私は関節リウマチと膠原病という、免疫が過剰になることによって起こる病気を専門とした内科医です。
リウマチ膠原病において、非常によく使われる薬があります。
それは、「ステロイド」です。
誰もが聞いたことがあると思います。
炎症を抑える作用がとても強く、自己免疫疾患を中心に、多くの疾患に対して使用されます。
ステロイドには色んな種類がありますが、その中で最も使用されるのが「プレドニン」という薬です。
私達リウマチ膠原病内科医は、同時にステロイド治療の専門家でもあります。
おそらく、全ての診療科の中で、最もステロイド治療を多く行っている診療科だと思います。
だからこそ、ステロイド治療に対しては、その副作用も熟知しておりますし、だからこそ治療適応は相当厳密に行っております。
そこで、私がここで書くのは、未だに巷でよく行われてしまっている「安易なステロイド治療」です。
今日はちょっと強気なことを書こうと思います。
「安易なステロイド治療」とは何か。
それは、「よく分からないからとりあえずステロイド」という治療です。
そんなことをする医者がいるの?と思われるかもしれませんが、残念ながら私はそういう医者を多く見てきました。
診断未確定でステロイドを使うことは、私達専門医の立場からすると、「まず」あり得ません。
「まず」と書いたのは、正確に言うと、私達もたまにやることがあるからです。
しかし、私達はそれに伴うリスクを全て理解した上で行っておりますし、その決断は相当慎重かつ厳密に行っております。
そういう次元ではなく、抗生剤が効かない発熱や疼痛が続いたら、よく分からないけどステロイドを使う、というケースです。
こういうことをしてしまう医者の気持ちは分かります。
患者さんは医者に対して、まずこの熱や痛みを何とかしてくれと強く訴えてきます。
それを何とかしてあげようと思うのが医者の勤めです。
であれば、その足でリウマチ膠原病内科を紹介するのが正解なのだと思いますが、それでもステロイドを使ってしまうのは、症状がよくなるからです。
症状がよくなればめでたしめでたし。
しかし、もしその発熱や疼痛の原因がリウマチ膠原病だった場合、ステロイドをやめれば必ず悪くなります。
なので、ステロイドをずっと使い続けることとなります。
プレドニンの場合、5mg以上長期間内服する場合、必ず副作用に注意する必要があります。
骨粗鬆症や糖尿病などの管理、決して簡単ではありません。
今までこんな感じにステロイドを投与された患者さんで、副作用対策をちゃんとおこなってきた例は、見たことがありません。
そして、ステロイドの副作用だけでなく、最も問題となるのが、ステロイドを内服しているが故に、原因が特定出来ないということです。
膠原病の場合、ステロイドを内服すると、血液検査データや病理組織所見が改善します。
しかし、仮に再発したとしても、特に組織所見は典型的な所見を呈さないことがあります。
つまり、万が一悪化して私達専門医が診ても、診断に難渋することがあるのです。
また、膠原病ならともかく、発熱や痛みが実は感染症によるものだった、ということもあるのです。
そうなると、当然悪化するように思いますが、ステロイドを内服すると、感染症でも熱は下がることがあるので、一見するとそう見えないこともあるのです。
そうなった場合は最悪で、後に重症化して運ばれることとなるのです。
これは他人事ではなく、誰もが遭遇する可能性があることです。
なので、ここで私が勧めることは、もしリウマチ膠原病以外の診療科を受診した場合、診断が分からないのにステロイドを処方されたら、内服せずにその足で別の大きな病院の「内科」を受診して下さい。
リウマチ膠原病科に絞って受診しても悪くはありませんが、案外レントゲンを撮って肺炎でした、ということもありますので。
おそらく、全てのリウマチ膠原病内科医は、非専門医による「安易なステロイド治療」で苦労した経験を持っているはずです。
例えば、喘息のように診断が決まっていれば、短期間使うことは時として許容されます。
しかし、「診断未確定」の場合。
特に抗生剤が効かない「発熱」「疼痛」に対して、精査することなく「とりあえず」ステロイドを開始することは、よほどのことがあってもあり得ません。
この悪しき風習だけは、私は何としても根絶させたいと思っておりますが、皆さんも「安易なステロイド治療」には十分に注意して下さい。