障害者施設で、利用者が送迎車内に6時間もの間置き去りとなり、熱中症で亡くなったという事件がありました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170713-00000081-asahi-soci

 

絶対にあってはならない事故ですが、同時に普通の感覚では考えられないような事故です。

 

普通来るはずの人がいなかったら、誰か気づくだろうと、誰もが思うはずです。

 

いずれにしても、この事件において、この障害者施設は、人命軽視や職務怠慢、そして杜撰な管理体制を指摘されるものと思いますし、それは当然のことと思います。

 

しかし、それに加えて私が思うことがあります。

 

もしこれが「故意」に殺害したのであれば、話しは別ですが、多分違うと思います。

 

では、仕事をいい加減にやっていたり、または障害者を軽視していたかというと、これも実は絶対にそうとは言い切れないと思います。

 

この事件、単純な「ヒューマンエラー」によっても、十分に起こりうる事件だと思っています。

 

ヒューマンエラー。つまり人間がある一定頻度で犯してしまう、防ぐことが困難なミスです。

 

そんな馬鹿なと思われるかもしれませんが、ここで、私自身が実際に犯してしまった、これに比較的関連性のある「ヒューマンエラー」の例について、挙げようと思います。

 

 

まず最初は、外来の場面。

 

外来の患者さんは、定期的に処方している内服薬に加えて、毎回ではなく不定期に処方している薬も、いくつかあります。

 

その代表例が、湿布、軟膏、点眼薬です。

 

通常外来医は、新たに処方薬を入力することはまずなく、前回の処方歴を見て、同じならこれをコピーしたり、そこから内容や日数を変更したりします。

 

前回の処方薬にない薬がなくなった場合、患者さんが自己申告し、外来医が新たに処方箋に加えます。

 

問題はその患者さんの自己申告のタイミングで、私が処方箋を入力している時に言えば、ほとんどの場合で問題ないのですが、そういう患者さんは非常に少ないです。

 

と言いますのは、多分ほとんどの先生は、診察が終わったら、外来予約を入れて、次回外来診察前に行う検査をオーダーして、処方箋を入力する、という順番でやると思います。

 

なぜなら、検査のオーダーは外来予約日が分からないと入力出来ないし、処方箋も次回外来予約日が分からないと、日数が入力出来ないからです。

 

ほとんどの患者さんは、診察が終わって、これから次回の外来を予約しようとするタイミングか、診察中に、これらの追加処方薬の希望を、外来医に伝えます。

 

しかし、こんなことを言ってしまっては申し訳ないのですが、湿布、軟膏、目薬は、患者さんにとっては非常に重要な薬には違いないと思いますが、私を含めたほとんどの外来医にとって、これらの薬の多くはその患者さんの病気において、主要な薬とは言えません。

 

むしろ外来医にとって、次回の外来をいつにするか、そこで何の検査をするか、そして主要な薬についてどうするか、ということで頭がいっぱいなのです。

 

なので、こういう風に色んなことを考えている時に、「湿布が欲しい」と言われると、その場で「はいはい」と言葉半分に答えておきながら、ほとんどの場合、忘れてしまいます。

 

ということで、私が外来をやり始めて数年は、これらの処方忘れはしょっちゅうありました。

 

ただ、私だけでなく、ほとんどの先生がその経験があるので、あまり気にしていませんでした。

 

しかし、経験を重ねていくにつれて、実は患者さんにとって、これらの薬を忘れることにより、お互いの関係に歪みが出ることが起こりうることに気づいたのです。

 

というのは、こちらとしては、たいしたことない薬を忘れただけ、という程度の感覚でも、患者さんとしては、「先生は湿布を出してもらえなかった」と解釈することを知ったのです。

 

こちらとしてはただ忘れただけなのだが、こういう不満が多いことを知ってから、私も対策を考えました。

 

何てことはない。

 

これらの追加処方薬を希望されたら、目の前にあるメモ帳に書けばいいだけのことです。

 

こういうことを意識している外来医は非常に少ないと思いますが、いずれにしても、これが「ヒューマンエラー」を防ぐ簡単な方法であり、これを怠って不信感を持たれるのは、あまりにもやるせないことです。

 

 

これが最初の例。

 

でも、さすがに人命と湿布を一緒にするのはいかがなものかと思われるかもしれません。

 

実は私は、過去に患者さんを見忘れたこともありました。

 

次の例は病棟の話し。

 

毎日病棟で診ていた患者さんが、前日の午後から病棟の事情により、他の階に移りました。

 

そのこと自体は知っていましたが、実は回診の時にそれを忘れてしまい、その日は患者さんに会うことも、検査結果をチェックすることもなく、翌日になって初めて気づきました。

 

なぜ気づかなかったかというと、自分の患者さんは電子カルテの右側にリストアップされるのですが、自分の患者さんのリストをプリントアウトすると、自分が所属する病棟の階にいる患者さんしか、プリントアウトされないのです。

 

なので、私はこのリストを見ながら一人一人患者さんのカルテをチェックして、回診を行っていたので、他の階に移った患者さんを忘れてしまったのです。

 

私がその時診ていた患者さんの数はたかだか10人程度ですが、それでもこんなことが起こってしまうのです。

 

解決策としては、他の階にいる患者さんは、リストをプリントアウトしたらすぐに手書きで、その患者さんを書き加えることを心がけるようにしました。

 

 

最後の例は、他の病院の外来でのことで、もしかしたらこれが一番今回の事件と近い失敗かもしれません。

 

私がいつも診ている患者さんは、毎回血液検査をしているのですが、うっかり前回外来の時に、当日の血液検査を入力するのを忘れてしまったのです。

 

これもエラーの一つですが、実はここからとても重大な失敗を、私はしてしまったのです。

 

その病院の外来用の電子カルテは、「診察終了」のボタンを押すと、当日の外来患者さんのリストから消える仕組みになっていたのです。

 

ほとんど同じ種類の電子カルテを使っている他の病院では「会計済み」になった時に消える仕組みになっていたので、私はそのことに気づかなかったのです。

 

実は私が検査のオーダーを出した時に、「診察終了」のボタンを押してしまったのです。

 

その結果、その患者さんのリストが消えてしまったのですが、それに私は気づくことはありませんでした。

 

それに気づいたのは、実は私が全員の患者さんを見終わった後で、看護師さんがたまたま残っているカルテがブースにあることに気づいて、発覚したのです。

 

結局、その患者さんは、いつもだいたい来院してから1時間後、遅くても1時間半後には診ていたのに、3時間以上も待たせてしまったのです。

 

気づいたからよかったのですが、場合によっては、患者さんを診ることなく、私が大学病院に戻ってしまった可能性もあったかもしれません。

 

これについては、私自身が今後気をつけることに加えて、病院の方に、電子カルテのシステムを改善させるように提案し、それはすぐに実行されました。

 

 

そういうことを考えると、今回のことも、やはりヒューマンエラーが重なった結果起こったものであっても、不思議ではないと思います。

 

例えば、利用者の方々を送迎車から降ろす際に、施設内ですぐに対応しないといけない何かが起こった場合。

 

または、今回被害に遭われた利用者の方が、すぐに降りてくれず、その間に施設内でやらなければならない仕事が生じた場合。

 

そして、点呼も行われたということだが、何らかの理由でそれをすり抜けてしまった場合。

 

この辺が十分に考えられるかと思います。

 

ですので、個々の関係者の資質や責任を問う以前に、絶対に必要なことは、徹底した原因究明と解決策を立てることです。

 

そして、もう一つ気になったことは、過去にこのように置き去りにしてしまったことがなかったかどうかです。

 

もしあったのであれば、それに対して改善することをしなかった施設の責任は大きいです。

 

 

このように、人に関わる仕事は、時として命に関わります。

 

なので、過去の事例や自分自身の失敗や、普段気づいたことから、「ヒューマンエラーを想定したシステム作り」がとても大事になります。

 

もちろん、今回これだけ大きなニュースになったのであれば、全国の障害者施設は、こういうことが起こらないためのシステム作りを、しっかりすることが、必要なことです。

 

そして、もっとも大事なことは、エラーをしたが大事には至らなかった場合、その時こそ、結果オーライでめでたしめでたしではなく、徹底して「ヒューマンエラーを想定したシステム作り」をすることです。