☆ツイスターズ

 1996年に公開された「ツイスター」という映画があった。テレビで観て、まずまず面白かった記憶がある。今回はその続編ではないけれど、同じく巨大竜巻を扱った映画だ。映画館の予告がつまらなかったが、主演が「ザリガニの鳴くところ」のデイジー・エドガー=ジョーンズなので、これは見逃してはいけないと思い劇場へ。

 予想以上に面白かった。「ジュラシック・ワールド」の製作陣が、ハリウッドの最新VFXを駆使して創りあげたという巨大竜巻の迫力に圧倒される。最強モンスターといっても過言ではない。映画を観ている私たちも、竜巻の中に巻き込まれているような錯覚に陥る。避難した映画館のスクリーンが、竜巻によって破壊された時には驚いた。

 人物配置を含めて脚本が良く出来ていると思ったら、「レヴェナント:蘇えりし者」を担当したマーク・L・スミスだった。主役のケイトを演じるデイジー・エドガー=ジョーンズは輝くような美しさで、ますますファンになった。次の作品を早く観たい。そのケイトを受け止めるタイラー役を演じたグレン・パウエルが、これまたいい味を出している。

 細部の人間描写も良く出来ていて、ちょっとした拾い物の映画である。ぜひ大画面で観てほしい。

 

☆ブルーピリオド

 「マンガ大賞2020」を受賞した人気漫画の実写映画化というが、原作は全く知らない。単純に映画のみの感想となる。空虚な毎日を送っていた男子高校生・八虎が、情熱だけを武器に美術の世界に本気で挑む姿を描いた青春ドラマ。

 若者が何かをきっかけに目標を見つけ、一心に突き進むという設定の映画やテレビドラマはよくあるパターン。この映画では「明け方の青い渋谷」を描くことによって絵画にのめり込んでいく。果たして八虎は短期間で東京藝術大学に合格ことができるのか。

 主役の八虎を眞栄田郷敦が演じている。熱演ではあるが、高校生役は年齢的に無理があるのでは。私は桜田ひよりのファンだが、出演シーンが少なくてちょっと不満。その他、高橋文哉、板垣李光人など、若手の実力派の役者がそろっている。

 好感が持てる作品ではあるが、定型を脱出するほどの力は感じない。高橋文哉演じるユカちゃんは今風で面白い存在だが、ちょっとやり過ぎの感あり。原作ではどう描かれているのか知りたくなった。

 薬師丸ひろ子演じる美術教師の「好きなことをする努力家は最強なんです」というセリフが印象に残った。私の周囲に邦楽で東京藝術大学に入った人が二人いるが、両人とも子どもの頃から英才教育を受けていた。映画を観て、八虎こそ天才で最強の努力家だという気がした。

 

☆インサイド・ヘッド2

 世界興行収入で、映画全体の歴代世界興行収入ランキングTOP10入りを果たしているとか。あの「アナと雪の女王」の興行収入を抜いたとニュースになった。「へぇ~!」と思いながら、ちょっと遅れて鑑賞。ちなみに前作は観ていない。

 それぞれの人の中にあるカラフルな感情たちの世界を描いている。ヨロコビ、カナシミ、ムカムカ、ハズカシなどの感情が出てくる。ネットではおおむね好評価だが、これって本当にそんなにいい映画だろうか?私に響かなかっただけなのかもしれないが。

 私は元来、つるっとしたフルCGのアニメ画像が苦手である。おまけにこの映画では、それぞれの感情が思ったことをうるさいくらいにしゃべっている。人の感情って、こんなに単純なものかなと思ってしまった。この程度の感情の対立では表現できないくらい複雑なのでは。あんな機械にコントロールされたくもないし…。

 ディズニー&ピクサーの作品では、昨年夏の「マイ・エレメント」の方が遥かに上だと思ったのは私だけ?上映終了後、お父さんが小学生くらいの女の子に映画の内容を説明していた。ちびっ子にはこの映画、十分理解できたのかな。

 

☆ラストマイル

 脚本・野木亜紀子、監督・塚原あゆ子、プロデュサー・新井順子といえば、TBSで大ヒットドラマを作ったコンビ。劇場に行く前から期待値が大きかった。

 う~ん、脚本が良く出来ている。単なる連続爆破事件の犯人探しをする映画かと思ったら、現代の社会性が織り込まれている。お客様本位の名のもとに、人間性喪失の歪められた現実が見えてくる。

 ドラマ「アンナチュラル」や「MIU404」などのメンバーも出ている。ゲスト出演程度だが、それにしても豪華な出演陣である。お祭り映画のようでありながら、ストーリーの芯を外していない脚本はさすが。

 主演の満島ひかりの好演が光っている。一瞬だが犯人かと思ってしまった。個人的には火野正平と宇野祥平の配達員親子が良かった。旧式の洗濯機の伏線がどこで回収されるのかと思ったら、ラストで使われて納得。一番の感動シーンだった。唯一の欠点は、VFXの映像が少し粗いくらいか。

 公開2日目に観に行ったが、劇場は満員だった。満足した人が多かったのでは。この製作コンビで、今度は面白いテレビドラマを観たい。

 

☆きみの色

 山田尚子監督作品だということで、公開前から楽しみにしていた。台風の影響が心配される中、早く観たくて劇場へ。

 ネットのレビューでは、おおむね好評価である。しかし、私はそれほどの作品だろうかというのが正直な感想である。

 淡い色彩は心地よい。ちょっと太めがかわいい主人公・トツ子の造形もいいだろう。事情を抱える3人が出会ってバンドを組み、それぞれの事情を克服するというストーリーも良しとしよう。しかし、いかんせん脚本の練りが足らない。個人的には、ミッションスクールや教会が舞台というのも好きではない。

 トツ子は人が「色」で見えるという少女である。しかし、せっかくのその設定が映画の中で活きてこない。ただ見えるだけ。高校生の悩みや葛藤で、もっと色を使ってストーリーを盛り上げてほしかった。きみちゃんが突然退学したのには驚いた。退学に際して、保護者である祖母に全く知らせが行かないことがあるだろうか。退学の理由も納得できない。ルイの進学と家庭の事情に関しては、大した悩みとも思えなかった。むしろ、いいお母さんなのでは。

 トツ子がしろねこに導かれて行った先に「しろねこ堂」という古書店があるなんて、あまりにも出来過ぎ。かつてのジブリの映画なら、もっとうまくやったのでは。「しろねこ堂」できみと再会するのはいいにしても、そこに偶然ルイが来て、突然「バンド仲間を募集中」などということがあるだろうか。しかも、トツ子はキーボードがちょっと弾ける程度。

 トツ子の学校と、ルイが暮らす島との距離感もよくわからなかった。三人が学園祭であんな演奏ができるくらいの練習を、いつの間にしたのだろうか。曲作りの過程は描かれていたが、三人合わせての演奏の過程はほとんどない。一番白けたのは、演奏シーンの最後の曲で、今まで否定的だったシスターたちが腕を組んで踊っているところ。こんなことってある?

 シスター日吉子が音楽に詳しいことも、ベッドに落書きをした本人だということも、ちょっと映画を見慣れた人なら途中で気づいたはず。演奏後にトツ子がバレエを踊って「(自分の)色が分かった」と言っても、その色がどういう意味があるのか観客には分からない。ラストのルイとの別れにしても、岸壁を少女が走るなんて、まさかそうならないだろうと思っていたら、そうなってしまった。こんな映画の定型シーンはやめてほしい。

 山田尚子監督作品というのを外して観た場合、これほどの好評価になるだろうか。同じ女性監督のアニメ作品なら、1年前に観た岡田麿里監督の「アリスとテレスのまぼろし工場」に遥かに及ばない。

 イオンシネマのIMAXスクリーンの大画面で観た。せっかくの大劇場なのに、観客は30人もいなかった。これは台風のせい?