最近巷を賑わしている医療関連のニュースと言えば、甲南医療センターの専攻医自殺と、福岡記念病院の大量離職であろう。
これらのニュースで共通して言えることが、幹部の現代にそぐわない思想であることは、誰もが感じる所だと思います。
当事者は恐らく私の親の世代で、私も医者である親から散々自分がやってきたことを聞かされたので、まあそんなもんでしょう、というのが率直な感想です。
要は今から30-40年前の常識ということ。
その当時は医者は生活の大半を病院で過ごすことが当たり前でした。
たまに家に帰ることもありましたが、当時医者はポケベルを持っていて、24時間365日常にポケベルは鳴っていました。
もちろん、当直医はいた訳ですが、患者さんに何かあれば主治医が呼び出されるのは当然のこと。
実際に父親も夜中に呼び出されて病院に向かったことはしょっちゅうありました。
私が子供の頃は父親とどこかに行ったことはありましたが、その前に必ず病院に行って患者さんの状態を確認してから出かけていました。
恐らく当時の殆どの医者はそうしていたのではないかと思います。
それが大学病院ともなれば、ほぼ無給で早朝から深夜まで診療を行い、深夜から実験を行うという、それが家庭があったなら、一旦家に帰って子供とお風呂に入って寝かしつけてから、大学に戻って実験をする、なんてことも普通に行われていたと聞いています。
このように、自分の身を犠牲にして個々の患者さんだけでなく医療自体を支えてきた医者はとても立派な人であると尊敬されて、実際に医療を築き上げてきたのは事実だと思います。
このような環境は、私が医者になる少し前まで当たり前でした。
しかし、最初に問題となったのは、研修医のバイト。
私が医者になる少し前までは、研修医が1人で当直をしていました。
当時話題になった某漫画では、研修医の1人当直の際に、重症多発外傷を1人で対応することを迫られるという、信じられないようなシチュエーションも描かれていました。
それは決して極端な話しではなく、実際に研修医が軽症から重症、内科外科関係なしに、マニュアル片手に稚拙な対応を迫られていたのが、当時の医療事情だったのです。
ただ、1990年代後半から重大な医療事故がニュースになるようになり、この頃から医療安全についてとても厳しくなってきました。
私が医者になった2007年の時点でもかなり医療安全については言われていましたが、それでも今は当時と比べものにならないくらい細かいことまで徹底されるようになってきました。
それに関連して、ルールも複雑化し、電子カルテ上で行うタスクも格段に増えて、それも煩雑になってきて、いわゆる雑務が非常に増えました。
それだけでなく、医学は進歩しており、患者さんの求めるレベルも高くなっています。
技術が進歩して効率が上がった内容もありますが、少なくとも私が医者になった2007年と比較して楽になった実感はなく、特に30-40年前の医療を経験してきた人達は、現場の最前線には当然ついて行けなくなっている人が殆どというのが現状のようです。
そういう背景に加えて、医者のメンタルヘルス、過労死が問題となるようになってきました。
少なくとも私が医者になった頃は、若い間は買ってでも苦労しろ、というのが当たり前でした。
17時に帰るなんて考えられなく、外科系の場合は手術が終わるまでは当然帰れませんし、科によっては毎日帰るのが深夜1時で朝7時出勤なんていうのは普通にありましたし、それを問題視する時代では全くありませんでした。
確か私が研修医を終えたあたりだったと思いますが、どこかの病院の研修医が、手術中に17時になったので帰りますと言って帰ってしまった、というのが話題になりました。
その当時は、研修医がそんなことでよいのか?という批判的な意見を求めるものでした。
しかし、今であれば17時を超えて手術中であっても、研修医に帰ることを促すのが当たり前となってきています。
ここまで今の時代は昔とは変わってきているのです。
現代の医療の基礎は間違いなく昭和に出来ています。
医療に関連した法律も殆どは昭和の時代の内容をそのまま受け継がれています。
しかし、当時行われていたことは、24時間365日働き続けた人達によって、時として研修医を労働力として搾取して、つまり「無理」によってなりなってきたものなのです。
現代の病院組織の幹部の大半は当時の医療に関わってきた人達です。
時代の変化についていけている人達もいますが、ついていけない人達が多いのも現状だと思います。
これらの病院は氷山の一角であり、実際には多くの医療機関で問題が生じているはずです。
それによって犠牲になるのは患者さんです。
手前味噌の働き方改革でこの問題は解決しないと思います。
医療の法律、組織体制、保険診療、全てにおいて現場が働きやすくするために、根本的に変えていかなければならない時ではないかと思います。
これからもこのようなニュースは増えると思います。
いい加減に国はそこに気づくべきではないかと思います。