最近、私のブログもツイッター(@takkman_rheum)も、薬に関連した内容が多くなっています。
西洋医学的治療の大半は、薬物療法によって行われているため、そこに関心が集まるのは当然のことだと思います。
そして、世間の関心は、特に副作用が問題となる薬の可否についてです。
例えば私が専門として扱っているステロイドに関しては、非常に多くの副作用が問題となります。
副作用もなく治療効果もあるという治療は非常に少なく、有効な治療ほど副作用が問題となるのが、現在の医療のジレンマです。
しかし、だからといって、それが唯一無二の治療でありながら、副作用の問題から拒否されて、病状も悪くなってしまっては、本末転倒です。
そこで、ここで私が取り上げる重要なキーワードは、「適正使用」という言葉です。
マスコミがこの「適正使用」という言葉に目を向けることはほとんどなく、もっぱら副作用のことばかりです。
ここで、もし薬に関して世間の言っていることに振り回されそうになったら、この「適正使用」という言葉を思い出して下さい。
「適正使用」とは文字通り、その薬の相応しい使い方です。
最近は、この「適正使用」に関して「ガイドライン」を設けられた薬剤が増えてきています。
一番ホットな話題としては、「抗微生物薬適正使用の手引き」というものが厚生労働省から出されました。
抗微生物薬というのは多くの場合は抗生剤のことです。
以前より、抗生剤の乱用により耐性菌の出現が問題となっておりました。
その中でも非常に不適正な抗生剤使用が最も多いのは、「風邪」に対する抗生剤使用です。
いわゆる普通の風邪の大半は「ウイルス感染」であり、抗生剤は効きません。
しかし、稀に細菌感染による風邪も懸念されることから、「念のため」抗生剤を処方することは、昔は非常に多かったのです。
最近はそういう理解もあり、基礎疾患のない若者の普通の風邪に抗生剤を処方する医者は減りましたが、それでもたまに今までの風習から、患者さん自ら抗生剤の処方を希望するケースも珍しくありませんでした。
そういったことに対して、「感冒に対しては、抗菌剤投与を行わないことを推奨する」とハッキリと明記されたのです。
もちろん例外はあり、例えば高齢者で肺の合併症があったり、ステロイドや免疫抑制剤を投与している場合は、感冒であっても抗生剤投与は必要となることはあると思います。
それも含めて「適正使用」なのです。
ステロイドの場合もそうです。
ステロイドは多くの自己免疫疾患において、中心的な治療となります。
しかし、ステロイドには多くの副作用があります。
だからといって、ステロイド治療を行わなければ、病状は改善しない病態は多いです。
そういう時、私達専門家は治療を行うにあたり、非常に厳密に「適正使用」に心がけます。
ステロイドに関しては何と言っても副作用対策。
3ヶ月以上、プレドニン5mg以上の量で内服させるにあたり、絶対に必要となるのが、骨粗鬆症の薬と胃薬です。
もし3ヶ月以上、プレドニン5mg以上内服しているにも関わらず、骨の薬が何も処方しないような医者は、ステロイドを処方する資格はありません。
また、最近はニューモシスティス肺炎という致死的な肺炎の予防薬である、バクタという薬を併用することも多いです。
そして、経過を見て常に血糖や血圧、脂質などの変動に注意し、問題が生じた場合は速やかに対応します。
万が一感染を疑わせるような徴候があった場合は、極めて注意してチェックします。
さらに、ステロイド治療で重要なポイントは、しっかりと減量することです。
減量の方法は専門医によっても患者さんによってもマチマチですが、私のやり方は20mgまでは2週間に5mgずつ、10mgまでは2週間に2.5mgずつ、5mgまでは2週間に1mgずつ減量し、5mgを目標とします。
ここで重要なことは、「無理をしてでも5mgまで減量する努力をする」ということです。
特に若年者の場合、それが例え6mgであったとしても、5mgに減らすために免疫抑制剤を併用することがあります。
それだけ5mgに減らすということが重要なことだと私は思っており、その努力をすることで、ステロイドの長期的な問題の多くを防ぐことが出来るのです。
ただし、高齢者の場合は10mg以下まで行けば、免疫抑制剤による感染の懸念があることから、5mgまで無理をしないこともあります。
その代わり、副作用の監視には人一倍目を光らせるようにしております。
さらにリウマチの最新治療薬である生物学的製剤という種類の薬剤がありますが、これについては副作用を抑えるために、極めて多くの注意事項があります。
かつては非常に副作用が問題となったのですが、専門医の努力もあり、最近はかなり副作用が減ってきております。
それでも、生物学的製剤によってリウマチは完全に抑えられ、なおかつ専門医の的確な管理により、副作用なく経過している患者さんは沢山いらっしゃります。
このように、私があえて専門的なことをずらずら並べて言ったのは、単純に副作用が問題だから拒否、という風にはなって欲しくなく、副作用が問題だから、専門医による「適正使用」により、安全に治療を行うということが、実際の医療で行われていることだということを、理解して欲しいということです。
これはもちろん、私の専門ではありませんが、抗がん剤においても同様のことが言えます。
現代の医療はリスクとベネフィットを天秤にかけて行う形となる場合がほとんどです。
しかし、単純に患者さんにリスクとベネフィットだけ説明されて、あとは患者さんが決めてと言われても、患者さんはきっと困ることでしょう。
だから、私は主治医が最もベストだと考える医療については、もちろんリスクとベネフィットはちゃんと説明し、治療に関しては「適正使用」の意味をしっかりと説明し、その上で他の選択肢と天秤にかけて治療方針を決める、という形があるべき姿かと思います。
治療に対して迷いがあった場合、「治療は薬の「適正使用」によって行われる」という言葉を是非思い出して下さい。