7月から9月期に放送されるドラマが終了した。ドラマ好きの私だが、全てのテレビドラマを見る訳にはいかない。基本的にはNHKとTBSのドラマを見ることにしている。

 この3ヵ月、世間で一番話題になったのは、TBSの「VIVANT」だろう。以下は、このドラマを見た私の個人的な感想である。

 「VIVANT」の細部についての考察は、今さら必要ないだろう。ドラマを見た多くの人が、自分なりの考察をネットにアップしていた。私もYou Tubeで何本もの考察動画を見ていた。週に何本もの動画をアップしている人もいて驚いたものだ。それぞれの考察は当たっているものもあれば、全く外れているものもあった。それはそうだろう。素人に簡単に内容や登場人物の動作の裏の意味を見破られては、プロの作ったドラマとは言えないだろうから。

 ドラマの初回からびっくりさせられた。砂漠の中を乃木憂助(堺雅人)がスーツ姿で歩いている。それを空撮で撮っている。モンゴルで2ヵ月半ロケをしたと聞いていたが、何だか凄いドラマが始まるのではないかという期待感がいっぱいだった。初回のラスト、日本大使館へ乃木、野崎守(阿部寛)、柚木薫(二階堂ふみ)が逃げ込もうとする。装甲車のような車に乗り、走路を邪魔する車を壊していく。こんなシーンは外国映画(例えば「ワイルド・スピード」など)ではよく見るが、日本のドラマでは初めて見た。お金のかけ方が違うと実感したシーンだった。

 別班という極秘組織の名前も初めて聞いた。本当に存在するのかどうか分からないが、「007」のジェームズ・ボンドのように、裏で活動している人がいるのではないかという気にさせられた。

 初回で二宮和也(ノコル)がいきなり登場したり、メインキャストだと発表されていた松坂桃李(黒須)を、3回目でやっと登場させるところも憎い演出だった。また、主役しかやらないと言われる役所広司が、ノゴーン・ベキという謎のテロ組織・テントのリーダーとして出演したのにも驚いた。

 乃木、野崎、薫を中心にストーリーは進んでいく。乃木の別班、野崎の警視庁公安、ノゴーン・ベキのテントという3つの組織の内情も、視聴者は興味深かったろう。ドラマの宣伝文句のように「敵か味方か、味方か敵か」分からない展開が毎回用意されていて、見る者を飽きさせない。

 私は当初から、このドラマは日本だけでなく、バルカという架空の国を舞台にした壮大なスケールに目を奪われがちだが、実際は乃木憂助を中心にしたシンプルな愛の物語だろうと思っていた。親子、兄弟、恋人、組織、そして日本への愛である。

 ラストは違う展開でも良かったと思う人もいるだろう。例えば、乃木がベキを撃った後、内閣官房副長官の上原(橋爪功)まで乃木が始末する。40年来のベキの目的を息子の乃木が叶えるのだ。野崎は乃木が上原の家に火を放ったと分かっているが、見逃して何もなかったことにする、など。

 しかし、ベキは憂助に撃たれ、「お前は私の誇りだ」と言って憂助に抱かれて死んでいく。愛を中心に考えると、親子の愛の物語は、ここで完結している。ノコルは憂助に「お父さんは憂助に撃たれて幸せだったはずだ」とまで言う。血のつながっていない憂助に対して、「ありがとう、兄さん」とも…。

 そして憂助は、生まれて初めて自分を無条件に愛して受け入れてくれた薫とジャミーンのところに戻り、二人を抱きしめる。薫は最後まで憂助を裏切らなかった。これで憂助の愛の物語は大団円を迎えるのだ。

 ドラマとは、誰が主人公でも、どこが舞台でも、最後は人間の愛を描いている。主人公は愛を基に行動する。その愛の行動の軌跡がストーリーとなる。そんなドラマ作りの基本を、この「VIVANT」を見ることによって改めて気づかされた気がした。

 では、このドラマのテーマは何か?それは母国への愛ではないだろうか。最終回でベキが言った台詞が印象的だった。以下、書き記すと「日本では古くから、ありとあらゆるものに神が宿っていると考えられてきた。神が一つではないという考えがあることで、相手の宗教にも理解を示し、違いを超えて結婚もする。日本には考えの違う相手を尊重するという美徳がある。これからバルカは、宗教・民族の違いを争いの火種に二度としない。国の富を公平に分け、お互いの宗教・民族を尊重する国になっていく。そんなことは不可能だと人は言うだろう。だが決して諦めない。我々の一歩は、子どもたち、更にその次の世代へと受け継がれていく。相手を敬い、分かちあうことの素晴らしさを、この国に根付かせる。それはいずれ、この国の文化となり、歴史となっていくんだ。この小さな一歩は、新しいバルカを築くための偉大な一歩となる。私はそのために今までやってきたんだ」。また、ベキが日本に旅立つ前日、ノコルに対して「憂助が私を殺すのなら、日本もまだまだ見どころがあるというものだ」とも言っている。野崎は命が助かった上原に対して別班のことを「彼らは選ばれた人間です。誰よりもこの国を愛し、この国のために動いています」と言う。

 最終回になって、私は制作者の意図がここにあったのかと気づかされた。乃木が毎日、神田明神にお参りするのも、乃木家のルーツが出雲だったことにも意味があったのだ。「国を愛する」などというと、「このドラマは右寄り過ぎて危ない」などと言う輩がいてもおかしくない。しかし私は、ネット上でそんな思想的な批判を全く見なかった。視聴者の誰も、「VIVANT」をエンタティメントとして見ていたのだろう。それもまた、日本人の健全さを証明したと言えないだろうか。いつまでも宗教・民族を超えて相手を尊重する日本でありたい。

 世界では宗教・民族が原因で、今でも紛争が続いている。ベキの台詞に、ロシアとウクライナの戦争を想起したのは私だけだろうか?かの大国では、ワグネルという民間軍事会社に最前線の戦闘を任せていた。ドラマの中のバルカでは、バトラカが経営する軍事組織に国の防衛の7割を頼っていた。この設定は偶然だろうか?

 ドラム、チンギス、山本など、いろんな意味でチャーミングな登場人物がドラマを盛り上げた。まさに歴史に残る作品と言える。続編があるのかどうか分からないが、福澤監督がお元気なうちにぜひもう一作!