日赤名古屋第二病院において、16歳の高校生が研修医が2回誤診により帰宅となり、その後死亡した事例。

 

上腸間膜動脈症候群を胃腸炎と誤診して2度帰宅させた。

 

問題となっているのは誤診自体もそうだが、研修医が単独で帰宅判断した点が問題視されています。

 

現在の日本の臨床研修において、救急患者を帰宅させる際には、必ず上級医と相談することとなっています。

 

上腸間膜動脈症候群は消化器外科の先生からすれば、もの凄く珍しくはないかもしれませんが、それでも頻度としては比較的稀で、私自身もそれなりに内科救急で腹痛の対応を頻繁に行ってきた中でも、この疾患は数える程しか経験がありません。

 

しかし、私達が救急で腹痛を診るにあたり、非常に注意が必要な疾患の一つですので、特に症状の強い症例においては常に鑑別疾患に挙げています。

 

初期研修医が複数回経験するような疾患ではないであろうし、そもそも急性胃腸炎でさえも診療経験が多くはないはずなので、上級医に相談して方針を決めなければいけないのは、当然のことです。

 

それが行われなかった要因は定かではありませんが、病院側の説明で、その体制が徹底していなかったということでしたので、そういうことなのだと思います。

 

 

その点について、私がなぜ今回記事を書いたかというと、本件がそうだったかは別にして、日本の医療現場、特に救急においては、とても気になる点があったからです。

 

初診時、2023年5月28日午前5-6時に来院されたようです。

 

この日は日曜日ですので、休日体制となります。

 

最初に対応した研修医は採血とCTまで撮影したようです。

 

これらの結果が出たら、本来であれば上級医に相談するのですが、もし他に救急患者がいなければ、上級医は寝ている可能性が高いです。

 

または、他の重症患者の対応に追われていたかもしれません。

 

いずれにしても、一般的に上級医に相談しにくい時間帯のように思います。

 

研修医にとって上級医への相談と他科コンサルトは、非常に辛い業務です。

 

世の中相談しやすい人達ばかりではありません。

 

最近は電話でパワハラ的な言動をしてくる人は少なくなったかもしれませんが、非常に無愛想な電話対応をする人は未だに珍しくありません。

 

あんまり愛想よくしすぎるといいように利用されるとでも思っているか知りませんが、常々人としてどうかと思っています。

 

この時いた上級医はもしかしたらとても誠意ある優しい先生だったかもしれません。

 

でも、普通は相談するように指導されているはずなのに、そうならなかったのは、今まで研修を行ってきた過程で、上級医の相談や他科コンサルトで辛い経験をしたからという可能性は高いと思います。

 

医療現場において非常に大きな問題の一つだと思っています。

 

 

そしてもう一つ本件で重要な点は、2回目受診時にも帰されてしまったことです。

 

同日の11時-12時とのことですので、引き続き日曜日の休日体制となります。

 

ここは現在の医療現場における重要な問題点を浮き彫りにしているポイントだと思います。

 

もし朝5-6時に「急性胃腸炎」の診断により帰宅させられた患者さんが、その約6時間後に「症状がよくならないから受診したい」と言ってきたら、現場ではどのような反応となるでしょうか?

 

本件が予め受診の相談の電話があったか、直接来院されたかは分かりません。

 

しかし、電話で受診相談があった場合、電話では事務が電話を受けて研修医に回すか、事務が看護師に回すかのいずれかの場合があります。

 

いずれの場合においても、「急性胃腸炎だったら出された薬で様子見てよ」という対応をするか、そういう風に言わなくてもそう一報を受けた人はそう思う人が多いのではないかと思います。

 

本来そうであってはならず、「感情ではなく」状況を客観的に評価し判断するのが医療のあるべき姿です。

 

もしそれば連絡なしの直接来院だった場合は尚更歓迎されないことは、容易に想像がつきます。

 

もちろん、時間帯的に忙しかった可能性もあるかもしれません。

 

しかし、スタッフが研修医に「さっさと帰して」という雰囲気を出していなかったか?

 

ベッド状況は知らないけど、入院となるとスタッフが大変であり、入院は避けてという雰囲気を出していなかったか?

 

本件でこのようなことがなかったかは、とても気になる所であり、是非検証して欲しいと思っています。

 

 

なぜ私がこのようなことを言うかというと、私自身がそのようなことに苦しみ、ストレスを抱えてきたからです。

 

私だけじゃなく、恐らく殆どの臨床医がこのような辛い経験をしてきたと思います。

 

相談しにくい上級医や他科コンサルト。

 

さっさと帰してオーラのスタッフ。

 

何もいいことありません。

 

なぜ現場はそのようになってしまうのでしょうね。

 

そういうことを真剣に議論したことがありますか?

 

本件がそうだったかどうかは明らかではないものの、本件を機に、全国に蔓延しているであろう歪んだ医療従事者の倫理観を見つめ直す必要はあるのではないかと感じました。