先日、専門家の垣根を越えた議論の場があることが、臨床の現場では重要であることを書きました。
http://ameblo.jp/takkman-rheumatologist/entry-12294877716.html
今日はその続編となる内容です。
最近、アメリカの医療の現場を見る時間を作り、日本の医療とアメリカの医療について、同僚達と色々とディスカッションしております。
アメリカの医療は日本の医療に比べて全てが勝っているとは思いませんが、私が見た印象として、明らかにアメリカの医療の方が日本よりも優れている点があります。
それは、病棟医を入院主治医とした専門医との連携です。
アメリカは外来診療と入院診療は全く異なるものと考えます。
アメリカの場合、患者さんが入院した時、主治医は外来主治医ではなく、その病院の病棟医が担当します。
病棟医というのは実は専門家ではありません。
日本で言う所の「総合診療内科医」が最も近い存在かと思います。
つまり、特に専門性を持たず、幅広く患者さん全体のマネージメントを行う役割を果たすのが、病棟医です。
ただし、病棟医は全体的に患者さんの状態を把握し、看護師さんへの指示および注射や検査のオーダーなどを行いますが、専門性を持たないため、専門疾患が絡む内容については、十分にケアすることが出来ません。
なので、専門疾患に関連した内容は、それぞれの診療科にコンサルトする形となります。
これだけ聞けば、日本と大して変わらないように思われるかもしれませんが、決定的に違う所が二つあります。
一つは、日本にはアメリカのように専門性を持たずに病棟の入院管理に特化した「病棟医」という概念がないこと。
ご存じのように、日本は専門診療科毎に入院管理を行います。
最近になり、複数の疾患が関連する場合に幅広く診ていくことを目的する、総合診療内科という診療科が増えてきましたが、日本国内において、アメリカの病棟医のように、真の意味で入院患者さんを全体的にマネージメント出来る内科医は、残念ながらほとんどいません。
日本の医療は、何かの専門を身につけることが当たり前になっていますので、それをアメリカのようなシステムに持って行くことは、まず不可能だと思います。
なので、引き続き個々の診療科で入院患者さんを診ていき、他の専門に関わる場合は、他の専門医にコンサルトするという形式自体は、このまま継続せざるを得ないと思います。
しかし、実はここに大きな問題が生じています。
まず一つは、専門医にとって専門外のマネージメントは、往々にして無理があるということです。
私はリウマチ膠原病科という全身疾患を専門としている関係上、どうしても患者さんのマネージメントには、複数の診療科にまたがってしまいます。
そこでアドバイスを受けて、それに応じてこちらで管理していくことを今までずっとやってきましたが、難しい患者さんの場合は、一人の主治医にかかる負担は正直半端ないです。
もっとも、そういう経験から、総合的に幅広く患者さんを診療していく総合医としての技能は、自慢ではありませんが、他の内科医よりは自信を持っています。
その一方で、果たして自分の専門領域について十分な専門性を身につけているかといえば、自分としては満足はしていません。
つまり、今の日本の医療システムだと、専門医としても総合医としても中途半端になるだけでなく、入院主治医にかかる負担が絶大であり、特に複数の疾患が複雑に絡み合うような症例の場合は、医療事故につながる恐れも十分にあり得るのです。
ちなみに、ご存じの方も多いと思いますが、日本の内科の世界では、現在専門医制度において新たな動きを見せています。
それは、内科医は原則として「総合内科医」であるべきだという考えです。
そのため、今まで初期臨床研修2年までが必須だったのが、今後もっと長い期間、具体的には卒後5年まで自分が希望する内科以外の内科の診療経験を積み、その上で「総合内科」の専門医を獲得して初めて、自分が希望する専門診療科で経験を積んで、その後その専門の専門医を取得するという形です。
この制度の最大の問題点は、何と言っても専門技能を身につけるのが遅くなる点です。
特に心臓内科や消化器内科のように、カテーテルや内視鏡など、技術的な側面が診療に大きく関わる診療科において、この専門医制度は致命的です。
やはり専門家は専門性を磨くことを一番に考えるべきであり、そうでなければ、救える命も救えません。
なので、内科医全員に総合性を求めるのは、ハッキリ言って無理があります。
ではどうすればこの問題を解決出来るでしょうか?
それが、もう一つの日本とアメリカの医療の違いです。
それは、依頼を受けた専門医は、その疾患が否定されるか患者さんが退院するまでは、毎日責任を持って診続けるということです。
つまり、主治医は病棟医ということですが、患者さんの診療科は、コンサルトを受けた診療科全てということであり、患者さんとしては、病気の数だけ主治医がいるということです。
では、日本の場合はどうでしょうか。
日本の場合、例えばリウマチの患者さんが肺炎になった場合。
肺炎なので呼吸器内科にコンサルトします。
呼吸器内科からは、この抗生剤を使って様子を見て下さいという返事が来ました。
これで終了です。
もしそれでうまくいかなければ、再度コンサルトするか、場合によっては前回コンサルトした先生に直接連絡するかということになりますが、その後積極的にコンサルトを受けた専門医が毎日診療に関わることは、まずありません。
これが実は一番の問題なのです。
中にはとても親切な先生で、こちらのことを気に掛けて毎日診に来てくれる先生もいらっしゃります。
私も自分の外来患者さんが他の科に入院した時は、そうしていました。
でも、現在の日本において、そういう専門医は本当に極僅かです。
この「専門医の併診」は、現在の日本の医療に最も欠けていることだと思います。
そもそもその文化がなく、その重要性に気づいていないのです。
逆に、アメリカのように、専門医の併診を義務化にすれば、間違いなく日本の医療レベルは上がりますし、かなり理想に近づくと思います。
私は医者は患者さんを病気ではなく人として診て、そして全身を診る必要があることは大賛成ですし、それは最も大事なことだと思います。
しかし、実際の診療においては、一人の医者が全てを抱え込むことは、限界があります。
それでも私は熟してきましたが、もし各専門の先生が毎日診てくれて、時に先日の記事に書いたように、複数の診療科でディスカッションが出来れば、今までとは比べものにならないくらい、いい診療が出来ると確信しております。
もちろん、そうなると個々の専門医は忙しくなるという懸念はありますが、その一方で病棟診療の負担は軽くなります。
私は今の日本の医療に大事なのは、「総合内科専門医の必須化」よりも「専門医との併診」を勧める方が、圧倒的に重要なことではないかと思います。
新専門医制度は導入の方向で動いているようですが、現役医師からすでに大量の反対署名が集まっていると聞いております。
日本の医療が誤った方向に向かないことを願います。