☆怪物

 是枝裕和監督の最新作である。脚本を「花束みたいな恋をした」の坂元裕二が書いている。登場人物の視点を変えての描き方は、黒澤明監督の傑作「羅生門」の形式である。子ども同士のケンカに端を発して、食い違った主張が社会やメディアを巻き込んでいく。

 一番に感じたのは、美しい映画だということである。画面が美しいだけではない。描かれている世界観が美しいというべきか。勿論、坂本龍一の音楽も美しい。少年二人が若葉の中を走るラストシーンは美し過ぎて、ちょっと画像を加工し過ぎだろう。

 ロケに使った小学校を、よく見つけたものだと思う。建物の中に吹き抜けがあり、程よく使い込まれた感じが映画的である。湖の見える街もまた然りだ。都会ではなく、地方の街で起こる出来事だからこそ現実感がある。

 安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子の演技対決が大きな見どころである。しかし、少年二人のキラキラとした表情が一番の名演ではないか。この二人の少年でなければ、ここまでの作品にはならなかった。また、ちょっと出てくる中村獅童が妙に印象に残った。逆に、高畑充希の存在感が薄いと感じたのは私だけだろうか。

 カンヌ映画祭では絶賛されたという。是枝裕和監督作品の世界観を理解しているかどうかで評価が変わってくるだろう。映画を観終わった後、誰もが「怪物」であることに気づかされる。自らの「怪物」にどう対処するのかが問われている。

 余談だが、私は長年教育関係の仕事をしてきた。学校でイジメやケンカがあった時、映画で描かれたような対応をするところはないと思う。LGBTの問題なども含め、時代は変わっている。

 

☆リトル・マーメイド

 何だかネットでの評価が低いので心配していた。あのディズニーがそんな失敗作を世に出すだろうか。また、ロブ・マーシャル監督がつまらない作品を作るだろうかと思ったりした。

 いろいろな意見があるだろうが、私は「これでいい」と思っている一人である。特に海の中の映像が素晴らしく、アニメでは描けないものだろう。本来の「リトル・マーメイド」の世界観が、実写版としてよく表現できていると思った。

 アリエル役を演じたハリー・ベイリーが演技力不足だとか、黒人が海の中を泳いでいることに違和感があるといった指摘を散見した。しかし、それはあくまで個人の偏見に基づくものである。南国の少女が海にいる姿もまた美しいではないか。ロブ・マーシャル監督とプロデューサーは、あらゆる人種を対象にアリエル役のオーディションをした。オーディションの一人目がハリー・ベイリーだったという。その後、何百人も歌手や俳優に会ったものの、ハリー・ベイリー以上の逸材は現れなかった。アリエル役の黒人批判など、最初から監督の想定内のことだろう。私はむしろ、エリック王子役のジョナ・ハウアー=キングの演技力に不満があった。

 元の作品が有名であればあるほど、実写化や再映画化は難しい。どうしても以前観た作品と比較してしまう。何を求めて映画を観るのかという、観客側の姿勢が問われているとも言える。ネットの低評価通りの作品かどうか、劇場で観て自分で確かめたらどうだろう。私は観て良かったと思っている一人である。

 

☆ザ・フラッシュ

 私は映画を分け隔てなく観ることにしている。文芸大作でもオカルト映画でもB級作品でも、映画なら何でも面白く観ている。しかし、人間である以上、どうしても好きとか嫌いとかいった映画があるのも事実だ。決して嫌いではないが、苦手な映画のジャンルの一つがアメリカのヒーローものである。特に、CGなどでコテコテに作っている映像が苦手だ。

 この「ザ・フラッシュ」もまた、コテコテ映像が満載である。悪を倒すためにフラッシュやバットマン、スーパーガールが活躍する。その映像はさすがにDC、見事である。しかし、個人的には気持ちが乗らなかった。これだけ多人数のヒーローが揃っているのだから、最後には勝つに決まっているじゃないのと思ってしまう。

 フラッシュはそんなに魅力的なヒーローだろうか。私は小ネタギャグに笑えなかった。スーパーガールはセクシー過ぎて、活躍よりも胸元が気になってしまう。私などの年齢では、クリストファー・リーヴのスーパーマンや、ヘレン・スレイターのスーパーガールが懐かしかった。若い映画ファンは知っているだろうか。その他、ニコラス・ケイジやジョージ・クルーニーなど、カメオ出演陣も豪華だ。凄いなぁと思いつつも、どうも私の胸に響くものはない。

 映像は見事なものの、何か物足りないのはドラマ部分の弱さではないか。殺害された母親を救うために、フラッシュは時空を超えて過去を変えてしまう。そのため現在の世界に歪みが生じる。元の世界に戻そうと、フラッシュは仲間たちと奮闘するというストーリーだ。

 時空を越えて過去を変えたらマズイことが起こるというのは、映画やドラマで何度も使われたパターンである。ヒーローたちが活躍するシーンを見るだけで満足だという人に文句はない。しかし、私はストーリー展開の単純さが不満である。結果はああなるに決まっているじゃない。

 映画の冒頭で、ワンダーウーマンが出ていた。私はガル・ガドット演じるワンダーウーマンの映画が大好きである。映像とドラマ部分が程よく融合していたと思うからだ。もう一度美しいガル・ガドットのワンダーウーマンを観たいと思っているのは私だけだろうか。

 私は楽しめなかったが、多くの映画ファンが楽しんだのならそれでいい。ネットでは高評価なので、私が苦手なだけなのかもしれない。ファンの皆さん、ごめんなさい。