琵琶湖近くの石山に一泊したのは、山の中のMIHOミュージアムに行くバスが石山駅からしか出ていないから。

開館と同時に飛び込んで展示を見て昼に移動すれば、京都、名古屋経由で津に15時半には到着するという目論み。

バス停に行くと平日の朝一番だというのに凄い人数の人が並んでいる。
そ、そんなに「土偶」って人気あるっけ?(^_^;)

ギュウギュウ詰めのバス、しかも長い列を平気で横入りするオジサンに不愉快になるが、平沢進を聴いて気分を揚げるように心がける。
1時間もこのギュウギュウ詰めに揺られて山道を行くのね、と思っていたら「臨時バスが次のバス停に待っているから、お立ちの方はお乗りかえ下さい」とアナウンス。

やれやれ、とバスを乗り換えて座れば、乗り換えバスでも座れなかったおばあさん2人組がオロオロしているのを見てしまう。
2人がけの座席の奥に座っていたけれど、「お座り下さい」と声をかけて立つ。
おばあさん2人がヨロヨロ移動して来る間に私の隣で仕方なさそうに立ったオヤジはまたちょろっと席に座り直しやがる。(オヤジ、テメェ!!)
が、もうひとり四十代くらいの男の人が立ってくれて、おばあさんは2人とも無事に座り、私もイライラしていた気分が晴れやかになり平沢進師匠の楽曲とともに美術館に到着。
おばあさん達が丁寧にお礼を言ってくださったので気を良くして「いえいえ、レディーファーストですから♪」などと嬉しがらせを言ってしまう。

「大土偶展」は、関西の陶芸家達が口々に「あれは見ろ」と言っていただけのことはあって、圧巻だった。
国宝の4体の土偶がみんな出ていたのも豪華だが、所謂「宇宙人」タイプ、遮光式土偶が様々な年代を網羅して10体くらい一列に並んでいるのは見応えがあり、縄文遺跡と今に続く神社と太陽の通り道(レイ・ライン)の関係を解説したムービーも楽しく見る。
今年の冬至はどこか関連する神社にでも行こうかな。

MIHOは常設のギリシャやエジプトの古代美術も凄いんだけど、気になるのだけガン見して、あとはさらっと流し、正午前の帰りのバスに乗る。
ここまで順調。
バスの中で津への経路を検索したら、ローカル電車を小刻みに4つ乗り継いで行くのが実は最速にして最安、と判る。

お昼を食べる余裕まで出たので、チェーン店の定食屋に入る。
が、食券売場の前でずっと迷っているカップル、そのカップルとすぐ後ろに並んでいる私の間にねじ込む様に横入りしてきたジイサンに嫌な気持ちになってしまい、店を変える。
マクドナルドくらいしかあとはないので、普段あまり入らないマクドに入る。

田舎の駅前には溜まる場所がないんだろう、学生でごった返している。
なんとか席を確保して食べ物を買って座った、と思ったら

なんの拍子かホットコーヒーを盛大に引っくり返す。
コーヒーは殆ど自分経由で床にこぼれた。
幸い濃い紺のワンピに古着の男物の黒羽織という出で立ちだったので、布の上をコーヒーは滑り落ちていき、あまり染み込まないで火傷も後で濡れて冷たいこともなかった。
他人に引っかけなかったのが一番の幸いだ。
自分でカウンターに店員さんを呼びに行って、掃除をして頂く。
新しくコーヒーももらって落ち着いて食事を摂るが、今までスイスイ来ていた旅行に、何か今日は不協和音みたいなものが混じってきたのを感じる。

いやいや、ここでしゅんとしたりトゲトゲしては逆効果、と打ち消してニッコリしてみたり・してみる。(笑)

余裕を持って東海道本線に乗って、草津から草津線に乗り換え、柘植までコトコト行く。
「草津」「柘植」なんて電車で信楽に行く時のお馴染み駅だ、とぼんやり思う。

柘植に着いて「関西本線」を探してホームを移動。
一両だけの都電みたいな電車に怯んで行き先を確かめていると、運転手兼車掌さんらしい人が、「どこに行きますか?」と声をかけてくれる。

「亀山経由で津に行きたい」と言うと、「その電車は出ました、次は一時間後です」と。

絶句。私は先ほど降りた電車の向かいにいた電車に乗らねばならなかったのだ。(が、やはり一両だけの電車なので見逃したらしい。)
一時間もロスしたら美術館は閉まってしまう!
頭の中で目まぐるしく、津に行くのは止めて山梨に帰るか、ダメ元で津まで行くか考える。

困惑した顔をしている私に運転手さんが「一時間もここにいたら寒いから、これに乗って伊賀上野で逆方向の電車に乗るのはいかがですか?」と言ってくださる。
なんかほのぼのと親切。
可愛い一両だけの電車の中でも、このまま津を目指して泊まりがけで平櫛田中の展示を見るのか諦めるか、ぐるぐる考える。

ポスターを見たときに、雷に打たれたようになって「行きたい!」と思った、あの感覚に嘘はつけない気がした。
まず宿を探してみて、安く泊まれる所を見つけたら、また考えることにした。

「じゃらん」で、津のホテル・サンルートがシングル特別料金4300円で泊まれるのを発見。

え え い ! 泊 ま っ ち ま え !!

馬鹿みたいだけど、行ったこともない地方の美術館の地味な日本の木彫作家の回顧展を見るだけのために、知らない土地に泊まることにした。
携帯ネットで予約を入れて、なんとなく虚脱して笑った。

たぶん、これは何か意味がありそうだ、と思いながら電車を乗り継いで、津に着いた。
とっぷり日は暮れていた。