☆鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

 漫画家・水木しげるの生誕100周年記念作品とか。私はテレビで最初に「ゲゲゲの鬼太郎」が放送された時、テレビにかじりついて見ていた世代である。だが、特に鬼太郎ファンという訳ではない。本作は11月17日公開だが、大ヒットしているとネット情報で知っていた。昨年中に観たかったが、なかなかいい席を予約できず、今年になってやっと鑑賞することができた。

 冒頭から引き込まれるストーリーで、鬼太郎シリーズ本来のおどろおどろしい世界観をよく描いていた。太平洋戦争で生き残った水木は、密命を背負って龍賀一族が支配する哭倉村へやって来る。そこで鬼太郎の父と出会い、村の恐ろしい秘密に直面するという設定も面白い。

 ただ、私のように初期から鬼太郎シリーズを見ている者からすれば、水木しげるの画風と違っているのが気になった。また、昨今のアニメの技術からすると、もう少し細かな画像であってもいい気がした。もっと恐怖感が増したと思うが、これは個人の好みである。

 鬼太郎シリーズのファンならたまらない作品だろう。声優も文句なし。この後のストーリーも気になるので、続編があってもいいのでは…。

 

☆ある閉ざされた雪の山荘で

 東野圭吾の原作を、これだけの役者を使って映画化するのだから面白いに決まっていると思った。原作は未読である。題名からして、大雪で外に出られない山荘の中で、次々と殺人が起こる。外部からの侵入者はなし。さて、誰が犯人なのかといったアガサ・クリスティーばりの上質なミステリー映画を期待していた。ところが…。

 全くの期待外れ。緊張感をまるで感じない。ゆるいストーリーとオーバー過ぎる演技に睡魔が襲ってきた。何とか眠らないで最後まで観たが、お金を返してほしいと思うレベル。ラストのどんでん返しも、映画を見慣れた人ならとっくに想定済み。劇団を扱った映画やテレビドラマではよくあるパターン。

 きっと東野圭吾の原作は、読む人の想像力を刺激するような作品なのだろう。小説には絶対映像化してはいけない作品がある。これもその一つだったのでは。映像化するなら脚本が全てである。この程度の脚本なら、この程度の映画にしかならないというのは、優れた映画人ならわかっていたと思うが、なぜ映画にしたのか。重岡大毅が主役というのも意味不明。

 

☆ゴールデンカムイ

 面白い。本当に面白い。こんなに文句なく面白い日本映画を久しぶりに観た気がした。

 映画の冒頭、日露戦争の二百三高地の戦闘シーンからグッと引き込まれる。「不死身の杉元」という異名を持つ主人公が、北海道でアイヌ民族から強奪された莫大な金塊があることを知る。杉元はアイヌの少女アシリバと協力して、金塊を見つけ出すべく動き出す…。

 雪の中の撮影が美しい。雪が積もった森も美しい。見ているこちらも寒く感じるくらい、この映画のロケ効果は抜群である。杉元と白石が川に落ちるシーンの撮影は大変だったろうと思う。ヒグマの襲撃も描かれているが、ここはCGである。しかし、CGを意識しないくらいよく出来ていて恐怖感が増している。

 個性豊かな登場人物を、玉木宏、舘ひろしなどが熱演している。杉元を演じた山﨑賢人は、「キングダム」シリーズを経て本物の映画俳優になった気がした。個人的には「キングダム」よりもこの映画の方が好きだ。しかし、私が一番印象に残ったのは、アシリバを演じた山田杏奈である。5年前くらいから注目していたが、遂に決定的な当たり役をゲットした。雪の中で弓を引くアシリバを見て、心がざわつかない観客がいただろうか。オーディションなど必要なかったのでは。

 こんなに面白い映画の脚本をだれが書いたのだろうかと思ったら、黒岩勉さんだった。映画なら「キングダム」、テレビドラマなら「マイファミリー」「ラストマン」「TOKYO MER」などのヒットメーカー。さすが黒岩さんだと納得。久保茂昭監督作品を初めて観たが、演出のツボを心得ていて、観る者を飽きさせない。

 今、巷ではテレビドラマの原作と脚本とのあり方が問題になっている。この映画だったら、原作者も原作からのファンも大納得だろう。原作があっての映画化では大成功作品と言える。続編ありきの終わり方だった。早く続編が観たい。

 

☆サイレントラブ

 ある出来事をきっかけに声を発することをやめた青年・蒼を山田涼介、不慮の事故によって視力を失ったピアニスト志望の音大生・美夏を浜辺美波が演じている。

 映画ファンなら、このストーリーはチャップリンの「街の灯」を参考にしていると気付くはず。しかし私は終始、北野武監督の「あの夏、いちばん静かな海。」を思い出していた。音楽が久石譲さんだったので、余計にそう思ったのかもしれない。よって本作は「街の灯」と「あの夏、いちばん静かな海。」をたして2で割ったような作品と言える。映画の出来は2作品には遥かに及ばないが…。

 設定は悪くないし、北村(野村周平)が絡んでくるのも、その後の展開から納得できる。しかし、主役二人の純愛映画とするなら、あの暴力シーンは必要だろうか。人によっては目を背けたくなるのでは。蒼と美夏と北村との三角関係が静かに進行し、心理的な描写で破綻するストーリーなら、もっと感情移入できたのではないか。それでこそ「サイレントラブ」だろう。

 山田涼介は影のある人物をうまく演じていた。キャリアの中で最高の演技だと思う。浜辺美波もこういう役ができるようになったのかと感心した。内田英治監督作品だったので期待したが、脚本が今一歩というところ。決して失敗作ではないので、主役二人のファンなら必見だろう。