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猫と 散歩と 少しのパンさえあれば


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わたしは 生きていける。






30代だろうか、
色白で丸顔、
背はわたしと同じくらいだが
明らかに眼も体の線もわたしより
細すぎる男性の山口氏は
2匹の猫と暮らしている。

有名ブランドのロゴ入りの
グレーのポロシャツ、
紺のパンツからは真っ赤な靴下が
見えていて、
腕時計はなんだか物々しく、たぶん
あのサッカー選手と同じような物を
つけている。

わたしにでも、
この人はきっとおしゃれも
簡単にできる生活をしていると
すぐわかった。

買っているうちの1匹は真っ白で
もうすぐ1歳くらいの
やや小さめなカマボコちゃん、
もう1匹はサビ猫と呼ばれる模様で、
5、6歳くらいのアジちゃん。

どうやらこのアジちゃんが山口氏を
猫の世界に招いてくれたらしい。

今はカマボコちゃんとアジちゃんが
重なるようにして寝ている姿の写真が
携帯の待ち受けとなっているが、

毎日のように写真を撮って、
待ち受けを変えているらしい。

自宅には
有名な日本のメーカーの
一眼レフが三台もあり、
趣味は猫たちの写真を
撮ること「だけ」と、
見事なまでに言い切った。

その山口氏、

「独身男でこの歳になると
 そこそこお金はあるけど、、」

「あら、羨ましい、、」

「やだ〜、誤解しないでよ、、
 そっこそこ、だけなんだから
 フフツ、、」

「山口さん、まだ設計部にいるの?」

「設計なんですか?、、」

「わたしはたいしたことしてないけど
 ボスが一人で
 頑張ってくれてるから
 恩恵にあずかってるの、アハハハ、、

 氷もらっていい?
 お絹さん、、」

「どーぞー、、」

「ついでにこのお皿、もうカラだから
 キッチンに持って行くね、、
 
 だれか氷ほしい人いる?、、」

「だいじょうぶー、ありがと〜、、」

「足りてる、、ありがと、、」

「ありがと、だいじょうぶだから、、」

山口氏はわたしより
ずっと家庭的だと思いながら
アイスティを飲んでいると、

戻ってきた彼は突然、

「わたし、
 こけしみたいな顔してるでしょ?、、」

「、、、」

「、、?、、」

「そーお?、、」

「、、かなぁ?、、」

「いいのよ、別に、、
 自分でそう思ってるんだから、、

 おまけにこの喋り方だから
 よく間違えられるのよ、
 そっち系じゃないかって、、」

「ふ〜ん、、」

「?、、そうなの?、、」

「違うわよー、、
 ぜんぜん違うの!

 その証拠にお見合いなんて、
 100回以上したのよ、、」

「結構な数字ですね、、」

「一つの代理店にいると、、」

「代理店⁈」

「えっ?、、」

「だいりてん?、、」

「あー、それ、わたし結婚相談所って
 言いたくないから、、」

「なーんだ、、」

「なるほどね、、」

「こだわりがあるんですね、、」

「違うのよー、だって
 全然と言っていいくらい
 相談に乗ってくれなかったから、、」

「ものは言いよう、ですね、、」

「フフツ、とにかく
 一つの代理店にいると、
 お見合いの回数とか相談件数とかが
 増えていくのが
 恥ずかしいじゃない?」

「でも秘密厳守でしょ?、、」

「そうそう、、」

「わたしが恥ずかしいからヤナのよ、、」

「デリケートなんですね、、」

「代理店に通っているうちに
 デリケートにされちゃったのよ!、、

 まあ、
 元々のもあるかもしれないけど、、」

「それで?、、」

「うん、だから、4つ?、うーうん、
 5 つね、、
  5つの代理店に同時だったり
 時期をずらして入ってたんだけど、
 結局、ダメダメの連続でね、、」

「そんなに?、、」

「はりゃ〜、、」

「ホ〜ント、はりゃ〜なのよ、フフツ、
 笑っちゃうよね、、」

「あたしは笑えない、、」

「うん、笑えない、
 人ごとじゃないもん、、」

「確かに、、
 こればっかりは相性だから、、」

「やだ、なんかこわいなー、、

 そうゆうとこに行くと
 値踏みされちゃうみたいで
 一生行きたくないな、、」

「行かなくていーわょ、
 そんなとこ、、」

「それで?、、」

「それでね、わたし
 記録つけてたのよ、ちゃんと、、」

「、、?、、」


「キロク?」

「記録?」

「、、?、、」

「どんな相手でどこに行ったとか、、」

「へぇー」

「ほー、、」

「あと、上手くいかなかった反省や、
 お見合い相手と会った後の
 代理店からのアドバイスとか、、」

「それ大事そうですね、、」

「それって、つまり、、
 相手のイエスではない理由?」
 
「もしかして、、
 なぜまた
 会わないのかっていう理由?、、」

「お断り理由、、」

山口氏はそんな言葉を気にする風でもなく

「でね、ある日気づいたのよ、、

 あれ?
 わたしこのまま独身?って、、」

「そこですか、、」

「まぁ、
 フツーですよね、それって、、」

「どう思ったんですか?」

「うーん、、
 それも別にいいんじゃない?
 ってね、、」

「そ〜ですよ、代理店なんて
 当てにならないですよ、、」

「ここで結婚している人、
 一人もいないですしね、、」

「ホントだー!」

「わぁ〜、だれもいない、、あははっ」

「なんかさっきより
 絆深まったりして、ハハハッ、、」

「確かに、、あーはっはっ、、」

場は突如活気づいたが、
山口氏は浮かれることもなく
烏龍茶をゴクンと飲むと
淡々と話を続けた。

「そりゃあ、親や親戚の手前
 結婚したいって思ったけど、、」

「あー、わかるなぁ、、
 やっぱ、みんな一緒なんだね、、」

「それ、ありますね、、
 人から言われるとムカッてするけど
 ホントは考えてんのよねぇ、、」

「そうそう、
 考えてるのに言われるから
 なんかヤになる、、」

「あれと一緒よ、アレ、、
 ほら、子どもに 
 宿題しなさいって言うと、

 いまやろうとしてたのにー!って、、

 でもママに言われたから、
 やりたくなくなっちゃったー、って
 言われちゃうパターン、、」

「うふふふっ、
 よく言ったわ、ソレ、、」

「あたしも、、

 でもまんざら
 ウソじゃなかったのよねー、、」

「アハハッ、それと一緒だね、、」

「そうは思うけど、、
 でもね、わたし、、
 
 思ったのよ、、

 親の手前ってことは
 自分が主役じゃないのよね?、、」

「あー、、たしかに、、」

「そうよね、そうなりますね、、」

「ホントだ、、」

「ねぇ?
 おかしいでしょ?」

と、山口氏は同意してもらえて
ホッとしたのか
とても優しい声で、

「わたしね、、
 もちろん親も大事だけど
 自分の人生だから、、

 たったの一回しかないんだから、、

 自分の人生なんだから
 自分が主役でいいんじゃない?
 って、、」

「言われてみれば、、
 自分が主役じゃないって
 おかしいわ、、」

「たしかに変ですよね、、」

「せっかくの自分の人生なのに、、」

「そうなの!
 だからわたし迷ってね、、

 これからも代理店の紹介でお見合いを
 続けるか迷ってね、、」

「ふ〜ん、、」

「山口さん、そんな風だったんだ、、」

「フフッ、、
 でね、
 記録ノートを
 最初から見直してみたのね、、

 ついでにかかった費用も計算して
 トータル出してみたの、、」

わたしはもちろんのこと、
みんな興味津々に
山口氏の顔を見つめている。

「、、そしたらね、、

 もー、ウソみたいなホントの話、、

 デート代とか新調した服や靴とか、
 み〜んなひっくるめてよ、、」

絶妙な静けさの後、
山口氏の言葉と共に
リビングには絶叫が響き渡った。

2、3匹の猫が反応したようだが
特に逃げ出す猫はいなかった。

たぶん、多分だが、、

絹本さんの声は一般的な人よりも
明らかに大きく、
ハキハキとしていて、

まるで
胸元にマイクをつけているような
音量なので、
猫たちは慣れているのかもしれない、、

「、、500マン以上よ、、」

「え゛ー⁈」

「500マン⁈」

「えっ、えっ、500?」

「ホント⁇」

「500だって、、」

「すごいですね、、
 計算間違いってことないの?、、」

「そうそう、ダブってるとか、、」

「ホントに500?、、」

「ホントよ!
 500万以上よ、、
 電卓使って2回も計算したわよ、、」

「それにしたって、、」

「何年間、通ってたんですか?、、」

「、、25からだから、
 8年ちょいかな、、」

「それも長いですねぇ、、」

「それでも500って、、」

山口氏はウケたことが嬉しそうに、

「ねぇ?、、
 びっくりよねぇ、、

 わたし叫んじゃったわよ!

 だれもいない部屋で、、
 『ウッソー』って、、アハハハ、、」

「500万か〜、、」

「ちがうの、
 ホントは500万以上だったの、、
 でもその数字、言いたくないの、
 悔しくって、、」

山口氏は小さなトーンで
つぶやいたが、
わたし以外の耳には届いていないらしく
500が一人歩きしていた。

「500万、、
 社会勉強にしちゃあ高いなー、、」

「500はきついわー、、」

「500あったらなに買える?、、」

「ハワイ何回行ける?
 台湾もいいな〜、、」

わたしも負けじと

「自炊やめちゃいますよね、、」

などと言ってみた。

山口氏の横にいる
わたしより少し歳上のような女性、
渡辺さんがストレートに、

「誰かに貢いだりとか
 しちゃったんですか?、、」

「それはないけどー、、
 だって結局一人につき一回しか
 会わなかったから、、」

「、、、」

「、、、」

「、、、」

「貢いだりはしなかったけど、
 クリスマスとか
 誕生日とかに近そうな頃は
 手ぶらでは会えないでしょう?、、」

「そうなんですか?、、」

「そうよ、ほら、わたし
 こんなこけし顔だし、、」

「顔は関係ないですよー、、」

とわたしが言うと、
すかさず渡辺さんが

「う〜ん、そーかなあ?、、 

 だって、お見合いの紙とかに
 顔はどんなんでもいいって項目
 ないんじゃない?、、」

山口氏は頷きながら、

「ないわ、なかったわ、、
 
 逆になるべく細かく
 希望を書くように言われたから、、」

「もし顔抜き、ってしたら
 じゃあ何見るの?、、」

「趣味?、、」

「いや〜、年収でしょ!、、」

「年収見ながら話すの⁈、、」

「どうやって見ながら?、、」

「頭で年収思い浮かべながら
 話すとか、、」

「え⁈、、」

「それひどくない?、、」

「それはちょっと、、」

「あ〜、でもあたしは
 わからなくもないかなあ、、

 だって、蓋開けたら
 ド貧乏ってヤダよー、、」

「ねっ?
 そうだよね?
 それならまだ
 ひとり慎ましくの方がいいわ!、、」

「たしかに、、」

山口氏が寂しそうに、

「結局わたしは
 代理店を肥やしてあげただけなの、、」

と、言ったので
絹本さんが取りなすように

「とにかく顔は好き好きだし、
 どこかに相性の合う人が
 いるわよー!、、」

皆、うん、うんと頷いたが、
当の山口氏は、

「百歩譲って、いたとしても
 今だに会えてないし、
 これからも
 会えるとは限らないから、、」

「それはみんな同じだよ、、」

「そうそう、、」

「っていうか、500万かー、、」

「500は衝撃すぎて、、
 
 ごめんね、
 山口さんの気もちよりそっちが、、」

「いいのよ、事実だから、、」








つづく




ここまでお読みいただき

ありがとうございます



ペコリ

↑おじきです




この話は順不同にでるとおもいます

ご了承いただけますと幸いでふ

*文と写真の時期は一致しておりません