温め鳥(ぬくめどり)とは、

冬の寒い夜、

鷹が小鳥を捕らえて足を暖めること、

または、その小鳥のことです。


鷹は翌朝小鳥を放しますが、

恩を返すために

その日は小鳥の飛び去った方向に

狩に行かないといいます。



 ⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘⌘









少年院を出たり入ったりして

結局は

こんな事をして生きている



まあ、世辞にも良いとはいえない、、




アツシが仲間と呼べる連中は

手に職を持っていたり、


はっきりとは言わないが

アツシと同じようなことをしていたりと、

実にさまざまだった



お互いに

打ち解け合っている奴もいれば

ただ腹の探り合いをしているだけの

奴もいる



相手の生活や仕事、

そんなことは気にしてはいないものの

正直なところ

だれかが正社員になっただとか

結婚しただのと聞く度に

心は疼くのだった




最近は


どこか誰も知らない土地に行き

少しは

まともな生活をしたいと思うようになり


ただそのためには

どうすればいいのか

さっぱりわからない、、



飲み屋に入ると



何か自分にとって

都合のいい情報はないかと


自然と耳をそば立ててしまう

そんな癖も気に食わない、、


八方塞がりのような生活の先には

どんな未来が、、


どんな酷い未来が待っているのだろう






気がつけば

今年ももうすぐ終わるというのに

俺ってヤツは、、




大晦日の夜、


知らない街で

一人で入った店だったが

元々まずい酒なのか

こんな気持ちのせいなのか


一口飲んだ酒には 

それ以上手をつけることはなく、


こんな日はこのまま

安アパートに帰るのはイヤだと思った


惨めに思えてしまい、

なんだかやるせなくなるに決まっている


テレビなんてつけようもんなら

上部だけの世間に飲み込まれそうになる




だが結局アツシは

店を出ると


どこかコンビニでも寄って

少しはマシな酒を買って帰ることにした



駅に向かうと



静かというよりも

音のない世界に

まるで

自分だけが放り込まれてしまったようで




いつだったかネットで観た


映画を思い出す




カタンという音に

アツシが目をやると


門に取り付けてある郵便ポストから

なにやら郵便物を取り出している

男の老人が目に入った




気がつくとアツシは

その老人の背後にまわり


老人が玄関のドアを開けると同時に

後ろから

その老人を押し込むようにして

その家に入りこんだ



その老人は驚いて振り向いたが

すぐに喜びを顔に出すと



「やっぱり来たか、、

 待っていたんだ、、



そう言うと



玄関をあがりながら

大声で家人を呼んだ


「ばーさん、ばーさん、、


そしてアツシに


「さっ、上がって、上がって!、、



アツシには

この状況が理解できなかったが、

この勘違いを利用して

上がらない手はないと考え



「おじゃまします、、



と言いながら

その老人のあとに続いた




恐らく

孫とでも勘違いしているのだろう、、


楽勝!

と叫びたくなるのを抑えながら

出されたスリッパをはく




ところが

奥から出てきた女の老人は


アツシの顔を見て怪訝な顔をした



アツシは心の中で


(あー、バレたかー、、


 きょうは手荒なことは

 したくなかったんだけど、

 こうなったら仕方ない、、



だが

そんな女老人を気にするわけでもなく

その老人は


「いやー、よかったよ、

 本当にありがとう、来てくれて、、

 また会えてよかった、、


 ばーさん、茶を頼む、、

 あっ、あと、

 君、夕食は?






アツシはどうするか決めかねて



とりあえず会話を合わせるように

「はい、もう食べ終わってます、、

 また会えてよかったです、、





「そうか、、

 大晦日だし、蕎麦でもと思ったが、、


 でもまあ、お茶くらいなら、、

 時間はあるんだろう?


 

そこへ女老人が

お茶と和菓子を盆に乗せてやってきた



「もしかしたらあなたが

 アツシさんね?、、




「えっ!?

 なんでおれの名を、、

 

アツシは内心の焦りを

顔に出してしまったが




その老人は笑いながら


「相変わらず人を笑わせるのが

 うまいなあー、、


 そう言うと

 その老人はとても

 生き生きとした声で笑った


女老人はそんな老人をみて

嬉しそうに


「ホントにあなたの言った通り、、

 ちゃんと来てくれたんですねえ、、




アツシは

狐につままれたような気分になり


なぜ自分の名前をこの老夫婦が

知っているのか

突き止めずにはいられなくなった



炬燵を勧められ

まるであやつられているかのように

素直に足を入れた



炬燵の中の暖かさが

アツシに脚の冷たさを教えてくれる


 





「どうだね、その後は?、、



「あっ?その後?、、





「そうさ、その後だよ、、

 わたしとの約束を

 守っていてくれたのかな?、、




「うっ、、

 なんとか、、



「そうか、、

 それは嬉しいことだ、、


 まあ、お茶でも飲みなさい、、




「あ、ありがとうございます、、

 いただきます、、


「よろしかったら

 このお菓子もどうぞ、、


 これね、お隣さんからいただいたのよ、、


女老人はニコニコしながら

そう言うと、

一つ手に取り食べ出した


アツシも黙って頭を下げてから

その和菓子を掴むと


口に入れた




強烈な甘さが

やけに心地良くアツシの口の中に

広がった



「、、おいしい、、



無意識にぽそりとつぶやくと



その老人が、



「あの翌日に仕事をやめたから 

 かれこれ何年になるかな、、

 

 、、、

 わからん、、

 


 

その老人が苦渋に満ちた顔になり

アツシが驚いていると


横から

女老人が


「認知症になってしまってね、、

 でも不思議!

 あなたを忘れてないなんて、、


当のアツシには

なんのことだか分かる筈もなく


戸惑っていると

その老人は


「、、まぁ、会えたんだからな、、

 良しとしようや、、



そう言うと恥ずかしそうに

お茶を飲み


沈黙の空気がアツシを

囲んだ



アツシが黙って和菓子を食べていると


突然


その老人の言葉で

心臓を鷲掴みにされたような

衝撃が走った


「君が警察に捕まって、、


 わたしを身元引受人に呼んだときは

 驚いたよ、、


 だけど嬉しかったなー、、

 明日で退職という時だったから

 タイミング的にはギリギリだったから


 まぁ、わたしとしては

 一滴残らず搾り切った感覚でね、、

 

 




やっとアツシは思い出した


18の時、友だちに脅されて

初めて万引きをしたあの日、


ものの見事に見つかって

警察に突き出されたのだ


離婚した両親は

二人とも行方をくらましていたので

母方の祖母に育てられていたのだが

その祖母は脳梗塞を起こして

病院に運ばれて入院中だった


自分には

誰も頼れる大人がいないことを


アツシはその時初めて知った



苦しまみれにネットで調べて、

アツシのいた中学校で

まだ校長先生をやっている

坂本校長に連絡をとると


なんと駆けつけてくれたのだ



特に何か

絆や思い出があるわけでもないのに

まるで父親のように振る舞い


ペコペコと頭を下げてくれた

 

その上

アツシが盗んだ

全く興味なんてなかった

キャラクターのキーホルダー代金を

立て替えて

買い取ってくれたのだ



そのおかげで

初犯ということもあり

とりあえずは事なきを得た、、




「君は言ったね、、

 明日の退職前にすみません、、


 立て替えた分は必ず

 返しに行きます、と、、


 待ってたんだ、

 本当に待ってたんだよ、、

 

 だが少し

 乱暴過ぎやしないか?アハハハッ、、


 あの入り方はちょっと

 いけないなあ、、

 な?そうだろ?、、アハハ、、

 君の左眉の上の傷がなければ

 正直わからなかったよ、、







それから半年も経たないうちに

アツシは捕まった


仲間があの校長の家を狙っているのを知り

その事を警察に通報するために


今までの過去と一緒に自首したからだ


今のアツシには何の後悔もなく


ただ、校長先生の認知症が

進まないうちに出所したいだけだった














最後までお読みいただき

ありがとうございます


嬉しいです

ペコリ←おじぎです