意志の力だけで物事を動かすこと。
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どこにでもいる中年女性の
外から見ると
何気ない日常のワンシーンです、、
その女性は
大型文房具店で付箋を手に取ると
やや離れたところにいて
キャラクターのついたペンを見つめている
シュンペイ(冬日没る)を
チラチラと見ています、、
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小狸と書いてコリと読む。
だが、大抵
初対面で
この名字をそう読んでくれる人はいない。
過去にも、ただの一度でも
そう読む人に会うことはなかった。
幼い頃は
名字よりも名前で呼ばれる。
そのため、
特に
名字を意識することはなく過ごした。
小学校に上がると徐々に
この名字のおかげで
余計な苦労をさせられた。
コダヌキ、
いつの間にか
このあだ名で呼ばれるようになり、
途端に
この名字が嫌で嫌でたまらなくなった。
香川、北村、栗山、栗原、小堺、、
カ行の名字の音の響きは
最初の文字から活発だ。
空気を割くように口から飛び出す音は
勢いがあり、とても聞き取りやすい。
「コリ」も同じように響く。
音だけならきっと好きになり、
勢いそのままの
気もちでいられただろう。
ただ、漢字にすると
いかんせん、そこにはイメージがつきまとう。
好むと好まざるとにかかわらず、
人は言葉を話しながら
イメージを浮かべるものだからだ。
必然的に
狸という漢字から受けるものは
眉目秀麗からは遠ざかる。
中学に入ってからはこの名字をめぐって
男子からイジメに近いものも受けて、
そのせいだけとは言わないが
過食に次ぐ過食で、
元々小柄だったため
ぽちゃりとした体型となり、
まさに コダヌキサトコ になった。
明るく振る舞ってはいたものの、
事あるごとに
男子の嘲笑的な発言に
傷つきながら、
よく不登校にならなかったものだと
思い出すたびに
我ながら驚いている。
高校からは
女子校、女子大学だったため
そのような思いはしなかったものの、
アルバイト、教習所など
どこか新しい窓口に行く度に
必然的に先回りをして
書類提出の際は
「名字はコリと読みます、、」
と、口に出して付け加えた。
たとえふりがなを書いていてもだ。
なにしろ、
コダヌキ、これはインパクトが
強すぎるのだ。
会社員になってからは
さすがに
面と向かっては
そう呼ばれることは無くなったが
コダヌキという囁きに似たようなものを
耳がとらえてしまうことは
多々あった。
早く結婚して名字を変えたい。
それがサトコの
人生の目標になっていった。
上手くいったり、いかなかったり、
それでも
そこそこの恋愛の末
名字が変わった。
スズキ サトコ、
なんて素敵な名字だろう。
この紛れもないシンプルな名字は
奇跡に近い。
つまり
わたしにとっては
日本一素敵な名前なのだ。
世界一でも構わないのだが、
コダヌキと発音しても
外国人には
なんのことだかわからない。
よって
日本一止まりとなる。
名字が変わるだけで
こんなにも気もちが軽くなるなんて
学校では教えてくれなかった。
心だけを取り出して
ヘップバーンのイライザのように
歌い出したくなる。
もう、歯医者や耳鼻科などで
診察券を持った看護師に
悪意はないと言え、間違って
「コダヌキさーん」と
名字を呼ばれることはない。
ただでさえ
調子が悪くて行く病院なのに、
その待合室で
名字を誤って呼ばれてしまった時の
あの雰囲気には、どっと疲れる。
おかしいでしょ、、
病院に行って
診察前にどっと疲れるなんて、、
特に耳鼻科の場合、
子どもが必ず待合室に座っている。
いつ行ってもだ。
年中、朝から晩まで
どの時間帯に行ってもだ。
年中無休、
24時間の店さながらだ。
そうか、この国では
いつもどこかで子どもが
鼻グスなんだな、、
などと
どうでもいい事を思っていると
「コダヌキさーん、、」
と、病院で初めて会う看護師に
診察券を見ながら
なんの迷いもない澄んだ声で
呼ばれてしまった。
悲惨だ。
まず大抵の人は
携帯や雑誌から顔をあげる。
そしてわたしが立ち上がるのを見て
気が済んだのか、
何かを納得したのか、
とにかくなんだかわからないが
また下を向く。
わたしはというと、
その看護師に近づき
小さな声で
「コダヌキではなく、コリです、、」
「え?、、コリですか?
すみません、
珍しい名字ですね、、」
この場合は
障害物競走のハードルを
上手く飛び越えて走った事になる。
だが、
「え?
カリさん?、、」
「コリです、、」
「、?、、」
「カキクケコのコリです、、」
「カ?、、」
「いえ、おの段のコッ!
コォーり、コリです、、」
「へー、珍しい名字ですね、、
狸(たぬき)なんて初めてです、ウフフ、、
どちらかの地方に
おおいんですか?、、」
「、、、」
こうなるともう、
観客の前を
ハードルをなぎ倒しながら走っているとしか
言いようがない。
狭い待合室に響き渡る会話は
子ども達を
ソワソワとした気分にさせるのだろうか。
兄弟で来ている子ども達は
身体をねじ曲げるようにして
うつむいたまま顔を見合わせて笑う。
そしてなぜか、
脚をバタバタと揺らす。
はたまた
何かを期待でもするように
わたしに視線を釘付けにする。
もちろん
子ども達は親と来ているせいか
表立って冷やかすことはないが、
わたしは心の中で思う。
(んな、こっちを見てたって
なんにもしないよ、、
芸もしないし、変身もしない、、
もちろん
山にも帰らないよ、、)
結局、わたしは
子ども達は皆
こういう時にだけは
自分に正直になる生き物だと気付かされる。
「おはよーございまーす、、」
事務所に行き、
メンバー達と打ち合わせをする。
きょうのわたしの受け持ちは
三鷹市のショッピングセンターと決まり、
一緒に組む、通称モリゾウ君の車に
乗せてもらった。
基本的に、受け持ちは
今住んでいる地域から
1時間以上の距離を取り
決められる。
普段は電車だが、
モリゾウ君は左足を
サッカーで軽い捻挫をしてしまった。
仕事の依頼は増加していくのに
人手不足の為、
交代要員が見つからないので
特別な計らいをしてもらっている。
「最近、
コリ先輩疲れてませんかぁ?、、」
「はぁー、(ため息)
離婚したばかりだからね、、
後追いで
疲れがやってきたかな、、
調停中のときは、
起きても寝てても
とにかく疲れるし、
メンタルやられるし
砂の中で生活してるみたいで、、」
「悲惨っすね、、」
「正直、今でも、朝起きたくなくて、、
はぁー、(ため息)
ホント、離婚が
こんなに大変だと思わなかったよ、、」
「あー、よく聞きますね、それ、、
僕は結婚すらしていないので
わかんないっすけど、そっち方面、、
ただ周りに
離婚したダチがけっこういるんで、、
確実に参ってますよね、、
結婚への憧れよりも、
離婚の怖さを聞いちゃうと
うーん、、
一人でラクな人生でいいか、って、、」
「ハハハッ、、ごめん、ごめん、、
若い芽を摘んじゃダメだよね、、
まっ、でも
ようやく終わったからね、、
夜も少しずつ、
眠れるようになってきたんだ、、」
「あー、言ってましたよねー!、、
ねむれない、ねむれないって、、
ヤマモト課長、心配してましたもん、、
ってか、僕たちみんな、影では
めちゃめちゃ心配してたんすから、、」
「そうだったのぉ?、、」
「だって、判断ミス怖いっすから、、」
「そうなんだよね、、
ミスしたら
誰かに冤罪の可能性も出てくるから、、
でも、仕事続けたことで
ずいぶん救われてたから、、
とにかくみんなに感謝だわ、、
恩返しにまた頑張ってやってくから
よろしくね!、、」
「おっ、戻ってきたって感じっすね、、
コリ先輩、
このところ、精鋭欠いてるようで
気になってたんすよ、、」
「、、、、、」
「離婚が与える影響って
計り知れないんすね、、」
「、、、、、」
「すいません、ペラペラしちゃって、、」
「うーうん、、
心配かけちゃってたんだね、、
ってか、モリゾウ!
成長したねー、、
オバチャンは嬉しいよー、アハハッ、、」
「あざーす、、」
「、、、うん、、
またがんばるわ!、、」
そう言いながらサトコが思っていることは
全く別なことだった。
(精鋭を欠いていたのは
離婚が原因じゃないんだよ、、
ホントは違う理由なんだ、、
ごめん、でも言えないよ、、)
現場に向かいながら
取り止めのない会話や
打ち合わせをして開店前の店内に入る。
ひと通り
店の中を歩きまわった後、
今度はどんな商品が置かれているのか、
商品の状態や置かれ方を
頭に入れるようにして歩き回った。
更に、
天井辺りの鏡の角度や死角、
防犯カメラをチェックしつつ、
モリゾウ君と打ち合わせをしているうちに
チラホラと客が入ってきた。
さりげなく二手に分かれて
商品を手に取り、
そのまま商品ではなく
視野に入る範囲を
注意深く観察する。
人気の文房具専門店だったが
平日のためか
それほどの人出にはならない。
結局きょうは昼過ぎに
モリゾウ君が一件の万引きを見つけ、
別なフロアーの私服警備員と一緒に
初老の女性を
事務所に案内しただけだ。
どうやらこのまま、
わたしの方は何も起きないようだ。
窓はないので外の様子はわからないが、
時計を見ると
もうすぐ日没だ。
ベランダに干したままの布団が
冷たくなっているのが
目に浮かぶ。
うっかり、アキラが
塾なのを忘れて
外に干してしまった。
1人息子で中学2年のアキラは
週に二回、火曜日と木曜日に
塾に通っている。
きょうは火曜日なので、
学校からそのまま塾に行き、
5時過ぎからラスト10時頃まで
隙間なく授業がある。
そのため
塾の近くのコンビニでおにぎりを買い
授業の合間に食べておき、
帰宅すると
ほぼおかずだけの夕食を持って
部屋にこもって勉強だ。
アキラは気の優しい子で、
塾のない日は
週一の宇宙クラブ以外は
帰宅して家事を手伝ってくれる。
わたしとしては、
アキラが受験勉強に打ち込めるよう、
もちろん
離婚の負い目もあるので
なるべくアキラを頼りたくない。
ただ、
干した布団や洗濯物を
取り込むことに関してだけは
早く帰宅した方がやるという
自然な流れとなっている。
その時、
中学生らしい少年が入ってきたのに
気づいた。
濃いグレーのジャンパーを着ている。
何かお目当てを探すでもなく
ゆっくり歩いているのが目についた。
イヤな予感がする。
(、、ちがうよね?、、)
サトコは
自然に心の中で
その少年に向かってつぶやく。
最近は
怪しい素振りの
ティーンエイジャーを見つけると
その時点でサトコの心は重くなる。
以前はそんなことはなかったし、
それまでのサトコの万引き発見率は高かった。
生活がかかっているから
熱心にならざるおえないせいなのか、
元々
性に合っているからなのか、
理由はわからない。
よくコツを訊かれるが
答えに屈する。
正直なところ、
悪質なケースの時はスカッとするが、
生活保護、認知症、空腹のためなどという
悲しい理由を目の当たりにすると
胸に砂を詰め込まれたような感覚になる。
特に
2ヶ月前のある事件からは
ティーンエイジャーの子をマークする時に
その胸の詰まりが強くなる気がする。
そんな時、
サトコはこの仕事に
自信がなくなる。
離婚後、サトコは
1人息子アキラと一緒に
姉の住む街の隣駅に引っ越した。
離婚した心細さは、
近くに姉がいてくれるというだけで
特に何かをしてもらわなくても
十分にありがたかった。
ただひとつの心配事は
アキラにとっては初めての経験となる
スズキからコリに名字が変わることだ。
サトコが学生時代に
名字で苦労したことを
アキラが経験するのが怖かったのだ。
だが、そのことは
どうやらサトコの杞憂に終わり、
男子と女子の違いなのか、
アキラのキャラクターなのか、
それとも
時代の変化なのか、、
アキラは全く名字について
嫌な思いをせずに過ごせているらしい。
それは
別れた夫からの突然の電話から始まった。
秋になってすぐ、
といっても
まだ暑さがのさばっていた頃だった。
その日は
珍しく非番と休日が重なったので、
サトコも息子アキラも遅く起きて、
アキラは食事をすると
図書館へ行くと言って出て行った。
日曜日の昼過ぎ、
なんとはなしに鼻歌混じりに
食器を洗っていると携帯が鳴った。
「、、サ、サトコか!?、、
いっ、一緒に来てくれ、、
行きながら、、話す、、
説明するから、、」
いつもは穏やかな元夫の声が
珍しく取り乱していた。
1時間後、
知らない駅に降り立った元夫とわたしは
小さな店に駆け込んだ。
その店は
プラモデル専門店で、
裏に案内されると
小さなスペースに
アキラが文字通り真っ白な顔で
椅子に座って俯いていた。
万引きをしたプラモデルの箱が
正面の机の上に置いてある。
ランニングシューズが
入るほどの大きさで、
派手な飛行船の写真が貼ってあり
なかなかの値段だ。
店のご主人、スナハラさんは
プラモデルが趣味で
退職後に始めたこの店と
この店に来てくれる客を
大事にする人だった。
アキラはここへ来て
宇宙に関するプラモデルを
見たり買ったりしているうちに
スナハラさんとも親しくなり、
特に買い物をしなくても
よくプラモデルの作り方や
新作について話しているらしい。
だからなのだろうか、
スナハラさんの顔色も悪く、
とても苦しそうに今回のことを
説明してくれた。
スナハラさんは
まるで
自分の息子がやったような罪悪感に
陥ってしてしまい、
その一方で
なんとかもう二度と、このようなことを
この少年にしてほしくない、
このことで
プラモデルへの愛を削いでほしくない、
そう考えてくれて、
保護者を呼んで終わりにしたいと
アキラに提案をしてくれたらしい。
サトコは
概要を元夫から聞いて
店に到着までの間、
実は
もやもやとする気もちを抱えていた。
いや、どちらかというと
ショックと悲しみと
言った方がいいのかも知れない。
(なぜアキラは万引きなんか、、
アキラは元夫に連絡をした、、
男の子は
やはり父親の方がいいのだろうか、、
わたしの何が良くなかったのか、、)
元夫と一緒に
スナハラさんに頭を下げながら、
わたしは
目の前の出来事よりも、
情けない話だが
アキラがわたしではなく、
元夫に連絡したという事実に
茫然としたまま
つっ立っているのが精一杯だった。
結局、
もう二度と万引きをしないという
誓約書を書いて
今回は許してもらえた。
わたし達が店を出る時、
スナハラさんは
「アキラ君、苦しいかもしれないが
またここに来て欲しいんだ、、
そして
できればまた一緒に
話をしようよ、プラモデルの、、
もちろん何かを買わなくて構わない、、
君がもう二度とこんなことを
『やっていない』という証拠に
一年に一回で構わないから
ここに来てくれたら、
僕がこの店を出したことに
誇りを持てるから、、
こんなことをお願いするのは
酷かも知れないが、
僕を助けると思って
来て欲しいんだ、、
君が来なくなると
僕は心配してしまう、、
人生の先輩として
やり方を間違えたのではないかと
かなしくなるからね、、
だから、たのむから
僕のことを助けると思って、、」
アキラはうなずきながら
軽く頭を下げてから
力なく歩き出した。
泣いているのは明らかだった。
わたし達、元夫婦も
涙を止めることができなかった。
店を出て
久しぶりに3人揃って歩く前を
薄汚れた白い猫が
横切っていく。
堂々としていて、姿勢良く見えるのは
気のせいだろうか。
わたしの頭の中に、
威風堂々と言葉が浮かんだ。
わたしはこれからも
この仕事を続けていけるのだろうか、、
いや、
続けてもいいのだろうか、、
当事者の親になってみて
サトコが見ていた万引きの世界に
悲しみという色が加わった。
だから
万引きしてもいいわけはない。
ただ、
そうさせない予防は
果たして今の世の中に
存在しているのだろうか、、
万引きはよくない!
商品名を連呼するように
ただただ
この言葉を繰り返しているだけでは
万引きは減ることはない、と
時代が証明している。
万引きをすると警察なのに、
イジメをしても
なぜすぐに警察ではないのだろうか、、
人の心は
物品よりも尊いものではなかったか、、
アキラにかける言葉を探せずに、
思考だけがぐるぐると勝手に
動き回っている。
帰宅途中買ったコンビニ弁当で
夕食にすると、
サトコは倒れ込むようにして
横になった。
皮肉なことに
その夜は離婚して初めて、
ぐっすりと眠れた。
一人息子アキラのこの事件は
それまでのサトコのやり方を
明らかに狂わせ始めた。
そして
ここ最近、
ティーンエイジャーの子をマークする度に
胸の詰まりが強くなる感覚が
止まらない。
きょうもそうだ、
胸が詰まっている。
サトコの前方で
ティーンエイジャーの少年が
キャラクターのペンを見つめている。
サトコはチラチラと
その少年を盗み見ながら
念力を送っている。
念力などというと
笑われるかもしれないのだが、
実際それ以外の解決方法を知らない。
万引きを見つけるよりも
近頃のサトコは
怪しい少年を見つけるとすぐに
(ダメ!
ダメだよー、、
お願いだからやめて、、
万引きなんてしないで、、
おねがい、、
おねがいだよ、、)
そう強い気もちで
心の中から対象の少年に呼びかける。
やがてその思いが通じたのか、
少年は
なぜかサトコに軽く頭を下げると
踵を返して立ち去った。
体中の力が抜けて、
思わずしゃがみ込みたくなるのを
こらえながら、
(、、潮時かな、、)
そう思った。
気がつくと、
このままこの仕事を続けていく自信は
もう
今のサトコには
一滴も残っていない。
帰宅すると
アキラがカレーを作っていた。
「あれ?
塾は?」
「インフルエンザで今週いっぱい
休みだって、、」
「ありゃわ、、」
「だいじょぶ、
ちゃんと勉強するから、、」
「、、そうだね、風邪引かない方が
大事だよね、、」
「うん、それに
ちゃんと話したいことがあったから、、」
「!?、、やだ、なにぃ?、、」
「別にたいしたことじゃないよ、、」
「、、、」
「座って食べながらでいい?、、」
「あー、うん、、
待ってて、、
うがいしてから、、」
ドキドキしながら
洗面所に飛び込んだサトコは
急いで手を洗い始めた。
アキラがきちんと話してくれた。
あの日、わたしではなく
元夫に連絡をした理由だ。
わたしが
子狸(コリ)の名字に戻って
万引きGメンをしているので
その息子が万引きをしたら
これからこの世界で
仕事がしにくくなるだろうと
考えての事だったらしい。
そういえば
誓約書の名前は
スズキアキラ となっていた。
あの時は気が動転していて
眼で見ていても、
頭がついて行っていなかった。
なんてことはない、
わたしも、ただの人の親にすぎない。
じゃあ、そもそもなんで
万引きなんて、と
言いかけたのだが、
また蒸し返すのを今はしたくない。
「思うように成績が伸びず、
むしゃくしゃして、つい、、」
その言葉通りとすれば、
結局
万引きをする理由なんて
ゴロゴロと
至る所に転がっているのだろう。
テレビでは
転職のCMが楽しそうに、
まるで
転職しないのは損とばかりに
流れていた。
お読みいただき
ありがとうございます、、
ぺこり、お辞儀です(*´-`)