昨日、日本でピンクリボンシンポジウムが行われました。

 

乳癌は非常に多い癌ということもあり、乳癌に関連した話題はとても高い関心を皆さんが持っております。

 

特に今年亡くなられた小林麻央さんのこともあり、その他多くの有名人が乳癌を患っていたこともあり、現時点で乳癌を患っていない方でも、その関心は非常に高かったと思います。

 

そんなピンクリボンシンポジウムですが、結論から言ってしまうと、非常に残念なことが起こりました。

 

多分ご覧になった方も多いと思いますが、それはこちらの記事です。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171001-00017391-nksports-ent

 

 

これは本当に残念でなりません。

 

この内容をちゃんと理解するためには、いくつか説明が必要です。

 

まずこの「ハーセプチン」という薬ですが、これは比較的最近使われるようになった乳癌の治療薬です。

 

乳癌の中でもHER2という遺伝子が陽性の例では、手術や従来の抗がん剤のみでは再発や転移のリスクが高いことが、最近分かるようになりました。

 

その再発や転移を「予防」する目的で、HER2陽性乳癌患者さんに対しては、手術や抗がん剤治療に加えて、このハーセプチンという治療を行うことが、現在の標準療法と言われています。

 

これは「分子標的治療薬」と呼ばれる薬剤の一種で、従来の抗がん剤とはかなり異なります。

 

そこでこの件について、私は何が問題かについては、もちろん代替療法に走ったこともそうなのですが、国民を非常に誤解させる内容になっていることです。

 

この方の場合はごく初期の乳癌であり、実際に手術を行われました。

 

その後、従来の抗がん剤治療が行われたかどうかは記載がないので分かりませんが、いずれにせよおそらくHER2陽性乳癌だったと思われるため、ハーセプチンを投与したものと思いますが、血圧が上昇したことが問題だったようです。

 

本人はそこを気にして治療を止めて、代替療法を選択したとあります。

 

またその過程でセカンドオピニオン、サードオピニオンも行ったとのこと。

 

ここが実は非常に肝なのですが、それについてはまた後ほど。

 

この方の場合はすでに手術は終えており、おそらく最低限の癌治療は終えたものと思います。

 

ハーセプチンは将来的な再発予防の目的ということなので、必須なのですが再発しなければとりあえずラッキーということです。

 

問題は彼女がこのハーセプチンを「抗がん剤」と言ったことです。

 

ハーセプチンも広い意味では抗がん剤かもしれませんが、癌を寛解状態に持って行くのに必要な抗がん剤とは大きく意味合いが異なります。

 

実際に患者さんによっては、抗がん剤治療を行わなければ癌は確実に進行し、逆にしっかりと治療すれば寛解し長期的に生きられる可能性がある方もいらっしゃります。

 

そういう患者さんにとっては、何か不安要素があったからと言って、安易に標準治療を拒み、代替医療という選択肢を選ぶというのは、とんでもない話しなのです。

 

この方にとっては手術を行ったのでまだいいかもしれませんが、これを一般論みたいな形で「見本」というべきではありません。

 

このように、影響力の大きい方が、特に大きな注目を集めるイベントでこのように発言したこと、とても残念です。

 

 

そして今回、この記事で取り上げたいポイントは、「著名人の医療に対する発言は要注意」ということです。

 

その理由をこれから説明したいと思います。

 

著名人と一般人の大きな違いは何と言ってもその知名度です。

 

著名人は不特定多数の人に注目されるため、皆さんが通っているような普通の病院には行けません。

 

ちょっとしたことであれば、あまり一般の方に馴染みの内、芸能界とつながりのあるクリニックに通院します。

 

それは一体どういう所でしょうか?

 

本当の名医が著名人を特別扱いした診療を行うとは思えません。

 

全てではないと思いますが、実際には金が動いている世界と考えて良いと思われ、自由診療をメインとした医療機関や、何らかの事情で全うな医療機関で働くことが出来なかった曰く付きの医者が多いものと思います。

 

実際に、ここには詳細は書きませんが(ご存じの方も多分いらっしゃると思いますが)、ある大物芸能人が亡くなられた時の最後の主治医は、その領域の専門外で、なおかつ過去に医療事故で訴えられた医者だったということもありました。

 

先日院長が逮捕された首藤クリニックも、小林麻央さんについてはあくまで報道レベルとはいえ、他にもこのように芸能人が紹介し、実際に芸能人も通院していたと聞いています。

 

 

 

そして、そんな芸能人が重病を患った場合、行く先の多くは大学病院かそれに準ずる規模の病院です。

 

ただし、対応出来る病院も限りがあり、どこかは言えませんが、ある病院では著名人ばかり集まる病棟があったりします。

 

実質的には特別扱いなので、考えられる最高の治療が提供されているはずです。

 

しかし、にもかかわらず、時にそういった著名人は頻繁にセカンドオピニオンを行ってきています。

 

なぜなら、特に癌の場合は進行している場合は標準治療でも思うような結果が得られない可能性もあることと、抗がん剤治療には副作用を伴い、それが時として問題となることがあるからです。

 

著名人は地位もお金もあり、最高の治療を受けたいと思うのでしょう。

 

セカンドオピニオンについては、一般人はそれほどやらないにも関わらず、芸能人ほど頻繁にやっている印象なので、おそらくそういう考えが芸能界には浸透しているものと思います。

 

そしてそのセカンドオピニオン先について、それが全うな所であれば何も問題ないのですが、お金がある著名人は、お金を出して解決出来るのであればと考え、普通の人が受けられないような医療を探そうとします。

 

そして行き着く先は、先ほど書いた芸能界とつながりのある自由診療の医療機関だったりするのです。

 

芸能人がそれに満足すれば宣伝効果にもなります。

 

 

なので、著名人が言っていることは、一般人は全く参考にならない所か、多くは悪影響と考えてよいと思います。

 

私に言わせれば、芸能人の病気に対する向き合い方の多くは、非常に異質に感じております。

 

しかし、今でこそブログやツイッターなどのSNSにより、一般市民レベルの情報交換が出来ますが、それでも著名人の各種報道に関しては、非常に影響力が大きいです。

 

私は芸能人が自身の闘病経験を語ることは、意味があると思います。

 

実際に勇気づけられた方も沢山いらっしゃる訳ですから。

 

ただ、だからこそ市民レベルで物を語って欲しいと思うのですが、現実的には困難でしょう。

 

結局は、悪徳医療機関を根絶させ、著名人が不適切なことを言ったら、私達医者がコツコツとそれに対して意見を述べていくことに尽きるのだと思います。

 

なので、著名人の医療に対する発言については、必要以上に疑いの目で見ていくことが、大事なことだと思います。

 

私もたまに芸能人の闘病記とかを見ていますが、気がついたら記事やツイートをしたいと思っています。