私がクロスビートと出会ったのは高校に入った頃だった。しっかりとした分厚い紙と明確に星印で新譜を評価しているところに信用と安心感をおき、ほぼ毎月のように購入していた。特に星が4つ以上つけられた新譜は“無条件で買い”でほぼ失敗はなかった。5つ星を目にした日にはどんな名盤なんだと胸を高ぶらせた。時に辛口コメントもあり、アーティストにも読者にも媚びない姿勢がかっこよかった。周囲に洋楽を聴く友人がほとんどいなかったため、音楽の対話のほとんどはクロスビートの紙面上で行っていた。大げさに聞こえるかもしれないが、一人の友人のような感覚すらあった。よく比較対象になるロッキンノンはおもしろい特集を組んでいる時と年間ベストを発表する号だけつまみ食いする、そんな調子のいいクロスビート派高校生だった。これは諸説あるが、よりコアな情報、よりインディーズな感じがロッキンノンよりクロスビートにはあった。
それからしばらくはLibertines、Mando Diao、JET、Strokesなどの登場に熱中し、実際に洋楽シーンは随分と盛り上がっていた。しかし一時を境に洋楽(新しく出るもの)に熱いものを感じなくなった。2006年ぐらいからだろうか?
いわゆる邦楽メロコアなるものに自分自身が熱を上げていたことも一因にはあるが、やはり洋楽ロックシーン全体に元気がなかった。「昔の音楽は良かった」などと早くもオヤジめいたことを言う大学生をやっていた。唯一Arctic Monkeysの鮮烈なデビューには目をきらめかせたが、残念ながらそれに続くバンドは出てこなかった。必然的にクロスビートとの距離は遠のき、日に日に買うことの方が珍しくなり、しまいには高校生の頃あれほど楽しみにしていた年間ベストを発表する号さえ手にとることがなくなった。クロスビートに限らずだが、そこで賞賛されている音楽に魅力を感じなくなった。「なぜこれが年間ベストディスクに選ばれるんだ?まぁしかし他に何があるというわけもない…」そんな葛藤に苦しんでいた。同じく制作サイドも洋楽不毛の時期が長らく続くことに葛藤されていたことは容易に想像できる。NIRVANAをはじめ、The Beatles、Oasisなどファンの母数が多いアーティストを特集した苦肉の号が目立ったのもここ数年の特徴に思えた。
再会は突然に、そして残酷な形で訪れた。2012年の暮れ頃から洋楽シーンは徐々に活気を取り戻していった。Jake Buggという驚異の新人の登場、Cloud Nothingsは米インディーロックにUK独特の渋みを加えた痺れる曲を発表した。2013年に入ってからもその勢いは止まらず、Arctic Monkeysの完璧な新譜、早くも届いたJake Buggの2nd、ジャンルにとらわれないDaft Punkの新譜、大ベテラン勢ではDavid BowieやPaul MacCartnyの新譜は常に新しく斬新なものを探求する素晴らしいアルバムであった。Oasisのノエルが目をつけたことで一躍有名になったTemplesも素晴らしいインディーバンド。Drengeという2ピースバンドも非常にかっこいい。さて、久しぶりにクロスビートを手に取ってみるかと思った矢先に飛び込んできたのが“クロスビート休刊”の知らせだった。
クロスビート休刊の真相はわからないが、おそらくは売上の低迷。まず間違いない。そもそも年々洋楽を聴く人が減少していく中、ロックに焦点を当てた音楽誌が売れることは想像すらしがたい。まして魅力的なバンドの登場がないまま数年の時が過ぎ、私のように離れていったクロスビートファンがいるのだから目も当てられない。
もう一つ、言うまでもなくネット社会が日進月歩で充実していることも少なからず起因している。洋楽ロックという限定的な情報を有料の音楽誌として扱うこと自体に魅力がなくなってきている。ネットに繋ぎ、バンド名を入力すれば欲しい情報は大抵手に入るし、Youtubeで音源に触れることやライブ映像を見るのは限りなく我々の日常に組み込まれている。オマケにそこから同系列のバンドの音源に出会うことも容易になった。音楽誌を読み漁って本当に気に入るかわからないバンドに関する文章を読むより数倍迅速でわかりやすいのである。音楽誌が消えていくのは何ら不思議ではない。月刊クロスビートの最終号の表紙に書かれた文字は“ロックンロールに明日はあるのか?”であった。
それほどに厳しい環境の中でもなお私は音楽誌の未来を応援したい。理論的に考えると音楽誌の存在意義は限りなくゼロに等しい。しかし音楽誌を読むあのワクワクはネットでは味わえない。言葉では説明できない魅力がある。
ようやく洋楽シーンが復活してきた年にクロスビートが休刊になってしまったことは非常に皮肉で残念なことであるが、今後は特集本としてその力を発揮してほしい。少し先延ばしされてしまったが、私とクロスビートの再会は来日公演にあわせて発売されたPaul MacCartneyの特集本ということにしたい。頻度はゆっくりになるが、今後も長いお付き合いをお願いしたいと思う。以上を全クロスビートに捧げる文章としたい。
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