彫刻の様な顔立ち。

周りの男達から頭一つ抜き出るほどの長身。

すらりと伸びた長い手足。

均整の取れた身体。

その全てを兼ね備えた男が姿を現し、ラウンジは一気に騒がしくなった。

「ちょっと、見たことないけどモデル?俳優?」

「テレビに出てた?ああ、見逃したのかしら。」

「信じられないくらい素敵・・」

女性達の溜息交じりの声が聞こえてくる。

 

「遅くなった、ウンス。」

 

「えっ?」

一瞬で女性達を虜にした男が、自分の目の前に立った。

何故・・誰・・どうして・・

頭にそんな疑問が浮かんだが、彼の瞳を見た途端、信じられない感覚に襲われた。

黒曜石の様な深い夜の色。

その瞳の奥に隠れる闇より濃い赤・・

まるで人間を支配しようとする魔王。

いや、神話の世界から舞い降りた神の化身。

気を許せば、無意識に引き寄せられる。

 

「ウ・・ウンス、ウンス、おい。」

「えっ?あ、先輩。」

男の声に、現実から離れた意識が引き戻された。

「誰だ、知り合いか?」

「はい、い、いいえ、そうじゃなくて・・」

そう、自分の記憶が正しければ・・

彼は貧血男。

「患者さんです。」

ウンスの言葉に黒曜石の瞳が一瞬揺れる。

「何だ、そうだったのか。」

「ええ、偶然ですね、えっと・・チェ・ヨンさん?身体はもう平気ですか?」

ウンスは動揺を隠そうと必死に作り笑いを浮かべ男の顔を見上げた。

だがヨンの態度は、あくまで患者と医者という立場で接しようとする彼女とは逆だった。

「偶然じゃない・・」

親し気にウンスの耳元に顔を近づけ、そして甘い声で呟く。

「はい?」

「約束したはずだ、昨夜。」

「や、やく・・約束?!」

昨夜って・・

確かに彼を診察した。

いつもの様に輸血を・・そして、その後は・・

ウンスはおぼろげな記憶をたどった。

だが輸血をしたところまでしか思い出せない。

「おい、ウンス、どういうことだ?」

「あ、私にもさっぱり・・」

キム先輩の機嫌が悪くなったのが分かる。

当然と言えば当然だ。

初めてのデートに見ず知らずの男が現れ、約束が如何の聞かされれば、この場を立ち去っても不思議じゃない。

「あ、先輩、違います、誤解しないでください。」

ウンスは慌てて彼の誤解を解こうとした。

「誤解?」

「はい、この人の勘違いです、約束なんてした覚えはない・・」

はず。

彼女の頭の中に、一瞬ある記憶が甦った。

信じられない思いで男の顔を見上げる。

あれは夢?

耳元で聞こえた甘い囁き。

自分の唇を奪う熱い口づけ。

そして・・

「きゃあぁぁ!!」

ウンスは叫び声を上げて立ち上がった。

「ウンス?!」

「うそ・・夢よ夢、全部夢よ、そんな事あるはずがないわ。」

一気に体が熱くなる。

「ウンス・・」

そう、この声だ。

「やっと・・」

肩に触れる冷たい手・・

「思い出したか?」

闇だ、この声、この手・・すべてが闇。

 

私は闇に全てを奪われた・・

 

「ウンス、どうした?顔が真っ青だぞ?」

「先輩、ごめんなさい・・」

「何を誤るんだ?まさか、本当にこの男と約束してたのか?」

流石に場慣れしている男も、この展開には動揺を隠せない。

「そうじゃなくて・・」

どう話せばいいのか分からなかった。

正直に話す?

何を?どう?自分でも信じられない出来事をどう説明する?

「話せ。」

「えっ?」

ヨンは彼女の首を隠す白いニットに手を掛ける。

「此処に俺の付けた刻印がある。」

「なっ?!」

ウンスは慌てて首を抑えた。

だが、ヨンはそんな彼女の手を掴み、向かいの男に冷たい視線を向けながら首筋に口づける。

 

「お前は確かに約束した、俺の腕の中で・・」

 

俺に身を委ね・・

俺を愛すると・・

そして永遠の時を共に生きると・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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