健康において、「血圧」は大きな関心事の一つだと思います。

 

高血圧を知らない人はいないでしょうし、血圧が高いと、心筋梗塞や脳梗塞になりやすいということも、もはや常識となっていると思います。

 

私も日本で臨床をしていた頃は、日常診療において、血圧の管理はよく行っておりました。

 

実際に、血圧の薬を飲んでいる方、普段から塩分に気をつけている方は、相当数いらっしゃると思います。

 

血圧がいくつかということは、高血圧の患者さんにとっては、非常に重要な問題です。

 

しかし、実は意外と血圧の値についてどう考えるかについて、ちゃんと理解している人が少ないのではないかと、診療をしていて感じたことです。

 

今日はそのことについて書こうと思います。

 

 

まず血圧には、上の血圧(収縮期血圧)と下の血圧(拡張期血圧)があることは、ご存じだと思います。

 

どちらが重要かといえば、圧倒的に上の血圧だと思います。

 

下の血圧も実は意味があり、内科医は下の血圧も考えた上で診療を行うべきではあるのですが、あまりにも複雑で難しいため、患者さん自身が体調管理を行う際には、上の血圧だけを意識する形でまず問題はないと思います(下の血圧を意識すべき特殊な状況の場合は、医師から説明があるはずです)。

 

そして、大事なことは、そもそも血圧とは何なのかということです。

 

これも専門的に語れば非常に難しいので、ごく簡単に理解する方法としては「血管の硬さ」と考えるのがよいかと思います。

 

医学用語である「動脈硬化」という言葉も、もはや常識になりつつあると思います。

 

血圧が高ければ高い程、血管が硬いということです。

 

硬くなった血管は、血管に関係するありとあらゆる病気を引き起こし得ます。

 

その代表が、心筋梗塞、脳梗塞、脳出血です。

 

他にも高血圧によって引き起こされる病気は沢山あります。

 

なので、血圧を下げましょう、というのは分かると思います。

 

問題はここからです。

 

 

たまたま血圧を測ったら、上の血圧が160だった。

 

それでビックリ心配になった経験は、多くの方がしているものと思います。

 

今日は主にそれについて。

 

実は大事なことは、「血圧というのは本来上下するものである」ということです。

 

かくいう私も、全力疾走した後に血圧を測ったら、相当高い血圧になるはずです。

 

というより、ならなければならないのです。

 

なぜなら、全力疾走した後には、血液を全身により多く送らなければならず、そのためには、血液を送り出すために、血管が頑張らなければならないからです。

 

そのために、脈を速くし、それに対応すべく、血圧を上げるのです。

 

ここでいう血圧は、血管の硬さではなく、血管の縮み具合なのです。

 

一番分かり例えは、ホースです。

 

ホースで水を勢いよく出すために何をするかを思い出してみて下さい。

 

そう。ホースを握って縮めますよね。

 

あれは血圧が上がった状態と同じなのです。

 

だから、運動したり緊張したりした時に血圧が上がるのは、体に血液を送るのに本来あるべき姿であり、心配はいりません。

 

そこで大事なことは、「血管の硬さ」を意味する血圧というのは、「家で測った安静時の血圧」であるということです。

 

この「家で測った」というのもポイントです。

 

病院に来ると血圧が上がる人が多くいらっしゃります。

 

これを「白衣高血圧」と言います。

 

診察室だと過度に緊張して血圧が上がります。

 

なので、これは「血管の硬さ」を示しているのではなく、ただの生理反応です。

 

生活習慣病予防として「血管の硬さ」を知ることを目的とした血圧測定は、必ず「家で測った安静時の血圧」でなければなりません。

 

なので、私は高血圧の患者さんに対しては、全員に血圧計を購入するように話しています。

 

たまにそれを無視して、血圧計を買わずに、病院でしか血圧を測らない患者さんもいらっしゃりますが、私はそれで血圧が高かった場合も、血圧の薬を加えることはしません。

 

なぜなら、それが白衣高血圧だった場合、もし安静時の血圧が問題なかったら、薬によって血圧が下がりすぎてしまうからです。

 

これは実は血圧が上がることよりも、ずっと注意が必要なことです。

 

それは後ほど示します。

 

ところで、私も前に患者さんから聞かれたことがあったのですが、もし「家で測った安静時の血圧」を見ればいいのであれば、わざわざ病院で血圧を測る必要はないのではないか?と思われるかもしれません。

 

実は個人的には、病院で血圧を測る必要はないと思っているのですが、多少こじつけで理由を挙げることも出来ます。

 

一つは、その患者さんが「白衣高血圧」の傾向があることを、記録として残すことです。

 

予定外で病院に受診する際に、血圧を測定した時に高かった時に、この情報があると誤った判断を防ぐことが出来ます。

 

また、これは同時に「ウソ発見器」でもあります。

 

自己申告した血圧が正常であるにも関わらず、病院での血圧が高かった場合。

 

これが白衣高血圧であるかウソをついているのか、慣れてくるまでは両者の可能性を考えて診療しております。

 

とはいっても、決して問い詰めることはなく、結局は自己責任であり、診療を続けていけば、だんだん自分の体のことを本気で考えるようになるので、ウソはつかなくなるものです(それでもウソをつくような人は、病院に来る必要はないはずですから)。

 

そして、もう一つの目的は、白衣高血圧がない場合は、家での血圧が正しいことを確認出来ることです。

 

基本的には病院での血圧の方が高く出ることが多いので、病院で血圧が問題なければ、まず大丈夫かなという考え方が出来る訳です。

 

 

ここまでが、普段の血圧管理です。

 

次に話すことは、血圧がもし上がった時にどうすべきかということ。

 

家での安静時の血圧が上がった場合。

 

例えば昨日までの血圧が正常だったのに、突然180に上がった場合。

 

私は「何も症状がなければ」、様子を見てよいと思っています。

 

安静にしていても、何らかの自律神経の兼ね合いで上がることは、珍しいことではありません。

 

落ち着いて何回も測れば、多くの場合は下がりますし、翌日には正常になっていることが多いです。

 

それが2-3日続く場合は、落ち着いて日中の外来を受診すればよいと思います。

 

少なくとも、「何も症状がなければ」夜間の救急に受診する必要はありません。

 

 

しかし、たまに症状を伴うことがあります。

 

一番多いのは「頭痛」です。

 

これは時として患者さんは非常に大きな誤解を持っていることがあります。

 

それは「血圧が高い」から「頭が痛い」という風に思っていることです。

 

これについては、絶対に違うとまでは言いませんが、少なくとも患者さんは、そう考えるべきではありません。

 

なぜなら、ほとんどの場合は、問題となるのは「血圧が高い」ことではなく、「頭痛」の方なのです。

 

何らかの原因で頭が痛くなった場合、多くの場合で血圧が上がります。

 

単純に痛いから上がるという考え方もありますし、万が一脳出血やくも膜下出血の場合は、それが原因で血圧が上がります。

 

ではどうすればいいか。

 

最近ちょっといいサイトを見つけたので、こちらをご参照下さい。

http://www.msn.com/ja-jp/health/healthy-lifestyle/危険な頭痛の見分け方とチェック法/ar-AAoExW5

 

これらの症状に乏しく、それほど症状が強くなければ、日中の外来を受診すればよいと思います。

 

実は医者でさえも、時として誤った対応をすることがあるのです。

 

血圧が高くて心配になって夜間の救急を受診される方は、結構いらっしゃります。

 

そこで、実はすぐに血圧を下げることが出来る飲み薬はあるのです。

 

アダラートカプセルという薬で、これを使えば、血圧は一気に40くらい下がります。

 

しかし、私はこれを使うことは、ほとんどありません。

 

なぜなら、急に血圧を下げるのは、危険なことも多いのです。

 

先ほども言ったように、本来血圧は理由があって上がっているものであり、それを急に下げると、臓器への血流が急に下がってしまい、立ちくらみなどの自覚症状のみならず、時として心臓の血管が痙攣したり、その他様々な問題が生じ得ます(これはかつては舌下投与で問題となっていましたが、普通の内服の際にも注意が必要だと私は思っています)。

 

だから、血圧が高いことではなく、その原因を探ること、これに尽きる訳であり、安易に血圧を下げるのは、非常に危険なことであることは、私達医者も十分に理解しなければならないことです。

 

ちなみに私の感覚では、上の血圧が220を超えた場合には、点滴を使って穏やかに下げることを検討するようにしています。

 

200-220までの間は状況次第でしょうか。

 

200未満なら原則としてそのまま寝てもらって様子を見ます。

 

もちろん、頭痛やその他、何か症状があった場合は、そちらの精査を優先させます。

 

 

以上をまとめると、普段の血圧は「家で測った安静時の血圧」であり、一時的な血圧上昇は気にしなくてよい。そして、血圧が高くなった時に頭痛などの症状があった場合は、血圧が高いのが問題でなく、その症状が原因で血圧が上がっている可能性が高い。

 

なお、念のため、ここまでの内容はあくまで特別な原因のない「本態性高血圧」の場合であり、腎臓やホルモンなどの異常が原因で起こる「二次性高血圧」の場合は、別の注意が必要であることは、一応付け加えます。