(先週からの続き)

 中蒜山の頂上に来るのも4年ぶりである。4年前はガスっていて、あまり景色は見えなかった。しかし、この日はいい天気で、さっきまでいた上蒜山、これから行く下蒜山まで確認できた。

 ザックを下ろして水分補給し、おにぎりを二つ食べた。私のようにソロ登山をしている人も数人いたが、ほとんどの人はグループで来ているようだった。頂上広場に滞在したのは20分くらいである。その間にも、新たに来る人、縦走や下山で去っていく人などがいて、絶えず20人くらいの登山者が入れ替わっていた。ふと見上げると、こんな印象的な雲が出ていた。

 下蒜山への縦走を始めたのは10時40分を過ぎたころだった。下りになってしばらくすると、樹林帯の中に入った。ブナの木が迎えてくれて、「さあ、やるぞ」という気持ちになった。

 遠く下蒜山から麓の街が見渡せるところと、樹林帯を繰り返しながら歩いて行く。その間にも、何人かの登山者とすれ違った。70代と思われる男性は、かなり疲労しているようだった。足下がおぼつかない。思わず「大丈夫ですか?」と声をかけた。これから中蒜山のきつい登りが待っているのだから。

 しばらくして、前方から見覚えのある二人が歩いてきた。思わず「あぁ…!」と声を出した。今朝、上蒜山の駐車場で出会ったご夫婦である。向こうも私に気づいたので、「この辺り(中蒜山と下蒜山の間の縦走路)で会うだろうと思ってました」と声をかけた。「今日はいい天気なので、下蒜山の笹原がきれいに見えたでしょう」と聞いた。「誰か手入れをしてくれているんでしょうか」とご主人が言うので、「昔、焼いたから笹原ができたそうですよ」と説明した。以前、テレビの登山番組で地元の人が蒜山の歴史を語っていたのを覚えていたのだ。「丁度、お昼時に中蒜山の頂上ですね」と言ってご夫婦と別れた。

 鞍部のフングリ乢に着いたのは11時15分頃だった。ここから登り返しが始まった。10分も歩くと、下蒜山の頂上部が見渡せる笹原になった。6年前はここを下ったが、今回は登りである。日差しがあるものの、風が吹き抜けて気持ちがいい。思わず立ち止まり、水分補給しながら景色を楽しんだ。

 笹原を過ぎると、再び樹林帯に入った。今回の登山で一番印象に残ったのは、初夏の森の美しさである。緑の葉をまとった木々の間を歩くのが本当に気持ちいい。こんな森を見るためにこの日の登山に来た気がした。

 森を抜けると、前を歩く若い女性二人に追いついてしまった。かなり前から一定の距離を取って、後ろからプレッシャーをかけないように気を付けていた。しかし、いつかは追いつくと思っていた。この二人は中蒜山の頂上でも見かけたような気がした。声をかけて追い抜いた。二人の上に、きれいな飛行機雲が出ていた。

 再び樹林帯に入り、下蒜山に向けて最後の登りになった。6年前の記憶では、樹林帯の中を歩く時間はもっと短かった気がする。今回は登りなので長く感じたのかもしれない。

 下蒜山の頂上に着いたのは12時5分頃だった。中蒜山から1時間20分くらいだったが、かかった時間よりも長く感じた。

 下蒜山の頂上には15人くらいの登山者がいた。お昼時なので、食事をしている人が多い。私もザックからパンを出し、大山を遠望しながら食べた。さっき追い越した若い女性二人も到着し、ベンチに座って食事を始めた。60代の4~5人のグループの方から大山をバックに写真を撮ってほしいと頼まれ、快く引き受けたりした。また、30代の父親に連れられた小学校低学年くらいの男の子がいた。元気よく動き回る子どもに対して、お父さんは何度も大きな声で注意していた。

 下蒜山の景色を堪能し、下山を始めたのは12時25分だった。久しぶりに美しい笹原を見ながら下山した。岩場の辺りに来た時、先ほど頂上にいた親子連れが少し下に見えた。私のところまでお父さんの子どもを注意する声が聞こえてきた。岩場で足を踏み外して怪我をしないように言っているようだった。しかし、ちょっと言い方がきつ過ぎる。そのうちに親子連れに追いついてしまった。立ち止まっている男の子に、「ぼく、高い山に登ってえらいね」と声をかけた。お父さんには「お気をつけて」と言ったが、何の反応もなかった。関係のない親子なので無視すればいいのだろうが、山のマナーや子どもへの接し方について、ちょっと言いたい気分だった。何のために子どもと一緒に登山をしているのか。

 七合目より下が下蒜山の笹原の一番の見どころである。景色を楽しみながらのんびりと歩いた。ふと見ると、笹原の中に座って何か食べている人がいた。また、登ってくる外国人のカップルとすれ違った。女性はスマホで花を撮影していた。声をかけると、日本語で返してくれた。ビュースポットの雲居平からの景色はこの通りである。

 五合目よりも下は樹林帯である。足を滑らせないように慎重に降りて行った。すると、先ほど笹原の中に座っていた男性が走って下山して行った。

 犬挟峠の登山口に到着したのは13時30分を回ったころだった。YAMAPアプリの記録によると、上蒜山駐車場から5時間45分の山行だった。思った以上に早かった。久しぶりの蒜山三座縦走に大満足だった。東屋にザックを下ろして休憩した。あまり疲れを感じなかった。

 ここからが問題である。どうやって上蒜山の駐車場に置いている車のところまで戻ったらいいか。昨年の那岐山の三座縦走でも悩んだことだ。あの時は親切なおじさんに声をかけて車に乗せてもらった。今回はタクシーを呼ぶべきか、さて、どうしようかと思っていたら、目の前にタクシーが三人のお客さんを乗せて到着した。この三人はこれから登山をするのだろう。ダメ元で運転手さんに「乗せてもらってもいいですか?」と声をかけた。運転手さんは会社に電話をして確かめていた。先客の予約があるようだったが、何とかOKだったようで、乗り込むことができた。人のいい運転手さんで、車内の会話が楽しかった。

 上蒜山の駐車場に着いたのは14時を回ったころだった。縦走途中で出会った隣の車のご夫婦は、まだ戻っていなかった。

 6年ぶりの蒜山三座縦走は、天候にも恵まれて山登りの楽しさを再認識することができた。やっぱり山はいいね。これから夏山登山の季節になる。さて、次はどこに行こうかと思いを巡らせながら帰路に就いた。