NHKの朝ドラ「ブギウギ」が3月29日(金)で終了した。私は全ての放送回を見た一人である。戦前から戦後にかけて活躍し、「ブギの女王」と言われた歌手・笠置シヅ子をモデルにしたドラマだという前宣伝だった。正直なところ、最初はあまりピンとこなかった。私の年代で笠置シヅ子と言えば、「家族そろって歌合戦」の審査員の印象しかない。その頃はもうかなりおばちゃんで、主役の趣里のスリムな体型とは似ても似つかない。朝ドラ好きの私だが、あまり期待していなかったというのが正直なところである。

 しかし、ドラマが始まると、その心配は杞憂であった。かなりベタな人物配置でスタートしたが、主役の鈴子の子役(澤井梨丘)がとても上手で、すぐにドラマに引き込まれた。前半では、鈴子の父親・梅吉役の柳葉敏郎、母親・ツヤ役の水川あさみが好演だった。また、亀を可愛がる弟の六郎(黒崎煌代)の存在が、ドラマに厚みを加えていた。この家族三人の家庭環境が、鈴子の性格を作っていると素直に納得できた。

 鈴子は梅丸少女歌劇団(USK)に入団して福来スズ子の芸名になる。スズ子がUSKでデビューして以来、踊りと歌がこのドラマの大きな見どころとなる。USKのモデルとなった現OSKの現役役者が多数出演しており、本物のレビューをドラマの中で見ることができるとは、何と贅沢な演出だろうと思った。

 しかし、何といってもこのドラマが盛り上がるのは、作曲家・服部良一をモデルにした羽鳥善一(草彅剛)と出会ってからだろう。歌手・福来スズ子の素質を見抜き、大スターに育てたのは羽鳥善一の歌があってのこと。「東京ブギウギ」「ヘイヘイブギー」「買い物ブギー」などの代表作は、全て服部良一の作曲である。服部良一あっての笠置シヅ子であり、笠置シヅ子あっての服部良一だったのだろう。よって、3月28日(木)の放送回で、スズ子と羽鳥善一が互いに感謝しあうというシーンが、このドラマの終着点と言える。

 USKでのスズ子の青春時代、東京に出てスター歌手になる過程、戦時中に全国を慰問するシーンなども興味深く見た。ほとんどのストーリーは、笠置シヅ子が本当に経験したことだという。村山愛助(水上恒司)との内縁関係、愛助の結核での他界、愛子の出産も事実に沿ったストーリーである。水上恒司は映画「あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら。」でも感じたが、昔の男性の役が良く似合う。

 羽鳥善一を演じた草彅剛は、さすがと言っていい演技だった。SMAPの頃は一番地味で目立たなかったが、役者としては、今、一番活躍しているのではないだろうか。また、菊地凛子が演じた茨田りつ子も、終始スズ子に影響を与える重要な役である。クールに見えて、歌手スズ子の一番の理解者だった。伊原六花、富田望生、吉柳咲良など、若手の役者の活躍も見逃せない。若手役者と、近藤芳正、黒田有、木野花、市川実和子、橋本じゅん、小雪などのベテラン役者の配置が抜群のバランスだった。私は藤間爽子のファンなので、タイ子ちゃんにもっと出演してほしかった。

 個人的に一番印象に残ったのは、喜劇王・棚橋健二(タナケン)を演じた生瀬勝久である。何度か朝ドラにも出演しているが、実に的確な演技で、主役の趣里を引き立たせていた。

 大成功の朝ドラだったと思う。成功の要因の第一は、趣里が実にうまく主役を演じたからだろう。2016年の朝ドラ「とと姉ちゃん」ではチョイ役だったが、印象的な演技をしていた。趣里の両親はともに大スターで、子どもの頃からいろいろなプレッシャーがあったろう。何年か前、映画でヌードを披露していたが、何かイタい感じがあった。私生活の紆余曲折を経て、やっと得た朝ドラの主役を、見事に演じきったと言っていい。実年齢では30歳を超えているが、少女時代のスズ子は本当に少女に見えた。これからいろいろな仕事のオファーが殺到するだろう。ぜひ役者として大成してほしい。

 ドラマの中で、趣里は笠置シヅ子の歌を何曲も歌い、踊っていた。改めて聞いて、確かに名曲が多い。「ラッパと娘」は、今聞いても斬新な傑作である。こんな歌が戦前に作られていたとは驚きだ。水城アユミがぜひ「オールスター男女歌合戦」で歌いたいと言ったのも納得できる。また、「ジャングル・ブギー」は映画「酔いどれ天使」の中で笠置シヅ子自身が歌っていたが、作詞が黒澤明監督だったとは知らなかった。このドラマを通じて、昔の笠置シヅ子の曲にスポットが当たったことも喜ばしい限りだ。

 最終回に服部良一の孫である服部隆之が指揮をする姿がチラッと映っていた。服部隆之は今や日本を代表する作曲家である。見事なアレンジで良一の曲を蘇らせていた。しかし、まだおじいさんにはかなわない。

 半年間、本当に楽しませてもらった。NHKの朝ドラらしい朝ドラだった。傑作ではないものの、名作の仲間入りと言っていいのではないか。趣里をはじめ出演者の皆さん、本当にお疲れさまでした。

 朝ドラファンの皆さん、次作の「虎に翼」も期待しましょう。