☆バジーノイズ

 テレビドラマ「silent」の風間太樹監督が、最旬キャストや音楽界のフロンティアを切り拓くクリエイターと共に描く青春音楽映画とか。原作の人気漫画があるらしいが、全くの未読。単純に映画のみの感想となる。

 何もいらない。頭の中を流れる音を形にできればそれでいい。そう思っていた清澄(川西拓実)は、失恋中だが人と関わることで自己を確認しているような潮(桜田ひより)と出会う。清澄の音楽に心を震わせた潮は、沢山の人に知ってもらおうとSNSでバズらせる。潮に導かれてバンドを組んだ清澄だが、仲間と音を創る喜びに目覚めた時、突然姿を消す。さて、潮や仲間との関係はどうなるのか?

 奇をてらったところはなく、オーソドックスなストーリーである。音楽を通じての人との関わり合いを描いている。音楽映画としても、青春映画としても見どころ十分だろう。ただ、漫画ならいいのだろうが、いきなり潮が窓ガラスを割って清澄の部屋にやって来るところは、実写映画としては無理がある。原作ファンはあのシーンが必要なのかもしれないが…。

 主役の川西拓実は、たたずまいに雰囲気があり、今後も役者として期待大。一番印象に残ったのは、ドラマーを演じた円井わんだった。桜田ひよりは子役の時から大ファンである。桜田ひよりのきれいな脚を見ることができただけで個人的には満足度が高い。

 

☆青春18×2 君へと続く道

 過去と現在が交錯する映画というのはよくある。また、初恋を思い出して行動し、今の自分を立て直すという映画もよくあるパターンだ。しかし、この映画の登場人物の過去と現在の想いの深さは、観る者を圧倒する力がある。

 18年前の台湾でのこと、カラオケ店でバイトする高校生ジミー(シュー・グァンハン)は、日本から来たバックパッカー・アミ(清原果耶)と出会う。彼女と過ごすうち、恋心を抱いていくジミー。しかし、突然アミが帰国することに。ジミーにアミはある約束を提案する。時は過ぎ、人生につまずいて故郷に戻ってきたジミーは、かつてアミから届いた絵ハガキを手に取る。初恋の記憶が蘇り、あの日の約束を果たそうと日本への旅を決意する。辿り着いたアミの故郷でジミーが知った18年前のアミの本当の想いとは…。

 シュー・グァンハンと清原果耶の演技が素晴らしい。この二人の演技力があってこその映画と言える。出番は少ないが、黒木華、道枝駿佑、松重豊、黒木瞳なども印象的だ。ワンカットをおろそかにしない藤井道人監督の本領発揮の作品である。

 過去と現在をうまくミックスした脚本には何度も唸らされた。ジミーがアミと再会したいと思って旅を続けたその先がどうなっているのか。観客は分かっているが、ジミーは知らないのかと思って観ていた。ジミーがアミの実家まで来ての展開に「これはやられた」という思いがした。

 台湾と日本各地での撮影も効果的だ。初恋をめぐる青春映画の新たな傑作ラブストーリーと言ってもいい。今のところ、藤井道人監督と清原果耶の代表作ではないだろうか。

 

☆碁盤斬り

 碁盤を斬るとはどういうことなのか。碁が時代劇のストーリーにうまく組み込まれるのか。不安要素があったものの、主役が草彅剛で娘役が清原果耶だと知れば見逃せないと劇場へ。チラシには「これが日本の復讐だ」とか「感動のリベンジ・エンタテイメント」と書いてあった。

 浪人・柳田格之進(草彅剛)は身に覚えのない罪を着せられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘の絹(清原果耶)とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。囲碁の力量にも実直な人柄が表れ、噓偽りのない勝負を心掛けている。ある日、旧知の彦根藩の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進と絹は、復讐を決意する。

 一途で実直で善良な人柄の格之進の役は、もう草彅剛しかいないだろうという気がした。SMAPの中では地味な存在だったが、ここ数年で一番実力派の役者になった。清原果耶は上記の「青春18×2」とこの映画で、同年代の女性役者の中で抜きん出た存在になったと言える。また、斎藤工と國村隼の存在感は圧倒的だ。

 メガホンと取るのは白石和彌監督。「弧狼の血」が有名だが、この作品でも十分な力量を発揮している。古くからの時代劇ファンも納得の演出だ。時代劇を愛するベテランスタッフが、職人技を駆使して作った感が見て取れるのが嬉しい。

 囲碁を知らなくても映画を楽しめるように工夫している。知っていたなら、もっと深く楽しめるのだろう。面白い時代劇を見たい人なら必見。斬られた碁盤がちょっと勿体ない。