『人間オンリーではなく、、』

あまりにも無造作な言い方だった。

だがそれは間違いなく胸に
まるでとがった小枝が突き刺すように
いや、それ以上の
えぐられるような鈍い痛みが走った。

僕はそんな痛みを感じながらも
今度はDr.夜摩口の視線から逃げずに
真っ向から見返した。

僕とDr.夜摩口の目線は短い間に強く結ばれ
それが僕を熱く勇気づけた。

その勇気が冷めてしまわないうちに

ーもちろん言わないでおくという
      選択肢はなかったのだがー

僕は堰を切ったように

「お願いします!
 苦しいんです!
 もう本当に疲れてしまって、、
 どうしたらいいのかわからなくて、、

 お願いです、助けてください、、
 夢や記憶を消してください、、
 
 、、毎日、、
 この頃は気がつくと
 一日中でも同じことをダラダラと考えて
 しまっていて、、

 事実かどうかもわからないことで
 病院やメンタルクリニックにいって
 相談するのはなんだか
 悪いことのような気がしていたんですが

 というよりも嘘をついていると
 思われたくないので、、

 第一、事実だったとしても
 僕に起こったことについて質問されても
 僕自身が全然わかってないので
 どう答えていいのか、、」

Dr.夜摩口は眼を逸らさずに
しっかりと僕を見つめたまま
特に励ますでもなく
ただただ柔らかくうなずきながら
僕の話を聞いてくれている、、

それは生きることへの自信やたのしみを
失ってしまっているいまの僕に
久しぶりの小さく危うくはあるが
本物の肯定感をあたえてくれた。

「、、、こんなことは、、
 だれにも相談できないし
 それに何回も言うようですが
 夢なのか現実なのか、、

 勘違いかもしれないし
 本当にあったことなのか
 確かめようもなくて、、

 かといって確かめたところで
 どうすればいいのかもわからなくて、、

 でもお願いです!
 頭がおかしいとか
 狂言だとか思わないでください!

 もしそんなふうに思われたら僕は、、
 僕はもう、、、」

ややくぐもった声で
苦しみに打ち勝つように話すと
残っていたハーブティーを
一気に飲み干した。

心臓はトクンと鳴らなかったが
明らかに僕のからだには
変化がおきたようだ。

僕の内側で縮こまっていた
からだ中の血管がシュルシュルとのびると
それまで我慢して
静かにしていた血液たちが
毛細血管のすみずみにむかって
喜々として勢いよく流れ出す、、

そんな感覚に僕は気づいた。

外目の僕はそれとは関係なくいたって平和で
海水に浮いている体と共にあるような気分で
フワリフワリとして、、

僕がハーブティーを飲み干すのを見ていた
Dr.夜摩口は
また儀式のように
左手首のブレスレットを
二、三回揺らすようにすると
ボットから僕のカップにハーブティーを
少しずつ入れては止める、あの注ぎ方を
繰り返した。

僕は
カップにハーブティーが注がれていくのを
見ていると
理由もなく穏やかな気分になっていった。

「うん、うん、、そうだよね、、
 わかるよー、しってるよー、、
 だいじょうぶだからねー、、
 いままでそういう人ばかりを
 診てきたからねー、、」

Dr.夜摩口の
いたわるようにしっとりとした声は
胸にしみ入り
僕の希望に温かい灯をともしてくれた。

この先生なら
ばかげた話を信じてくれるかもしれない、、

僕は
そんな小さな希望にすがろうと心に決めた。

指先で
うっすらとにじみ出ている涙をぬぐうと
少し落ち着きをとり戻した。

静まり返った部屋に
Dr.夜摩口の動かすペンの音が響いている。
僕はそのペンのうごきを
ゆったりとしたきもちでみていた。