それぞれがそれぞれに「やっちまった」日というのがあった。

まず、私。
先日アリーナに手伝ってもらって作った(自分の)胸の石膏型がディテールがつぶれていて納得いかなかった。
私に必要なのは「毛穴の見えるような細部」で、ボリュウムじゃないということ、胸はとりあえず片方だけあればいいという話を型取りの時に説明したんだけど、彼女には彼女の固定観念があるので聞き入れてもらえなかったのだった。
アリーナはもうすぐ帰ってしまうし、また説明しても押し切られたら面倒なので自分一人で取り直すことにした。

で、朝早くに石膏室に出かけて行って、セブンイレブンのカレーごはんが入っていたプラスチック容器がぴったりだったので、それに石膏の入る穴を作って、ガムテープで胸に張り付けて、石膏を流し込む。
ところが穴にうまく石膏が流し込めなかったり、やっぱり重さの問題でどうしてもガムテープと体の間から石膏が漏れてしまって予定通りにはいかない。
手こずっているところにアリーナが石膏室に入ってくる。

「オオオッ、キョウコ!私よ、大丈夫、大丈夫!!・・・・・なんで私に手伝ってって言わなかったの?何か手伝うことはない??」
とりあえず盛大に失敗している最中なので、石膏を追加で作ってもらって流し込んでもらう。
流し込んでもらっても横からモレが止まらないのでなかなかうまくいかない、が・石膏が固まり始めてきたらモレも止まって何とかなりそうな感じになる。
その間・半裸でアリーナのお小言をず~っと聞く。

「なんで私に頼まないのか、前の型がうまくなかったのは私もわかっていた、
寝た状態で取ったから形がフラットなのが良くない。
(だからそこでうまくないんじゃないってば!by心の声)
その時気に入らなかったらまたやりましょうといった、私はもうパッキングだけしか用事はないし、いくらでも手伝えるのに、なんで頼まないのだ!
この型もうまくいかないみたいだし、明日またやりましょう!!」

・・・・その通りなんだけど、なんで私は聞いていて仏頂面をしてしまうのか。
「なんで頼まないのか」と言われて「いろんな意味で面倒くさかったから」というのを英語でなんと言うのかもよくわからんし、この好意的な申し出でなんでこんなに嫌ぁ~な気分がしているのか、自分でも困ってしまった。

「型はもしかしたらこれが使えるかもしれないし、これを試してみてからまた必要なら頼むから」と、隠しようもなくウンザリした態度で答えてしまう。
あああ、「やっちまい」かけている。

とにかく石膏が固まるのを待って体から外してみて、漏れた石膏の掃除をして、自分にたくさんこぼれた石膏の始末もして、パンツにも大々的に石膏がこぼれたので着替えにアパートに戻った。
戻りながら自分の「波動」ってやつがものすごく落ちている感じがした。
マズイ。マズイのだけはわかる。

歩きながらなんで自分がこんなに気分が落っこっているのだろうと考えた。
アリーナは純然たる好意で言ってくれているのに、なんでこんなに嫌なんだろう。
私はまだ人に素直に甘えることができないんだろうか?
・・・甘える、甘えないの問題じゃなくて、「他人」が介在すると思った通りにできないから嫌なんだよね。
それを完璧に指示できるようになるまでこういう「試し」は終わらないんだろうか?
などなどなど。
アパートに帰ってシャワーを浴びても気分は落ちたまんまなので仮眠してみた。
1時間寝てみても、まだ回復しない。
困ったな、と思って信号待ちをしていたら歩道に突っ込んできたスクーターのオジサンにどなられたりして、「あぁドンヨリしていると、こういう目にあうんだなぁ」と思い知る。

まだこの状態じゃスタジオには戻れない。
そこで博物館のカフェに行って、バナナタルトとコーヒーを食べながら備え付けの台湾の雑誌をめくっていたら、だんだん気分が晴れてきた。
甘いものは偉大である。
行けそうな感じが出て来たのでスタジオに行ってぼんやり自分のラップトップでメールチェックをしていたら、スタジオ管理の青年ケン君のところに女性が数名現れて何やらお菓子を置いて行った。
「キョウコ、ドウゾ、ドウゾ!」とケン君が天使の笑顔で勧めてくれるので頂いてみたら、カリッとした皮にピーナッツの粉末が包まれた も の す ご く 美味しいお菓子だった。
思わず顔がほころんじゃう。本当に甘いものっていうのは偉大だ。
ケン君にペーパーフィルターのコーヒーを振る舞って、なんというどこのお菓子か筆談で訊いたりしていたらアリーナ登場。
アリーナにもコーヒーとお菓子を勧めて3人で楽しく食べる。

「あなた、今朝は本当に変だったわよ、私は手伝うって言ってるのに」。
アリーナが話を蒸し返して来た。
・・・・・決心して本当の本当に思っているところを言ってみることにした。

1に、私は人のものを頼むのがあんまり得意でない、それは私のキャラクターであり、克服すべき課題である。
2に、人に手伝ってもらうと、時として自分が思っているのと違うものになってしまう。それが嬉しくない。
3に、自分の思った通りにしようとしても、人はよくその人自身のアイデアを押しつけてきて、私に自分のやり方を押しつけてくる。断ると「なんでだ?」「なんでだ?」と私を説得しようとする。それがすごく疲れる。

これ、「人は」(people)と言ったけど、アリーナがそういうことをしがちだっていう事を含ませている。
西洋人のオバちゃんによくいるタイプなので慣れているんだけど、善意の助言でも気まぐれの提案でも、彼女たちはとにかくこっちが彼女たちの意見を採用しないといくらでも「なんでだ?」「なんでだ?」とこっちが戦意喪失するまで食い下がる。
上記1~3を説明する間にも「そんなの相手に自分の思っていることをわかるまで説明すればいいじゃないの!」など「アリーナのご意見」が合いの手で入る。

「胸のディテールがちゃんと出るのが大事なのだ」と説明したら
「胸にディテールなんて無い!」と言い切るので、
「だ・か・ら・そうやって『人は自分の意見を私に押し付けようとする』じゃない?」
と 切り返したら、さすがに思うところがあったようで、
「・・・・・わかったわ、明日は自分の考えは言わないであなたの指示だけをするようにするわ」とアリーナ。

・・・・・これで私の「やっちまいかけた」はうまくケツが拭けたんだろうか。
なんで嫌な気持ちがするかという事をどうにか表現して相手に解ってもらえたわけだから。

この日はすごく濃い一日だったので、まだ続きます。