良く晴れた10月下旬、大阪と奈良の県境にある岩湧山に登山に行った。4年半ぶりのバスツアーの参加である。岩湧山は「新日本百名山」に選ばれている。この季節はススキが美しいとのことだった。

 朝7時20分に岡山駅前の駐車場を出発。山陽自動車道を関西方面に向かった。ツアーの参加者は19名だった。バスの中には、新型コロナウイルスの感染対策として、座席にパネルの仕切りが取り付けられている。座る時に邪魔になるが、まあ仕方がない。

 とにかくバスに乗っている時間が長い。高速を降りてからは渋滞している。登山口近くの道の駅に着いたのは、11時半だった。ここで2人の登山ガイドの方と合流した。お弁当をこの道の駅で食べた。偶然、猿回しの芸を見せるイベントがあり、私は楽しく見ながら食べた。

 滝畑ダム近くの登山口を出発したのは12時半を回っていた。この時点で、もう予定から1時間遅れている。2班に分かれて歩き出した。1班は複数人で参加している人、2班は単独で参加している人という分け方だった。私は一人で参加しているので2班である。それぞれの班の先頭に登山ガイドの方が付き、最後尾に添乗員の方が付いた。私は後ろを歩くのが好きなので、スタート時は添乗員さんの前を歩いた。つまり、後ろから2番目である。

 こんな時間からのスタートなので、下山してくる多くの方とすれ違った。家族、グループ、恋人同士など、いろいろな人がいた。中国人のグループともすれ違った。中国語で挨拶をしてくれた。また、犬を連れている人も多かった。

 登山道は良く整備されていて歩きやすい。危険な岩場や鎖場もない。木段の続くところがやや急坂だが、息が切れるということもない。いつも一人で登山をしている私は、登山道を早く歩くのが得意である。しかし、この日はツアーのグループ登山である。ゆっくり歩くペースに合わせるしかない。

 樹林帯の中をゆっくりと歩いて行く。後ろから来た人に何回も抜かされた。一人で歩いていれば抜かされることもないと思ったりした。出発して30分もすると、2班の70代の男性が徐々に遅れだした。添乗員さんが何度も声をかけていた。1班と2班の間が広がって行った。

 鉄塔のある広場で何度目かの休憩をした。水分補給をしていると、2班担当の山岳ガイドの方が私のところに来て、「1班に入って早く歩かなくてもいいですか?」と聞いてきた。「このままでいいですよ」と答えておいた。山岳ガイドの方から見て、私がゆっくりペースにイライラしているように見えたのかもしれない。

 歩き始めて2時間くらい経った。樹林帯を抜けると、やっと岩湧山の全体が見えた。ススキで覆われた頂上に向かって登山道が伸びている。ここが最後の登りである。ススキのトンネルをゆっくり登って行くと徐々に眺望が開け、周囲の山並みも見えてきた。

 14時53分、頂上に到着。頂上広場には30人くらいいた。みんな歓談したり、食事をとったりしている。頂上標識の前で自撮りをしようとすると、登山ガイドの人が声をかけてくれて写真を撮ってくれた。

 晴れているので、遠くまで見渡すことができる。大阪平野の向こうの山並みは六甲山か。海の向こうに見えるのは淡路島だろう。ススキは丁度見頃であり、この美しさは確かに一見の価値あり。

 15分くらい頂上広場に滞在した後、下山にかかった。縦走するので、登って来た方角とは反対の道を歩き出した。すると、少し先に三角点を発見した。三角点にこだわりのない人は通り過ぎていくが、私はやっと三角点を見つけたと思って写真に撮っておいた。その先を少し下った先にトイレがあった。我慢していたので、使わせてもらった。

 ここからは再び樹林帯の中に入った。夕暮れ時間が気になっていた。五ッ辻や根古峰などを通過した。途中で休憩した時、登山ガイドの方がヘッドライトを持っている人を確認した。5~6人が持っていた。私はザックに入れているが、電池切れで使えない。まさかこんな暗い時間になるとは思っていなかった。この後は、ずっとヘッドライトの光が必要だった。

 かなり急坂を下りることもあった。前を歩いていた40代の女性が遅れてきた。最初に遅れた70代の男性も遅れている。大丈夫だろうかと思いながら暗くなった道を歩いた。すると、後ろから「この道は紀見峠駅に行きますか?」という声が聞こえた。ソロで歩いている40代の女性だった。ヘッドライトは付けていない。暗くなって道に迷ったと思って心細かったのだろう。私たちを見つけてホッとした様子だった。この時間の山登りの怖さを実感した思いだった。決して他人ごとではない。結局、この女性とは下山するまで一緒に歩いた。

 紀見峠駅の近くを通過し、バスのところに辿り着いたのは18時だった。予定の下山時刻よりも1時間40分も遅れていた。心配したが、何とか全員が最後まで歩き通すことができた。和歌山ナンバーの車が走っていると思ったら、下山したところは和歌山県橋本市だった。

 バスに乗り込み、岡山まで帰って来たのは22時半だった。ツアーの参加者は、みんな疲れたようでバスの中で眠っていた。しかし、私は5時間半歩いても疲れを感じなかった。これはゆっくり歩いたからだろう。山の中を早く歩くか、体力を考えてゆっくり歩くか、今後、山に行く時の参考にしたいと思った岩湧山登山だった。