(前編からの続き)

 少しぼんやりしているものの、日本海から米子の街、皆生温泉、弓ヶ浜まで見渡すことができた。再びこの景色を見るためにここまで来たのだと思った。腰を下ろし、コンビニで買ったおにぎりを二つ食べた。ほとんど疲れは感じていなかった。

 それにしても登山者が多い。下山する人より登ってくる人が多く、頂上広場が窮屈に感じるくらいになった。外国人の姿もちらほらと見えた。彼らはこの大山に登ることをどう思っているのだろう。風も少し和らぎ、心地よい気分で景色を堪能した。

 30分くらい頂上に滞在した後、頂上避難小屋に移動した。以前来た時よりもきれいになっている。今回の大山登山で気になっていたことがある。それは、入山協力金が必要になったとネット記事で読んだことだ。どこでどうお金を払うのだろうかと思っていた。避難小屋に入ると、片隅に木箱が置かれ、「大山入山協力金 募金箱」と書かれていた。登山1回につき500円か、何回登っても年間3,000円という2パターンあるようだった。500円なら登山カード、3,000円ならキーホルダーをプレゼントしてくれるという。この木箱に気づく人は少ないだろうし、払っても払わなくても自由だということのようだ。どうしようかと一瞬躊躇していたら、すぐ横に座っていた50歳くらいの女性が立ち上がって1枚のコインを入れ、すぐに小屋を出て行った。私は近くで木道の整備をしている人のことを思った。大山の美化のために少しでもお役に立ててほしいと思い、木箱に500円入れた。そして、横のケースから登山カードを1枚もらうことにした。その時のカードが下の写真である。

 雄大な景色を見ながらの下山は快適だった。登ってくる大勢の人とすれ違った。その度に「お気をつけて」と声をかけた。小学生のお子さん連れのご夫婦が何組かいたが、明らかに子どもよりも親の方がバテているようだった。

 ふと下を見ると、あの高校生のグループも下山していた。急いで下山しようと思っているのだろうが、何だか足取りが危なっかしい。心配しながら後に続いていると、最後尾の高校生が岩場で足を滑らせて仰向けに転んでしまった。「大丈夫?」と声をかけた。すぐに立ち上がり、怪我はないようだった。私の後ろから下山していた60歳くらいの女性が、「やっぱりね、スニーカーで登っているんだから」と言った。確かに高校生グループは全員がスニーカーだった。私はその女性に「登山靴を履いていても転ぶときは転びますけどね」と言ったものの、やはり登山には靴も含めて、それなりの準備が必要だろう。

 行者谷別れに着いたのは、ちょうどお昼頃だった。ここから前回と同じ行者登山口に向かって下山して行った。急な木段が続くので、ちょっと緊張するところでもある。しかし、美しい樹林帯を歩くので心地いい。こちらのコースは人が少ないので、どんどん先に進むことができた。

 行者谷に着いたのは12時20分くらいだった。ここからは雄大な大山の北壁を見渡すことができる。この壁は大山が崩落を続けているということでもある。名著「日本百名山」の中で、作者の深田久弥は大山のことを「…私を感嘆させたのは、その頂上のみごとな崩落ぶりであった」と書いてあったのを思い出した。しばらく北壁を眺めた後、行者谷登山口に向かって歩いた。

 ここもきれいな樹林帯である。途中の階段は、以前来た時には出来たばかりで真新しかった。しかし今は色も変わり、大勢の人が歩いた年月の経過を物語っているように見えた。途中、下宝珠越からユートピア避難小屋への分岐があった。前を歩いていたご夫婦が分岐の先の登山道を見て「何だか入るのが怖いね」と言っていた。私は怖いとは思わず、「いつかここを登ってやるぞ」と思いながら通り過ぎた。

 行者登山口に着いたのは12時35分頃だった。そこは大神山神社奥宮があるところでもある。この日は何かの催し物が行われており、私のような登山者だけでなく、大勢の人で賑わっていた。私もその中に混じって、しばらく神社の中を散策した。横手から奥の方まで行ってみた。ふと見ると、あの高校生グループが下山してきた。いつの間にか私の方が先を歩いていたようだ。

 大神山神社への長い参道を下りて行った。自然石に掘られたお地蔵さんがあったが、前回来た時には全く気付かなかった。また、金門と呼ばれるところにも寄ってみた。

 大神山神社奥宮の鳥居をくぐり、大山寺の前まで来たのは13時10分くらいだった。そこから駐車場に向かったが、途中で「大山自然歴史館」と「大山ナショナルパークセンター」に立ち寄った。「大山自然歴史館」はきれいなところで、展示物も興味深かった。しかし、館内には私以外に二人しかいなかった。何だか勿体ない。

 駐車場まで戻ってきたのは、13時半を回った頃だった。YAMAPアプリによると、タイムは丁度5時間くらいで、距離は約8kmだった。久しぶりの大山登山だったが、天気にも恵まれて大満足の山行となった。

 大山に登るのは勿論だが、周辺の散策だけでも十分に一日楽しめそうだ。今度来るなら紅葉の季節にしようと思いながら帰路に就いた。