんなんだって?
なんかこの間は
脱走しようとしたんだって?、、」
カナエはため息をつきながら、
頷いた。
「お母さんも
きもちがつかれちゃうね、、
おせっかいかもしれないと思ったけど
隣からいろいろ
聞いちゃってたからさ、
ほっとけなくてね、、
役員なるのキツいと思ってさ、
だからあんなふうに発言したの、、
わざとだけど、
バレないようにキツく、、
ごめんね、、」
カナエは事情がわかり、
眼頭が熱くなった。
「今のクラスのお母さん達って
当たりだよ!、、
みんな優しいし余裕ある感じ、
気持ち的な余裕ね、、
お兄ちゃんの時のクラスと
全然違う、、」
「、、?、、」
「だから
いちかバチか言ってみた訳さ、、」
「、、、」
「まぁ、後先考えてなかったとも
言えるけどさ、アハハハ、、
やな思いさせちゃたよね、、
ごめん、、」
自分の評判をかなぐり捨てて
あまり言葉を交わしたことのない
わたしのために、、
そう思うと、
自然と涙ぐみながら
うーうん、、と首を振った。
「でも、
だからみんな好意的だったでしょ?
あはは、、
まぁ、たぶん
これでユウタ君の卒業まで
ちょっとは、、」
「ありがとうございます、、」
そのとき
隣の部屋から
「ミユキー、ミユキー、、」
と呼ぶ声がして
「はーぁい、いま行くー、、」
大滝さんは立ち上がりながら
「義理の母なんだ、
要介護認定で、、
だから一人にできないのよ、、」
そう話すと
襖を開けて隣の部屋へ入っていった。
訪問看護師のような人の姿が
チラリと視界に入った。
先程と同じ匂いが
強く流れてくる。
(消毒の匂い、、)
その匂いで、
大滝さんがいかに大変かを
感じることができる。
もっとも、この猫ちゃん達を見れば
わかることだが、、
一匹のオムツをつけた猫だけが
意外に活発な動きで大滝さんに続く。
あとの猫たちは
消毒の匂いのせいなのか
人慣れをしていないせいなのか、
隣の部屋へ歩いていく
大滝さんの後を追うこともなく、
それどころか
ほとんど動かない。
結局
大滝さんが隣の部屋から
出てくるまでの間、
たった一匹だけが
カナエのところにやって来た。
左脚を引き摺りながら、、
真っ黒な毛並みに
ちぎれてしまったのか
中途半端な尾、
足元に擦り寄って来たので、
カナエが椅子から降りて
リビングの床に座ると
すぐに膝に乗ってきた。
ただ黙って、
恐る恐るその黒猫の頭を撫でると
ちぃちゃな顔を上げてカナエを
じっと見つめてきた。
美しい眼に
わたしはハッとした。
何がどうなのか説明のつかない
美しさ、純粋さ、
疑うことを知らない、、
そんな神々しい眼だった。
*
何か困ったことがあったら
遠慮なく頼ってね、、
その言葉を土産に
わたしは帰宅する。
いつ以来だろう、
贈り物を貰う嬉しさではなく
人の優しさをもらったのは、、
小1時間ほど
おしゃべりをしていただけなのに、
まるで
ひとりぼっちで
森の中をさまよっていたじぶんを
探しに来てくれた見知らぬ人が
見つけてくれたような、
そんな感覚を覚えた。
帰り際
玄関までカナエを追って来た猫がいた。
あの黒猫だった。
大滝さんが驚いた表情で
「このこ、はじめて、、
あたしのとこにも
なかなか来てくれないから、、
よっぽど
好きになっちゃったのかな、、」
それでも大滝さんは
猫を飼ってみない?とは
言ってこなかった。
そのことで
いかに大滝さんが
猫の命を大切に思っているのかがわかる。
*
夫は会社で家族を守る為に働き
くたくたになって帰宅する。
いつか4人で温泉旅行に行きたいと
言っていたが、
最近は言わなくなってしまった。
本当は行けるのに、
わたしが躊躇しているからだろうか。
夫は敏感にそれを感じ取ってしまい、
結果、
ユウタもゲーム以外は
やけに聞き分けがいい。
そして何よりも、
トモキが大変だから、、ではなく、
わたしが日常に
ストッパーをかけているのかもしれない。
だとしたら、わたしは
トモキの可能性を潰しているのでは
ないだろうか、、
わたしの話を聞きながら
大滝さんの発した言葉で
突然視界が開けたように思えた。
あの後
大滝さんは
紙コップではなく、
洒落たグラスを出して勧めてくれた。
*
これ飲んでみて!
自家製梅酒、、どぉ?、、
おいしい!!
でしょう?
大滝さんが作ったんですか?
うん、、
あのさ、、
、、?、、
トモキくんは青うめ だよ、
梅干しではなく
とーってもおいしい梅酒になるアオウメ、、
だからまわりと同じことしなくて
いいんじゃない?、、
*
家の前まで来ると
カナエは
梅酒の瓶の入った袋を覗き込んだ。
本当はお酒なんて飲めないのに、
梅酒にも興味なんてなかったのに
なぜあれほどの美味しさを感じたのか
全くわからない。
未知の味があるように
きっとトモキにも
未知の喜びが待っている、、
心細さや弱虫なきもちは消えてしまい、
今はそれを家族で一緒に探したいと
強く思った。
まずは
先ほどの黒猫をウチで飼いたいと
パパや子供たちに相談しなくては、、
ますます
温泉旅行が遠のくのに
なんだろう、このワクワク感は、、
最後までお読みいただき
ありがとうございます
ぺこり、お辞儀です(*´ー`*)