今年はほとんどブログが更新出来ず、申し訳ありませんでした。
この1年、本当に本当に忙しい日々を送っていました。
それは、新型コロナとは別に、ありがたいことですが、日常診療以外にも多くの重大な仕事を抱えておりましたので、全然余裕がありませんでした。
ようやく、大きな仕事も一段落し、楽な気持ちで年を越せそうです。
コロナ禍の状況の中、私なりに色々と思うことがあり、ツイッターでは本音を情報発信してきました。
ブログは相変わらずたまにの更新になると思いますが、引き続きツイッターは頻回に更新していきますので、是非よろしくお願いいたします。
今回、久々に更新をしようと思ったことは、この年越しにおいて、どうしても伝えたかった渾身の叫びについて、ここに書きたいと思います。
それは、表題にありますように「コロナ禍以前にすでに医療の現場は大変なことになっていた」という現実です。
私は毎年正月は、必ずどこかで救急当直をやっていました。
2020年は1月2日の日中でしたし、今回は明日大晦日の夜から1月1日の夕までです。
正月の救急はまさに地獄です。
どのような救急の現場だったか、恐らくここ数年で一番悲惨だった前回の正月を例にしたいと思います。
前から聞いていたのですが、この時は救急輪番当番のため、比較的広域の救急を積極的に診療を行うことになっていました。
そのため、いつもは一人当直なのですが、その時は科は違いますが、以前から親しくしている私の後輩と一緒に診療を行いました。
朝8時半から外来はスタート。私達は外来診察室で待機していました。
しかし、始まって30分、一行に患者さんの受付がなされません。
おかしいです。外はざわついていますのに。
私は看護師さんに聞いてみました。
「今大量に患者さんが来て待合がパニックになって受付が出来ない状態になっています」と
その病院の救急外来棟は非常に古く、恐らく昭和40年代(?)から変わらぬ、今となっては非常に珍しいレトロな作りです。
そのためか、待合室は非常に狭く、受付窓口出入り口の所に一つだけです。
受付の流れは知らないのですが、一人の受付に数分は通常かかる所で、一気に何十人も立て込んだみたいなので、受付がパニックになって訳が分からなくなり、収拾が付かなくなってしまったのです。
そして開始1時間後、いきなり私と相方に10人ずつ一気に受け付けがなされました。
「えっ!?何これ!?」と言ってしまったのだが、「いやいや、まだ大量に受け付け出来ていない人達がいますよ」と。
ここに来た患者さんのうち、8割はインフルエンザでした。
受付が追いついていない状況のため、15-30毎に受け付け状況が更新され、そのたびに10-20人単位で患者さんが受け付けされてきました。
その中では一家で受診し全員インフルエンザという例も何例かありました。
その時、あの狭い待合はもの凄い状況になっていたらしく、証言によれば、あの新型コロナが発生した武漢の病院の状況と全く同じだったようです。
超過密状態となった救急の待合室は、間違いなくインフルエンザのクラスターが発生していたと思います。
中には高齢でインフルエンザとは別の理由で来院された方もいましたが、(確認はしていませんが)その後間違いなくインフルエンザを発症したものと思います。
もちろん、患者さんはインフルエンザだけではありません。
この季節は市中肺炎だけでなく、心筋梗塞や脳梗塞も増えます。
もちろん、急性腹症は季節を選ばずやってきます。
実際にこんな状況でも救急要請があり、基本的にも相方が対応しましたが、その間も外来は絶え間なく続きます。
しかも病棟コールも対応していたため、病棟の急変にも対応しなければなりません。
救いだったのは、生命に関わるレベルの超重症や急変がなかったこと。
もしそのようなことが起こったら、さすがにそちらを見殺しにする訳には行かず、一方で何十人という患者さんが密な環境に長時間さらされることになり、救急の現場は完全に崩壊していたと思います。
結局、その日は18時まで全く休みなく、永遠と外来を続けました。
終わってみれば、二人合わせて100人以上、下手すれば200人近く診たのではないかと思います。
私が武漢の病院の映像を見た時、「あの正月の救急の現場と同じだ」というのが正直な感想でした。
しかし、今現在はインフルエンザは15分で検査結果が出て、入院はせず自宅療養にて経過をみるということが一般にも理解されるようになっています。
それが新型コロナだった場合、当時は全員入院が当たり前という状況でした。
まだ患者数が少ない時期はそれでも対応出来たかもしれませんが、これが大流行したらどのような地獄が待っているのか?私のようにインフルエンザ大流行により救急現場がパニックになった状況を経験したことがある医者であれば、誰もが思ったことだと思います。
あの当時、国は検査の適応を厳しめに設定しました。
それについては多くの批判があったのは仕方ないことです。
しかし、インフルエンザのように病院のアクセスが容易となり、検査も積極的に行える環境になった場合、検査目的で来院された方は大量に押し寄せたことは間違いありません。
あの当時、そのようなことが起こったら、感染者の数は一気に何万、何十万、下手すれば何百万となっていたことは、間違いありません。
しかもあの時は、マスクだけでなく、ガウンや手袋など、いわゆるPPEと呼ばれる感染防護具が不足していた状況でした。
感染者が増えれば当然重症者が増えます。
医療が受けられて当たり前の日本にあって、重症者の対応が困難となった場合、これはまさに「医療崩壊」以外の何者でもありません。
忘れてはならないことは、病気は新型コロナだけではないことです。
新型コロナ流行以前から、医療の現場はいっぱいいっぱいでした。
特にインフルエンザ流行時はそのレベルを超えていました。
新型コロナで同じことが起こったら、絶対に対応出来ません。
新型コロナの対応ではなく、それ以外の病気で助けられる命が助けられなくなっていたはずです。
今となってはよく切り抜けられたと思っています。
では今はどうだろうか。
確かに新型コロナ患者さんは増えています。
しかし、一方で明らかに減っている病気があります。
それが、インフルエンザ、風邪(旧型コロナなど)、胃腸炎(ノロウイルスなど)です。
冬になるとこれらのどれかは必ず流行します。
命に関わる病気だからたいしたことはないというのはお門違いです。
これらの患者さんを診察するのは私達だし、診断するのも私達です。
これらの病気かと思ったら実は重症肺炎だったなんてことは、全然珍しくないのです。
だから、例え風邪でもしっかりと診療を行わなければならないのです。
それが1日100以上救急外来に来る訳です。
これらがゴッソリいなくなっています。
その分、新型コロナや他の病気の診療に専念出来るのは、これはコロナ禍にありプラスの効果だと思っています。
しかし、ここからは愚痴なのですが、「毎年冬場に感染症が流行するのに何でみんな真剣に対応してこなかったのか?」ということ。
10年位前に新型インフルエンザが発生して、本来であればその時点で国も医療機関も国民もちゃんと対応すべきだったのです。
あの新型インフルエンザが流行する前、私はある先生から教わったことがあります。
それは「抗インフルエンザ薬は無意味だ」ということです。
当時日本は世界屈指の抗インフルエンザ薬消費国でした。
そのため、抗インフルエンザ耐性インフルエンザも問題となり、医療経済の観点も含めて、日本は世界から批判を受けていたということです。
「抗インフルエンザ薬は発熱期間を1日減少させ、脳炎や肺炎の発症を抑えるエビデンスはない」ということは、当時から言われていた通説でした。
それは恐らく今でも同じではないかと思います(最近のエビデンスをまだ確認はしていませんので、間違っていたら申し訳ありませんが)。
そのため、抗インフルエンザ薬の使用を抑制する動きになると思いきや、新型インフルエンザの流行が抑えられた要因として、日本が抗インフルエンザ薬を積極的に使用していたという話になったため、日本が良からぬ方向に変わっていったように個人的には思っています。
ワクチンだって万能ではありません。
そのため、実際にはインフルエンザも新型コロナと同様に、基礎疾患のある高齢者では重症化し、実際に死亡例も珍しくない中で、治療薬とワクチンがあることに過信してしまい、必要な感染対策が疎かになっていたものと思っています。
そんな中で、医療の現場はもうずっと大変なことになっていたのです。
それを国と国民はどれくらい理解していたでしょうか?
そういう意味で、コロナ禍は大変ではありますが、必要な感染対策を国全体で徹底するようになってきたのは、よかったことなのではないかと思っています。
そのために窮屈な想いをされているかもしれませんが、例え新型コロナの治療薬やワクチンが開発されたとしても、例え新型コロナが経過とともに弱毒化しても、同じ過ちを繰り返すべきではありません。
私はこれからも感染対策は続けていくべきですし、その中で根拠に基づいて少しずつ行動を緩和させていけばよいのではないでしょうか。
ということで、この年越しはご自宅で静かに過ごして下さい。
そして、どうしても外出するときは、ここまでずっと言われてきた感染対策の徹底をお願いいたします。
では、良いお年をお迎え下さい。