最近、歯科において器具の滅菌や手袋の交換が、多くの歯科医院において十分に行われていなかったことが、ニュースとなりました。
https://medical-tribune.co.jp/news/2017/0703509277/
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20170703-OYTET50049/
リウマチ膠原病科は、何かと歯科には色々とお世話になっております。
というのは、ステロイドや免疫抑制剤を投与するにあたり、虫歯はしっかり治してもらうことは、非常に重要だからです。
私は、入院患者さんで、ステロイド大量投与や強力な免疫抑制剤を投与する予定の患者さんで、ここ数ヶ月以内に歯医者にかかっていなかった場合は、必ず大学病院内の歯医者に診てもらうようにしていました。
また、ステロイドの場合は骨粗鬆症の薬で、特に抜歯が必要な虫歯があると、色々と厄介な問題があったりすることと、膠原病の一種のシェーグレン症候群は、唾液分泌が低下するため虫歯になりやすいことなど、実はリウマチ膠原病内科と歯科は、結構つながりがあるのです。
しかし、そんな免疫抑制状態にある患者さんにおいて、このような器具や手袋の使い回しは、非常に危険なことです。
歯科治療は、粘膜からの出血を伴い、そこから感染するリスクが非常に高い行為です。
虫歯の治療で感染のリスクを上げては、本末転倒です。
リウマチ膠原病内科医の立場としては、そこは何としても徹底してもらいたいと思います。
しかし、実はそこには非常に重大な問題が存在しているのです。
おそらくこの記事を見た人達は、歯科医のことを批判することと思います。
では、なぜ歯科医達はこのような不十分な感染対策を行ってきたのか。
その最大にして唯一の原因は、非常に厳しい経営状態にあると言います。
歯科医の妹に現状を確認してみた所、大学病院以外は、やっぱりこの記事通りのが現状のようです。
一番の問題は、歯科治療は、治療以外の内容にコストがかかりすぎることです。
器具も非常に沢山必要となりますし、その他水道代や機器の維持費など。
その上、一人あたりの歯科治療は概ね30分前後という感じだが、実際に国から保険請求出来るのは、治療に直接関係した内容のみ。
保険請求出来ない上記のことだけ、今や赤字経営が続出しているのが現状です。
実際に保険請求出来ない経費が膨らむということは、患者さんが増えれば増えるほど赤字になる懸念があります。
そこに、感染対策の費用については、当然保険請求は出来ません。
なので、歯科医の多くは、「保険外診療」で生計を立てているのです。
つまり、感染対策もバッチリ行い、患者さんからの評判がよくて、患者さん目線で良心的な保険診療でやっている歯科医院が、結果的には赤字になっていくのです。
かつては歯医者はドル箱と呼ばれていた時代もあったらしいですが、今は非常に厳しい状態にあると言います。
この問題、国が真剣に対策を練っているという話しを、聞いたことがありません。
もしこの状態が放置されれば、そしてこのような報道により、単なる歯科不振に陥った場合、確実に日本の歯科医療は崩壊します。
私達としては、少なくとも免疫抑制状態にある患者さんに関しては、大学病院か、またはちゃんと感染対策を行っていることが分かっている歯医者を勧める形となってしまうかと思いますが、それが望ましい形とは到底思えません。
なので、この問題、本気で国は考えないといけないと思います。
これらの報道は、まさに警告だと考えるべきだと思います。