紅葉を見るには遅くなってしまったが、秋の山を歩きたいと思った。選んだのは真庭市(旧美甘村)の三谷山(846m)である。マイナーな山で、「新岡山の山100選」(吉備人出版)にも「岡山県の山」(山と渓谷社)にも、その名は載っていない。

 三谷山登山口への道順を調べたが、よく分からない。出発する1時間くらい前になって、やっとネットで確認することができた。

 国道181号線を北上し、旧美甘村の中心部で右折した。約1キロ蒜山に向かった後、篠ヶ峠から広域基幹林道作西線に入った。ここからが長い。もしかしたら道を間違えたのではないかと思った頃、今は使われていない「自然エネルギー発電所」の建物が見えた。建物横に1台分の駐車スペースがあった。車から降りると、旧美甘村の中心部を見下ろすことができる。遠くには大山まで見えた。

 建物の向かいが登山口である。登り始めたのは10時8分だった。なだらかな登りが続いて行く。見上げると、樹林帯の間からきれいな青空が見える。約15分で大久留美山(おぐるみやま)の頂上に着いた。と言っても、登山道の途中である。笹藪の中に三角点があった。

 それにしてもきれいな山である。登山道は笹が刈り取られており、手入れが行き届いている。何か所か倒木があったが、歩く邪魔になるというほどでもない。聞こえるのは落ち葉を踏む足音、鳥の声、時おり吹く風の音くらいである。歩きながら、私は何度も「気持ちいい!」と独り言を言った。

 分岐標識もきちんとあり、道に迷うこともない。左の樹間から大山をちらちらと見ながら登山道を進んで行った。時折、紅葉が残っているところもあり、立ち止まって写真を撮った。

 「とちのきの森」への分岐を直進してしばらくすると、「展望の丘」という案内板があった。しかし、その丘への道はなく、笹藪が茂っているだけである。ここはそのまま直進した。

 何度かのアップダウンを繰り返し、気が付くと三谷山の頂上に着いていた。10時50分頃だった。少し汗をかいたが、疲労感は全くなし。笹藪が刈り取られ、ちょっとした広場になっている。樹間から周辺の山を見ることができる。正面に見えるのは7月に登った星山だろうか。

 頂上には間違いないが、頂上標識も三角点もなかった。大日如来の石碑があるとのことだったので笹に踏み込んで探した。しかし、遂に見つけることができなかった。それだけが残念である。

 下山を始めたのは11時15分だった。同じ道を戻っては面白くないので、分岐を「憩の森・紅葉谷」方向へ向かった。やや急な坂道があったが、足をすべさせるというほどでもない。落ち葉に覆われたきれいな登山道が続くだけである。「憩の森」を過ぎると、杉林が多くなった。その先の分岐は「しらかばの森」の方へ向かった。樹木が多くなったが、日光が差し込んでいて明るい森である。

 「しらかばの森」の先に、左へ行く道があった。ちょっと進んでみたが、違う気がしてすぐに戻り、直進することにした。車の轍が付いていて、4WDの車ならこの辺りまで来ることができる。

 広いところに出たので左を見ると、来る時に通った林道が見えた。正面はトイレである。林道を通って「自然エネルギー発電所」まで戻ったのは12時5分である。丁度2時間の山行だった。いい天気で気持ちがいいので、しばらく景色を楽しんだ。

 こんなに天候に恵まれて山登りができたのは、今年初めてかもしれない。登山道は良く整備されていて、危険個所は全くなし。岩場もなければ鎖場もない。木段もなし。こんなに気持ちのいい山があるとは思わなかった。穴場を発見した気分である。本格的な山登りを期待している人にはもの足りないかもしれない。しかし、山からの癒しを味わいたい人にはもってこいの山である。三谷山に行って数日経つが、私はいまだにあの時の気持ち良さが体の中に残っている。来年は紅葉の季節にまた訪れてみたい。

 山中でも林道でも、全く人に会わなかった。また、車一台すれ違うこともなかった。この静かなる三谷山は、新たな私のお気に入りの山となった。