NHKの朝ドラ「ちむどんどん」が9月30日(金)に終了した。私は朝ドラファンであり、この「ちむどんどん」も全ての回を録画して見た。沖縄の本土復帰50周年の記念ドラマということで、NHKも力を入れて制作したに違いない。しかし、ネット上では「#ちむどんどん反省会」というハッシュタグのもと、罵詈雑言の嵐だった。ドラマファンとして、以下は冷静に見た雑感である。

 ドラマの出だしはまずまずだった。それは子役が可愛かったからだろう。主役の暢子の子ども時代を演じた稲垣来泉ちゃんは演技力があった。微妙な心理の動きを、ちょっとした表情の変化で演じることができていた。何度も感心したものだ。賢秀、良子、歌子を演じた子役も可愛くて、このまま子どもたちのストーリーでも良かった気がするくらいである。

 ところが、暢子が高校生になったくらいからは突っ込みどころが満載である。あの多額の借金はどうしたのだろう。最終週で良子が「お父ちゃんが死んで、借金まみれのどん底で、それでも歯を食いしばって生きてきたのに…」という台詞があった。しかし、そのどん底を生きるシーンは全くなかった。また、賢秀が詐欺師まがいのことをしているのには驚いた。優子(仲間由紀恵)は賢明な母親のはずだが、賢秀に関してはダメ親になっていた。キャラが統一していない。良子は地元の小学校の先生になっていたが、どうやって大学に行く学費を工面したのかが分からない。

 私は歌子が一番好きだった。病弱な少女を上白石萌歌が上手く演じていた。よく熱を出して寝込んでいたが、最後まで歌子は何の病気だったのかが分からなかった。海に向かって叫ばなくても、ドラマの展開からして、歌子が死んだりすることはないと誰でも分かるだろう。

 ネット上では、ストーリーがご都合主義だと言われていた。それはそうだろう。何の当てもなく東京に出てきた暢子が、沖縄県人会の会長・平良三郎(片岡鶴太郎)と偶然知り合う。そして、沖縄料理店を紹介してもらって下宿させてもらう。そこには、子どもの頃沖縄で知り合った青柳和彦(宮沢氷魚)も下宿している。東京エリアで、そんな偶然がある訳ない。「おかえりモネ」で、モネと医師の菅波がコインランドリーで偶然再会するシーンに驚いたが、暢子と和彦が同じ下宿で再会する確率は、宝くじの1等に連続して当選するよりも低いだろう。

 脚本を書く作業の中に「ハコ書き」というのがある。シーンの並びとか簡単な内容を書くもので、構成表ともいわれる。想像だが、脚本を担当した羽原大介氏やドラマの制作者達は、ハコ書きの段階で「この週はこのストーリーにしましょう」と言ったものを考えていたのではないか。だから主人公に難題が降りかかっても、その週のうちに都合よく解決してしまう。好感度抜群だった大野愛(飯豊まりえ)が突然いなくなったのもそのせいだろう。暢子よりも愛の方が素敵な女性だったと思うのは私だけだろうか。また、フォンターナの権利書を1000万で買い取るように迫ったり、嫌がらせをした権田(利重剛)というヤクザまがいの男がいた。しかし権田は、戦後シベリア抑留時に三郎に助けられていて、三郎の姿を見るとすぐに手を引くというオチとなる。そんな都合よく解決する訳がないではないかと思ってしまう。しかし、ドラマの制作側としては、この週に解決しないといけないのだろう。

 6月にアップしたこのブログでも指摘したが、脚本の羽原大介氏は、私と同じで映画「男はつらいよ」の大ファンなのだろう。賢秀を寅さんのような存在にしたかったに違いない。それにしても「男はつらいの」の台詞の丸パクリはいかがなものか。また、賢秀と結婚する猪野清恵(佐津川愛美)が夜の街で働くというシーンがあった。その時の源氏名がリリーさんだった。リリーと言えば、「男はつらいよ」で浅丘ルリ子が演じたマドンナの名前である。「男はつらいよ」のファンの中で一番人気のマドンナの名前をそのまま使うとは、腹立たしいにも程がある。丸パクリをして恥ずかしくないのだろうか。

 今までの朝ドラのように、主人公の暢子は、また沖縄に帰ってくるのだろうと思っていたら、案の定そうなった。味の改良を経て、やっと順調にいき始めた東京のお店を、すぐに手放すことができるのだろうか。

 最終回で、時間がいきなり40年くらいワープしたのには驚いた。それにしても、あの老けメイクはいかがなものか。同じNHKのドラマでも、「鎌倉殿の13人」で大竹しのぶが演じた歩き巫女の老けメイクとは雲泥の違いである。

 沖縄の本土復帰50周年のドラマというなら、戦争で死んだ者、生き残った者、今の沖縄の若者、基地問題、環境問題などを取り混ぜて、いろいろなストーリーができそうである。しかし、そんな切実な沖縄の問題がドラマの中で描かれることは少なかった。見せられたのは、食いしん坊の主人公の身勝手な行動と、ご都合主義のストーリーだった。これではネットで叩かれても仕方がない。最終週で描かれた優子の姉の最期や、遺骨収集をする老人の話などをもっと膨らませてもよかったのではないだろうか。また、まもるちゃんが、実は優子と同じ収容所から来たということが最終回になって知らされた。もっとまもるちゃんの過去を掘り下げるストーリーがあってもよかった。

 同じ沖縄を舞台にした朝ドラだが、「ちゅらさん」には遥かに及ばない。出演者には罪はないだろう。実を言うと、私は「アシガール」の頃から黒島結菜のファンである。上白石萌歌には、ぜひ近いうちに朝ドラの主役をしてもらいたい。私が一番注目した出演者は、智を演じた前田公輝である。今後ブレイクする可能性大と見た。

 上手く作れば傑作になったかもしれない。沖縄を舞台にすれば、胸をうつ沖縄のドラマができる訳ではない。残念だが、子役の稲垣来泉ちゃんが可愛かったということだけを覚えておこう。どこかの政治家に「脚本が破綻している」などと言われないような、もっと「ちむどんどん」する朝ドラを見せてほしい。

*余談だが、山原の比嘉家のセットはよく出来ていた。しかし、山原では本当にあんなオープンな家があるのだろうか?開放的すぎて、夏には虫が入ってこないのだろうか?また、若い女の子が眠っているのに、変質者が出没したりしないのだろうか?疑問に思ったのは私だけ?