いよいよ普通自動車を運転することになりまして。
(「車」という言葉が嫌いになってきている教習生)
人生二十三年。それまで乗せてもらうことが当たり前だったあの自動車を僕が動かすなんて、非常に感慨深い。今まさに僕は大人の階段を登りつづけている。
そんなことを考えながら受付で待機していると指導官からお呼びがかかった。遂にスタートだ、ドキドキするなあ。
指導官「まず僕が運転するのでね、よく見ておいてくださいね。」
慣れた手つきで場内を一周する指導官。走って曲がって障害物避けて曲がって左に寄って走って終わり。まさに基本のキといった感じの操縦である。
指導官「じゃあ今からやってもらいますね。」
うん、たしかに単純な動きだった。単純な動きだったけどいざやってみろと言われるとちょっとなんというかいきなり一周やるとは思わなかったというかもう少し細かい動きをちょっとずつ学んでいくのかと思ってたというか気がついたら運転席に座らされたというか
指導官「まずは座席調整からやってみましょうか」
はい、カチカチカチカチカチカチ
指導官「まだ何もいってないのでやらないで下さい」
ごめんなさい
指導官「では調整が出来たので走ってみましょうか」
えーとたしかブレーキから足を離してアクセルをつま先でちょいっとあれぜんぜんはやくならないなんで
指導官「もっと踏んで」
ぐいっと
ブゥゥゥゥゥゥゥン!!
あっ!死ぬっ!ブレーキッ!
ガッッッッックン
慣れている指導官「やさしくやさしく」
人はそれぞれ生きるスピードが違うというが今の速さは人間が動いていいスピードではなかった気がする。
この教官はどれだけのスピードで生きてきたのだろうか。数多くの死線をくぐり抜けてきたに違いない。
出鼻を消し飛ばされたスタートだったがカーブを曲がるのはちょっとうまくいった。オートマ万歳である。
次は障害物をよけるぞ。アクセルを踏んで右に曲がって直進して左に曲がる重労働である。もう急スピードは出さないようにしないと...
指導官「はい、ウィンカー右つけてください」
それどころではない。
30秒前!僕は!車をブーンさせ!ガックンさせ!
寿命が程よい感じにくり抜かれたところなのだ!!!
そこにあなたカッチンカッチン点けろなんて脳みそ何個使わせる気だと思ったけどこれがルールであり法律なのだから仕方がない。
僕は見事に右のウィンカーをカチカチ光らせブンブブンと小刻みに自動車を走らせ左に曲が
指導官「はいウィンカー左つけて」
発狂するかと思った。こちとらハンドルと手のひらをセメダインでくっつけてやりたいと思ってたくらいなのだ。見事にテンパった僕は右手を思いっきり手放し、昼ドラばりの平手でバチーンと跳ね上げウィンカーを作動させてやった。特に何も言われなかったけどツッコミが追いつかなかったのかもしれない。ハンドルを戻すとウィンカーが自動で消えるようになるのは偉大な発明だと思います。
その後もハイ曲がってー止めてーガックン走ってーもっと踏んでー脱輪ー上手くいったねーやっぱり出来てないねー止まってーガックン危ないよーガックン
を10分ほどやったところで
指導官「もう時間になるので終わりにしましょー」
そんな、まだ10分くらいしかやってないのにもう終わるのか、次は何をやるのだ、と思ってたら50分経ってた。
う、嘘だろ。人生でトップクラスに短い50分だったぞ...!?
僕としてはあと10時間くらい基礎を繰り返させていただきたいのだが。もう終わりなのか。
のこり30時間ほどで足りるのか不安でしょうがないがモソモソと頑張っていくしかない。
不殺のドライバーになれる日を目指して頑張るぞ。